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ニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)について
オプジーボとキイトルーダの適応状況
昨今話題の免疫チェックポイント阻害薬。2017年9月28日現在、日本で承認されている免疫チェックポイント阻害薬は抗CTLA-4抗体であるイピリムマブ(商品名ヤーボイ)、抗PD-1抗体であるニボルマブ(商品名オプジーボ)およびペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)の3剤である。中でも、抗PD-1抗体の2剤は多くのメディア取り上られている話題の薬剤である。 これらの承認状況は以下の通り。(ただし、承認されていても実際に使用できない可能性があり、担当医への確認が必要) ニボルマブ(商品名オプジーボ) 根治切除不能な悪性黒色腫、切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌、根治切除不能又は転移性の腎細胞癌、再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫、再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌、がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌 ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ) 根治切除不能な悪性黒色腫、PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌オプジーボとキイトルーダの作用機序
ニボルマブ(商品名オプジーボ)やペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)は、抗PD-1抗体という免疫チェックポイント阻害薬の一種であり、免疫系に作用するタイプの薬剤となる。近年、がん細胞が免疫系の攻撃から逃れるための様々なメカニズムを有していることがわかってきた。その1つに、免疫細胞ががん細胞を攻撃する際にブレーキをかける機能が明らかになり、PD-1・PD-L1伝達経路といわれる。がん細胞上のPD-L1というタンパク質と免疫細胞上のPD-1というタンパク質が結合することにより、免疫細胞が攻撃を抑える。この作用を免疫チェックポイントといい、それを阻害する薬剤が免疫チェックポイント阻害薬という。 MSD株式会社ホームページよりオプジーボとキイトルーダを直接比較した試験は存在しない
本来ならばニボルマブ(商品名オプジーボ)とペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)を直接比較した臨床試験がこの世に存在すれば、その違いは簡単に明らかになるのだが、残念ながら2017年8月29日現在ですべてのがん種においてそのような臨床試験は存在しない。 そのため、オプジーボとキイトルーダの臨床的な違いは真の意味では明らかにできない。しかし、試験デザインが酷似している臨床試験の結果を比較することで、ある程度の臨床的な違いは見えてくる。 なお、有効性が確認されているとは、2017年9月28日現在でオプジーボを開発した小野薬品工業株式会社およびブリストル・マイヤーズスクイブ、とキイトルーダを開発したメルク・アンド・カンパニーが主導する第III相試験における主要評価項目の結果が公表されていることと定義する。非小細胞肺がんに対するニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)の違い
非小細胞肺がんに対する承認状況は、ニボルマブ(商品名オプジーボ)では「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)では「PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」となる。 非小細胞肺がんに対して有効性が確認されているオプジーボとキイトルーダの臨床試験は下記表の通りである。 全部で5つの臨床試験がある。各臨床試験では、肺がんの治療方針に準じて肺がんの組織型(小細胞がん/非小細胞肺がんなど)、進行度合(ステージI / II / III / IVなど)に応じて、オプジーボまたはキイトルーダが投与されている。 5つの臨床試験はステージIV非小細胞肺がんの患者を対象としている点で共通しているが、治療ラインが一次治療なのか?二次治療以降なのか?により2つに分けることができる。ステージ4非小細胞肺がん一次治療に対するオプジーボとキイトルーダ
一次治療としてステージIV非小細胞肺がん患者に対し、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法の有効性が標準化学療法と比較して検証された臨床試験は、オプジーボのCheckMate-026試験(NCT02041533)、キイトルーダのKEYNOTE-024試験(NCT02142738)がある。 この2つの臨床試験は試験デザインが酷似しているが、試験結果には違いが出た。 2つの臨床試験の主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の結果である。オプジーボのCheckMate-026試験では、無増悪生存期間(PFS)の中央値がオプジーボ群4.2ヵ月に対して、化学療法群5.9ヵ月(ハザード比[HR]1.15、P=0.25)と標準化学療法に対するオプジーボの有効性が認められなかった。 一方、キイトルーダのKEYNOTE-024試験では、無増悪生存期間(PFS)の中央値がキイトルーダ群10.3ヵ月に対して、化学療法群6.0ヵ月(ハザード比[HR]0.50、P<0.001)と標準化学療法に対するキイトルーダの有効性が確認された。 以上の2つの臨床試験の結果を受け、ステージIV非小細胞肺がんの一次治療として免疫チェックポイント阻害薬単剤療法を実施する場合、オプジーボでなくキイトルーダが推奨されている。肺がんに対するオプジーボとキイトルーダの違いとなる。 なお、この2つの臨床試験の試験デザインは酷似しているが、免疫チェックポイント阻害剤の効果予測因子の1つであるPD-L1発現腫瘍細胞の比率は異なっていた。ニボルマブ(オプジーボ)がPD-L1発現率5%以上であるのに対して、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)はPD-L1発現率50%以上の患者を対象として無増悪生存期間(PFS)の中央値を算出している。ゆえに、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)はPD-L1発現率50%以上の患者が適応となる。 ※補足:Checkmate-026試験では、PD-L1発現率50%以上の患者はオプジーボ群が32.5%(271名中88名)、化学療法群が46.7%(270名中126名)であり、不均一であった。全生存期間に関して、Checkmate-026試験の化学療法群のクロスオーバー(二次治療でオプジーボを使用)した割合は60%である一方、KEYNOTE-024試験の化学療法群のクロスオーバー(二次治療でキイトルーダを使用)した割合は43.7%であった。 <関連オンコロニュース> 進行非小細胞肺がん初回治療、キイトルーダ有効性を確認、オプジーボはセレクションが必要 ESMO2016(2016.10.11) 非小細胞肺がん初回治療、キイトルーダ単独または併用療法で最長2年以上の長期フォローアップ最新データと日本人データ ASCO2017×JSMO2017(2017.07.29)ステージ4非小細胞肺がん二次治療に対するオプジーボとキイトルーダ
二次治療としてステージIV非小細胞肺がん患者に対し2つの免疫チェックポイント阻害薬単剤の有効性が標準化学療法と比較して検証された臨床試験は、ニボルマブ(商品名オプジーボ)のCheckMate-017試験(NCT01642004)、CheckMate-057試験(NCT01673867)、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)のKEYNOTE-010試験(NCT01905657)がある。 この3つの臨床試験は試験デザインは酷似しているが、試験の結果はオプジーボもキイトルーダも主要評価項目である全生存期間(OS)の中央値が標準化学療法と比較して有意に延長する結果が出ている。 扁平上皮非小細胞肺がん対象としたCheckmate-017試験の全生存期間(OS)はオプジーボ群9.2か月、ドセタキセル群6.0か月(ハザード比[HR]0.59、P<0.0001)、非扁平上皮非小細胞肺がん対象としたCheckmate-057試験の全生存期間(OS)はオプジーボ群12.2か月、ドセタキセル群9.4.か月(ハザード比[HR]0.73、P=0.002)、PD-L1発現率1%以上非小細胞肺がん対象としたKEYNOTE-010試験の全生存期間(OS)はキイトルーダ群10.4か月、ドセタキセル群8.5か月(ハザード比[HR]0.54、P=0.0002)であった。 以上のように、肺がんに対するオプジーボとキイトルーダの違いは、ステージIV非小細胞肺がん一次治療での有効性においてはあるが、ステージIV非小細胞肺がんニ次治療での有効性においては(PD-L1発現条件のちがいはあるものの)、ないと考えられる。 <関連オンコロニュース> 非扁平上皮非小細胞肺がん ニボルマブ(オプジーボ) 生存期間延長 ASCO2015(2015.06.02) 扁平上皮非小細胞肺がん オプジーボ 長期フォローアップ結果 WCLC2015 非小細胞肺がん 免疫チェックポイント阻害薬PD-1抗体ペムブロリスマブ(キイトルーダ) 生存期間を延長 Lancet(2016.01.11) PD-1抗体キイトルーダ発売、厚労省はオプジーボと共に最適使用推進ガイドラインを作成(2017.02.15) 非小細胞肺がん キイトルーダの長期生存率25%を弾き出す治癒モデル(2017.03.13)頭頚部がんに対するニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)の違い
頭頚部がんに対する承認状況は、ニボルマブ(商品名オプジーボ)では「再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌」となり、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)では承認されていない。 頭頚部がんの一種である頭頚部扁平上皮がんに対して有効性が確認されている第III相試験は、オプジーボのCheckmate-141試験(NCT02105636)のみである。 本試験では、プラチナ製剤抵抗性のステージIV頭頚部扁平上皮がん患者に対してニボルマブ(オプジーボ)単剤剤療法、または治験担当医が選択した化学療法(メトトレキサート、ドセタキセル、セツキシマブ)を実施し、主要評価項目である全生存期間(OS)を比較検証している。 その結果、全生存期間(OS)の中央値は化学療法群5.1か月に対して、オプジーボ7.5か月と有意に延長した(ハザード比:0.70、P=0.01) 一方、キイトルーダは、オプジーボと同じく、プラチナ製剤抵抗性のステージIV頭頚部扁平上皮がん患者に対してキイトルーダ単剤剤療法、または治験担当医が選択した化学療法(メトトレキサート、ドセタキセル、セツキシマブ)を比較する第III相試験となるKEYNOTE-040試験(NCT0225204)を実施したが、主要評価項目である全生存期間(OS)において有効性を証明できなかった。(ただし、現在、ステージIV頭頚部扁平上皮がん患者に対する初回治療としてキイトルーダを使用する第III相試験(KEYNOTE-048)が実施中である) 以上の結果から、2017年9月28日現在でステージIV頭頚部扁平上皮がんの標準治療後の治療としての有効性が高い科学的根拠を持って証明されているのはオプジーボである。 <関連オンコロニュース> 頭頸部扁平上皮がん オプジーボ プラチナ製剤治療後に進行した患者に比べ死亡リスク低下 NEJM(2016.10.21) 再発又は遠隔転移を有する頭頸部扁平上皮がん患者に対するキイトルーダ単剤療法の全生存期間(OS)延長が認めらず(2017.07.28)胃がんに対するニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)の違い
胃がんに対する承認状況は、ニボルマブ(商品名オプジーボ)は承認申請済み、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)は承認申請されていないが先駆け審査制度にによち優先審査指定されている。 胃がんに対して有効性が認められている第III相試験はオプジーボのONO-4538-12試験(NCT02267343)の1つのみである。 本試験では、標準治療後のステージⅣ胃がん患者に対してオプジーボ単剤療法、またはプラセボ療法を実施し、主要評価項目である全生存期間(OS)を比較検証している。 その結果、全生存期間(OS)の中央値はプラセボ療法群4.14か月に対して、オプジーボ単剤療法群5.32か月と有意に延長(p<0.0001)した。 以上の結果から、2017年9月28日現在でステージIV胃がんの標準治療後の治療としての有効性が高い科学的根拠を持って証明されているのはオプジーボである。 なお、オプジーボは、9月22日に「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌」の適応にて承認された。 <関連オンコロニュース> 進行胃がん 3次治療以降としてオプジーボが有望 ASCO-GI2017(2017.01.20)尿路上皮がん(膀胱がん等)に対するニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)の違い
尿路上皮がん(膀胱がん、尿管がん、尿道がん、腎盂がん)の承認状況は、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)が承認申請済み、ニボルマブ(商品名オプジーボ)は承認申請されていない状況である。 尿路上皮がんに対して有効性が認められている第III相試験はキイトルーダのKEYNOTE-045試験(NCT02256436)の1つのみである。 本試験では、プラチナ製剤化学療法投与後のステージIV尿路上皮がん患者に対してキイトルーダ単剤療法、または標準化学療法(パクリタキセル/ドセタキセル/ビンフルニンのいずれか)を実施し、主要評価項目である全生存期間(OS)を比較検証している。 その結果、全生存期間(OS)の中央値は標準化学療法(パクリタキセル/ドセタキセル/ビンフルニンのいずれか)群7.4ヶ月に対して、キイトルーダ単剤療法群10.3ヶ月と有意に延長(ハザード比 [HR] 0.73、P=0.002)した。 以上の結果から、2017年9月28日現在でステージIV尿路上皮がんの二次治療としての有効性が高い科学的根拠を持って証明されているのはキイトルーダである。 <関連オンコロニュース> 進行・転移性尿路上皮がん(膀胱がん、腎盂がん等) キイトルーダ 承認申請 ~免疫チェックポイント阻害薬として同領域初となる~(2017.04.28) 尿路上皮がん キイトルーダが二次治療で有効、初回療法では化学療法より有望な可能性 NEJM&ASCO-GU2017<動画有>(2017.03.22)ニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)の違いとは
以上のように、同じ作用機序を持つ免疫チェックポイントのニボルマブ(商品名オプジーボ)とペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)であってもその有効性には違いがある。 ステージIV非小細胞肺がんの一次治療においてはキイトルーダが有効であり、ステージIV頭頚部がんの二次治療においてはオプジーボが有効であり、ステージIV胃がんの標準治療後の治療においてはオプジーボが有効であり、ステージIV尿路上皮がんの二次治療においてはキイトルーダが有効であることが、第III相試験の結果で高い科学的根拠を持って証明されている。 この4つのがん種以外では、2017年8月29日現在で第III試験の結果が明らかでないためオプジーボとキイトルーダの臨床的な違いを見出すのは難しい。 しかし有効性以外では、例えば投与間隔がオプジーボが2週間隔で1回の投与スケジュールであるのに対して、キイトルーダが3週間隔で1回の投与スケジュールで承認されている。 有効性においてオプジーボとキイトルーダの2剤に大きな違いがない場合、投与間隔のように患者の通院負担に関係する因子が重要になってくる可能性もある。 しかし、2017年7月24日、オプジーボは4週間隔に1回のスケジュールで投与するための生物製剤承認一部変更申請(sBLA)を米国食品医薬品局(FDA)へ提出している。この申請が米国食品医薬品局(FDA)より認められるのは2018年3月5日を予定しているので、オプジーボとキイトルーダの違いを理解するうえで、この最終決定の結果は重要な因子の1つになるであろう。税金からみるニボルマブ(オプジーボ)とペムブロリズマブ(キイトルーダ)の違い
販売会社がニボルマブ(商品名オプジーボ)は日本企業の小野薬品であるが、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)は外資系企業のMSDであることは大きく異なる 抗PD-1抗体の薬剤費は国家を破綻するとまで言われるほど高い薬剤となる。例えば、オプジーボを1年間投与すると1人あたり約1500万円から2000万円かかるとされている。 これほど高い薬を売り上げれば、さぞかし販売会社の利益は上がると予想できるが、日本は儲かれば儲かった分だけ課税額が増える法人税率を企業に課している。 そのため、オプジーボを2016年に1000億円以上売り上げた小野薬品はそれなりの法人税を納めねばならない。 一方、外資系企業のMSDはどうかというと、小野薬品と同程度の抗PD-1抗体を売っても同程度の法人税を納める必要はない。 大手製薬企業にみる実効税率の国際比較 上記記事によれば、法人税率と実効税率の格差が国内企業と外資系企業にあるとされる。外資系企業は税金対策をしこしこと実施しているため、結果として同額の薬を売っても国内企業ほど税金を納めてないこととなる。マンガで学ぶ免疫チェックポイント阻害薬
キイトルーダ、オプジーボ等、免疫チェックポイント阻害薬と免疫療法について解説したマンガ。 [blogcard url="https://oncolo.jp/news/20170215t-2"] 監修・アドバイス:慶応義塾大学医学部先端医科学研究所 河上 裕 先生、北里大学医学部新世紀医療開発センター 佐々木 治一郎 先生≪こちらのメルマガにてオプジーボやキイトルーダに関する最新情報配信中≫
記事:山田 創 (加筆・修正・更新:可知 健太)