肺がんの薬物療法


  • [公開日]2017.11.20
  • [最終更新日]2024.07.19

非小細胞肺がんの化学療法

非小細胞肺がんの薬物療法の中でも、殺細胞性抗がん薬を使った治療を化学療法と言います。薬物療法には他にも、特定の遺伝子異常に合わせた分子標的薬血管新生阻害薬免疫細胞の働きを活性化する免疫チェックポイント阻害薬などがあります。

非小細胞肺がんの化学療法は、肺癌診療ガイドライン2023年版において、プラチナ製剤と第3世代以降の細胞傷害性抗がん薬を併用した治療が基本とされています。化学療法単独で使われれるだけでなく、他の薬物療法との併用としても使われます。

化学療法は、薬物療法の対象である進行期の患者さんだけでなく、切除可能な患者さんに対する術前療法や術後療法として単独あるいは免疫チェックポイント阻害剤との併用で使われることもあります。特に術後療法としては、病変全体径>2cmの術後病理病期IA/IB/IIA期(第8版)の場合、プラチナ併用療法の他、日本ではテガフール・ウラシル配合剤療法が使われます。局所進行III期の患者さんに対する放射線療法と併用しても使われます(化学放射線療法)。

非小細胞肺がんの分子標的治療

従来の抗がん剤には、がん細胞だけでなく、正常細胞にダメージを与え、副作用を起こすという難点がありました。これに対して、がん細胞だけが持つがんの生存・増殖に関与する分子に狙いを定め、その働きを阻害することでがんの増殖を防ごうというコンセプトのもとに開発されたのが分子標的薬です。

非小細胞肺がんにおいては、特定の遺伝子EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、NTRK、KRAS G12C、HER2について検査を行い、遺伝子異常が見つかった場合には、それに応じた分子標的薬が治療薬候補になります。(詳細は別記事
をご覧ください。)

ドライバー遺伝子に対する分子標的薬を初回治療として実施した場合には、増悪後の2次治療として全身状態に応じて細胞傷害性抗がん薬が使われます。逆に、NTRK融合遺伝子陽性、HER2遺伝子変異陽性、KRAS 遺伝子G12C変異陽性に関しては、ドライバー遺伝子変異/転座陰性例の初回治療に準じて治療を実施し(次の項目参照)、2次治療以降に各分子標的薬を使います。

また、もうひとつ肺がんで使われる分子標的薬として、血管新生阻害剤があります。具体的には、血管内皮細胞増殖因子VEGF)に対する抗体薬であるアバスチン(一般名:ベバシズマブ)、VEGF受容体に対する抗体薬であるサイラムザ(一般名:ラムシルマブ)が臨床応用されています。

非小細胞肺がんの免疫療法

がん細胞には免疫細胞の攻撃から逃避する様々ながん免疫逃避機構があり、その主なものとして、CTLA-4経路とPD 1/PD-L1経路があります。現在それぞれの経路を阻害する抗体薬(抗PD-1/PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体)が臨床応用されています。

ドライバー遺伝子変異/転座陰性症例に関しては、組織型とPD-L1発現率を基準に免疫治療を実施します。

PD-L1≧50%以上でパフォーマンスステータスPS)が0/1の場合には、抗PD-1抗体キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)単剤、抗PD-L1抗体テセントリク(一般名:アテゾリズマブ)単剤、またはプラチナ製剤+PD-1/PD-L1阻害薬の併用を行うよう推奨されています。具体的には、非扁平上皮がんでは、CDDP/CBDCA+PEM+キイトルーダまたはCBDCA+PTX+アバスチン(一般名:ベバシズマブ)+テセントリク、CBDCA+nab-PTX+テセントリクが推奨され、扁平上皮がんでは、CBDCA+PTX/nab-PTX+キイトルーダが推奨されています。

PD-L1が1-49%でPSが0/1の場合には、プラチナ製剤+PD-1/PD-L1阻害薬併用療法を行うよう推奨されています。具体的には、非扁平上皮がんでは、CDDP/CBDCA+PEM+キイトルーダまたはCBDCA+PTX+BEV+テセントリク、CBDCA+nab-PTX+テセントリクが推奨され、扁平上皮がんでは、CBDCA+PTX/nab-PTX+キイトルーダが推奨されています。

また、プラチナ製剤+オプジーボ(一般名:ニボルマブ)+抗CTLA-4抗体ヤーボイ(一般名:イピリムマブ)、プラチナ製剤+抗PD-L1抗体イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)+抗CTLA-4抗体イジュド(一般名:トレメリムマブ)、抗PD-1抗体オプジーボ+ヤーボイが提案されています。

PD-L1が1%未満でPSが0/1の場合には、プラチナ製剤+PD-1/PD-L1阻害薬併用療法を行うよう推奨されています。また、オプジーボ+ヤーボイ、あるいはプラチナ製剤+オプジーボ+ヤーボイ併用療法、プラチナ製剤+イミフィンジ+イジュドを行うよう提案されています。

薬物療法の副作用

化学療法は、増殖速度の速いがん細胞の核の中に入り、DNAや微小管等に作用し抗腫瘍効果を発揮します。そのため、正常な細胞でも、分裂速度の速い骨髄の細胞、口腔や胃腸の粘膜等は、化学療法の影響を大きく受けてしまう傾向があります。

化学療法による主な副作用の発現時期には違いがあります。まず投与直後にあらわれるのは、急性悪心・嘔吐等です。投与翌日から1週間以内には、遅発性悪心・嘔吐、便秘等が発現しやすい傾向にあります。更に1‐2週後には、骨髄抑制や口腔粘膜障害が現れ、3週以降では脱毛、神経障害が現れてきます。使う薬剤の種類や投与量、また個人差によって副作用の発現時期や程度は異なりますが、出現しやすい副作用やその対処法についても知っておき、できるだけ治療を中断せずに続けられるよう主治医とよく相談していくことが大切です。

分子標的薬は、化学療法と比較して副作用が少ないと考えられていますが、治療標的となるタンパク質に関連した副作用には注意が必要です。具体的には、下痢、皮膚障害、肝機能障害、悪心、嘔吐、倦怠感などが挙げられますが、各薬剤によって副作用プロファイルが異なるため、自身が使っている薬剤で発現し得る副作用を事前に把握しておくことが大切です。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞を再活性化する作用を持つため、全身の免疫が過剰に働くことによる副作用が現れることがあります。この免疫に関連した副作用は「免疫関連有害事象irAE)」と呼ばれ、皮膚、消化管、肝臓、肺、ホルモン産生臓器に多く発現する傾向がありますが、全身のどこにでも副作用が生じ得ることは知っておく必要があります。一般的には、間質性肺炎、大腸炎、1型糖尿病、甲状腺機能障害などのホルモン分泌障害、肝・腎機能障害、皮膚障害、重症筋無力症、筋炎、ぶどう膜炎などの副作用が報告されています。

また、抗体薬に分類される分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬においては、投与開始後24時間以内に過敏性反応が出ることがあり、これをInfusion reactionと呼んでいます。主な症状として、発熱、悪寒、頭痛、皮膚掻痒感や発疹、せき、めまいなどに注意が必要です。

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