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2016.12.16

オンコロな人インタビュー「国際医療経済学者 ステージIIIBのがんになる。」アキ よしかわ さん Vol.3

聞き手:柳澤 昭浩(がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャー)

医学の発展には、医師・研究者と患者、双方の力が不可欠です。医師・研究者でなければ気付きえない部分がありながら、当事者からしか見えない事実が存在しています。

Vol.1、Vol.2に引き続きお話をうかがうのは、国際医療経済学者でステージIIIBの大腸がん体験者でもあるアキよしかわさん。アキよしかわさんは今年の6月、新著「日米がん格差」を出版されました。3回目の今回は、「米国と比較した日本の病院」「フレーミング効果とは?」についてうかがい、アキさんの生き方や働き方についてもお聞きします。(全3回/最終回)

第1回記事:オンコロな人インタビュー「国際医療経済学者 ステージIIIBのがんになる。」アキ よしかわ さん Vol.1 を読む

第2回記事:オンコロな人インタビュー「国際医療経済学者 ステージIIIBのがんになる。」アキ よしかわ さん Vol.2 を読む

“ルール”によって縛られ、そして守られてもいる日本の病院


柳澤:Vol.1ではご自身のがんの体験について、Vol.2では日米の医療を比較したことで見えてくる日本の医療についてうかがいました。どちらも非常に興味深いお話でしたね。今回で最終回となりますが、引き続き、これまで聞いたことのないような医療のお話を期待しています(笑)。
 
まず、「日本の病院の今」についてうかがいます。日本の病院は、さまざまなルールがあることによって「広告が出せない」「データで優位性を示せない」など、競争がしにくくなっています。そのため、病院としてはモチベーションが上がらないという話も聞きますが、米国との違いはあるのでしょうか。

アキ:日本は診療報酬制度下、情報開示も様々な規制で抑えられている部分があるために、非価格競争、それも“医療の質以外の非価格競争”で優位性を示さざるを得なくなっています。「うちの病院は建物がきれい」とか、「うちではPET検査ができる」といったことで競争してしまいます。

米国の場合は、情報開示が前提ですので、「この病気の治療件数はこれくらいで、この治療法ではこんな結果となった。ほかの病院との違いはこれくらい」などのデータや、「これだけ整ったキャンサーナビゲーション(※)のプログラムがあります」などで競争しています。ある意味、“質の競争”ですね。米国の病院は、それがやり易い環境になっています。(※米国の患者サポートサービス/Vol.1を参照)
 
日本の病院は優位性を示しにくいためか、半径約3〜4kmの範囲に住む患者さんしか来てくれないことが多いですが、米国の一流病院は飛行機で患者がやって来ます。

以前、こんな話もありました。サウジアラビアの王様が、米国ミネソタ州にあるメイヨークリニックにジャンボジェットで来院したいということになり、そのために病院が滑走路を増設しました。そして病院の医療に感動した王様は、メイヨークリニックにワンフロアを贈ったといいます。そんな面白い逸話もありますね。

柳澤:面白いですね。しかし、日本はルールがあるために、なかなかそういった突飛なことにはなりにくいですね(笑)

アキ:そうですね。逆に日本の病院は、そのルールに守られている部分もあります。例えば、成績がかんばしくない病院ですね。成績のいい病院のデータを出さないということは、成績の悪い病院を守っていることになります。そのため、日本の病院は成績にバラつきがあるまま残ってしまっています。

もしも成績を出したとしたら、成績の悪い急性期医療機関へ行く患者は激減し、経営が立ち行かなくなるでしょうね。おそらく、そのことを恐れている病院経営関係者や行政関係者もいるのではないでしょうか。しかし、治療成績等の開示は、これからは避けることのできない大きなベクトルの流れだと思います。

医師の表現によって、患者の選択が変わる!? 「フレーミング効果」とは

柳澤:著書に登場するキーワードに「フレーミング効果」というものがありますね。それはどのようなものでしょうか。

アキ:フレーミング効果とは、 “表現の違いによって、意思決定に影響を及ぼすこと”を言います。もともとは行動経済学の言葉ですが、医療にも当てはまります。例えば、「A先生は1000人の手術を行い、そのうち950人以上が5年以上生存しています」と「B先生は1000人の手術を行い、そのうち50人が5年未満で亡くなっています」とでは、実は同じ内容なのに、A先生に執刀をお願いしたいと思う、というようなことです。

フレーミング効果は、医師などが患者に治療の選択肢を提示する時に気を付けなければなりません。それはキャンサーナビゲーターも同様です。ナビゲーターは診断を行うことはありませんが、どういう治療法があるかという説明をしなくてはいけませんので。どちらも、表現の仕方によっては患者の意思決定に影響を与えてしまうことになりますから、注意が必要です。

柳澤:日本では最近、著名人の病気治療の話題がたびたび報道されています。それらの多くは、見事にフレーミング効果に当てはまっているな、と思うのですが。

アキ:そうですね。ガイドラインから逸脱した治療法を選んでしまうこともありますし、結果として悔いが残ってしまう方もいるかもしれません。

柳澤:冷静に考えれば分かることでも、実際にそのような状況に置かれてしまっている時には正確な判断が難しくなることもありますね。それでは最後に、アキさんが考える「日本の医療」をひと言でお願いします。

アキ:私は日本の医療を客観的に研究してきた人間です。素晴らしいなと思うところもあるし、こうしたらもっとよくなるのにと思うところもあります。日本のいいところは「支え合い」ですが、悪く言えば「おまかせ」「おまかされ」の医療になっています。そのバランスをいかにとっていくかが今後の課題ですね。

柳澤:日米の医療を長年、比較・研究し、ご自身もがんを体験されたアキさんに、さまざまな興味深いお話をうかがいました。長い時間ありがとうございました!

インタビュー後のフリートーク

柳澤:医療のお話とは別に、アキさんの生き方や働き方についてもうかがいたいと思います。アキさんが現在されている仕事の一つに「コンサルティング」がありますが、大学の研究者からコンサルタントに転向した経緯を教えてください。

アキ:私は30代の末に、それまで順風満帆でやりたい放題だった大学のキャリアが突然に終わる、という人生の危機的状態に直面しました。意気消沈し、「私に残されているのは家族だけだ」と思ったんです。その時、まず、妻のナンシーにものすごく怒られました。「あなたに一番大切なのは何?家族でしょう?その家族のために一生懸命働いているのに、『残されているのは家族だけ』というのはおかしいんじゃない?」と言われたんです。

それまでは深い霧の中をさまよっているような気持だったのですが、そのナンシーの一言でサッと目が覚めました。「本当にそうだ。一番大切なものは家族じゃないか。何をこれまでクヨクヨしていたんだ」と。それと同時に、親友であり医療コンサルタントのマイケル・カルフーン(※)がやってきてこう言ったんです。

「そもそも、君が学者になったのは間違いなんだ。君のように型破りで破天荒なことばかりやっている人間は大学には向かない。一緒にコンサルティングをやろう」と。この言葉に、ほめられたらすぐ調子にのる私は、「あ、そうだったのか」と気付き(笑)、そこから第二の人生が始まりました。学者としてやっていた分析を民間で行い、それを一般の人に分かるようにしていくコンサルタントに転向しました。(※マイケル・カルフーン氏は、2009年、がんで亡くなった)

柳澤:働き方の意味・意義・方法は、最近の日本でも変わってきていますね。

アキ:そうですね。しかし変化してきているとはいえ、日本はまだ、生き方が画一的ですよね。一流大学を出たら、一流企業か官公庁へ行くのが常識的な“大人の選択”であり、大学を中退して何か好きな事を始めるなんてことがしにくい社会です。だからビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような人も日本では生まれにくい。

それをもっと促進しましょう、ということで、経産省が「ワークライフバランス」やベンチャーの創生などを唱えるようになってきていますが、そもそも「一流大学を出て、経産省で働こう」というメンタルの官僚が、“ベンチャー”や“自由な生き方”を論じるのはものすごくシュールで世紀末的だと感じます(笑)。

柳澤:個性を“主張しづらい”だけでなく、“主張しようとしない”人も多いですね。

アキ:日本では、人と違うことを好まない若者が増えている気がします。アメリカでは私が若いころはもちろん、今でも人と違うことがかっこいいというのがあります(笑)。「人と同じがいい」というのは、個性の無さであり、たくましさの無さだと思います。そのあたりに、ちょっと日本の将来に不安を覚えるところがありますね。

私は、個人の価値観や特性を伸ばしていくことが教育だと思っています。それぞれに違う人生がありますし、違う人生の終え方があります。そのような「多様性」を維持していくためには、「個人の力やたくましさ=個性」を守っていくことが大切ではないかと思います。

柳澤:生き方や働き方を参考にする意味でも、若い人にアキさんの本を読んでみてもらいたいです。改めて、本日はありがとうございました!

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アキ よしかわ(米国グローバルヘルスコンサルティング 会長・大腸がんサバイバーの国際医療経済学者、データサイエンティスト)

10代で単身渡米し、医療経済学を学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学で教鞭を執り、スタンフォード大学で医療政策部を設立する。米国議会技術評価局(U.S. Office of Technology Assessment)などのアドバイザーを務め、欧米、アジア地域で数多くの病院の経営分析をした後、日本の医療界に「ベンチマーク分析」を広めたことで知られる。
著書に『Health Economics of Japan』(共著、東京大学出版会)、『日本人が知らない日本医療の真実』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『日米がん格差』(講談社)などがある。

柳澤 昭浩(コンテンツ・マネージャー)

18年間の外資系製薬会社勤務後、2007年1月より10期10年間に渡りNPO法人キャンサーネットジャパン理事(事務局長は8期)を務める。先入観にとらわれない科学的根拠に基づくがん医療、がん疾患啓発に取り組む。2015年4月からは、がん医療に関わる様々なステークホルダーと連携するため、がん情報サイト「オンコロ」のコンテンツ・マネージャー、日本肺癌学会チーフ・マーケティング・アドバイザー、株式会社クリニカル・トライアル、株式会社クロエのマーケティングアドバイザー、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の代表社員などを務める。

(写真/文:木口マリ)


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