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新薬の開発進む中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)の治療キャンサーネットジャパン・オンライン血液がんフォーラム2020


  • [公開日]2020.09.10
  • [最終更新日]2020.09.23

 患者支援団体の認定NPO法人キャンサーネットジャパンが、8月29日~30日、「オンライン血液がんフォーラム2020」を開催した。「中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)」のセッションでは、国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科長の伊豆津宏二氏と杏林大学医学部付属病院脳神経外科臨床教授の永根基雄氏が、PCNSLの診断と標準治療、最新治療について講演した。

標準治療はメトトレキサート基盤の化学療法

 PCNSLは、脳など中枢神経系にできるリンパ腫だ。ほとんどが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫というタイプだが、中枢神経以外の場所にできる同タイプのリンパ腫の標準治療であるR-CHOP療法とは異なった治療が行われる。

「一部の抗がん剤が脳に届きにくい血液・脳関門という仕組みがあるため、メトトレキサート大量療法(MTX)を含む多剤併用療法を行うのが標準治療です。地固め療法として、減量全脳照射(放射線治療)か従来の線量の全脳照射、シタラビン大量療法、自家造血幹細胞移植(自家移植)併用大量化学療法を行うことがあります」

 そう話す伊豆津氏によると、化学療法全体で問題になる副作用は吐き気、骨髄抑制だ。骨髄抑制が起こると、好中球、白血球が減少して感染症のリスクが高まる。メトトレキサート大量療法の主な副作用には、口内炎や下痢などの粘膜障害、腎障害、肝障害などがある。メトトレキサートを用いた治療では、副作用を軽減するために活性葉酸ホリナート(商品名・ロイコボリン)を点滴投与するロイコボリンレスキューが行われる。

R-MPV療法で全脳照射を回避か減量する方向に

 PCNSLに対しては、古くから全脳照射が行われてきた。メトトレキサート大量療法では全脳照射を併用したほうが、再発リスクは低くなるが、認知機能障害が出る「白質脳症」という副作用が出やすくなるのが難点だ。特に高齢者は白質脳症を発症するリスクが高い。

「全脳照射を回避、あるいは減量する方法として開発されたのが、リツキシマブ(R)、メトトレキサート(M)、プロカルバジン(P)、ビンクリスチン(V)を併用したR-MPV療法です。国内主要施設のうち多くの病院が、PCNSLの寛解導入療法としてR-MPV療法を5~8サイクル実施した後、可能な場合地固め療法としてシタラビン大量療法も行い、全脳照射はできるだけ行わない方向になってきています」。永根氏は、そう説明した。

 米国のメモリアルスローンケタリングがんセンターでPCNSLの患者52人を対象にR-MPV療法を実施した臨床試験では、34例(79%)で完全に腫瘍が消え、腫瘍が半分くらいになった人も含めると奏効割合は93%。R-MPV療法で腫瘍が消え、減量した全脳照射を行った患者では、腫瘍が再発せずに安定した状態を保つ無増悪生存期間は平均7.7年だった。

「R-MPV療法(場合によっては減量全脳照射を追加)は、メトトレキサート大量療法に全脳照射を併用した場合に比べても、無増悪生存期間、全生存期間が長く、治療成績が良好です。70歳以上の高齢者でも同様なので、可能ならR-MPV療法を行います。高齢者の場合は、メトトレキサート大量療法に経口アルキル化薬を追加し、全脳照射は実施せずに治療することが勧められます」と永根氏は解説した。

チラブルチニブが再発・難治性PCNSL治療の新たな選択肢に

 再発・難治性のPCNSLに対しては、寛解導入療法から1年~数年以上経っている場合には、最初の治療と同じようにメトトレキサート大量療法かR-MPV療法などメトトレキサート基盤の化学療法、あるいは、自家移植併用大量化学療法が検討される。寛解導入療法の効果がなかった場合や1年以内など早期に再発した場合には、メトトレキサートを含まない治療、それに引き続き、可能なら自家移植併用大量療法が行われる。

今年3月に承認されたBTK阻害薬のチラブルチニブ(商品名・ベレキシブル)も再発治療の有力な選択肢の一つだ。

「チラブルチニブは内服薬で、PCNSLを増殖させる信号を伝えるBTKというタンパクの働きを阻害する薬です。再発・難治性のPCNSLの患者さん44例を対象にした国内の第I/II相試験では奏効割合52.3%、リンパ腫が完全に消えた患者さんは35.2%でした。多くの患者さんで投与から4週間くらいで腫瘍が半分以上小さくなり、無増悪再発期間は約半年です。新しい薬なので長期成績は分かっていませんが、長期間、効果が持続している患者さんもいます」(永根氏)

 チラブルチニブの主な副作用は、ニューモシステス肺炎やアスペルギルスというカビの一種によるアスペルギルス症などの感染症、重度の皮膚障害、間質性肺炎などだ。頻度は低いが肝機能障害も報告されている。

再発時には自家移植併用大量化学療法の選択肢も

 一方、自家移植併用大量化学療法では、救援化学療法を実施した後、患者さん自身の造血幹細胞(末梢血幹細胞)を採取して凍結する。大量化学療法でリンパ腫を徹底的に叩き、凍結しておいた自己造血幹細胞を移植して造血機能を回復させる治療法だ。

「大量化学療法では、ブスルファンとチオテパ併用療法を行います。PCNSLに対しては、チオテパを用いたほうが再発リスクは低いことが分かっていますが、従来使われていたテスパミン(商品名、2009年製造中止)という薬が2010年頃に市場からなくなっていました。今年3月に、チオテパ(リサイオ点滴静注液)がリンパ腫自家移植前の効能効果で承認され、ブスルファン・チオテパ併用療法が再びできるようになりました」と伊豆津氏は話す。チオテパの薬事承認によって、PCNSLでも効果の高い自家移植併用大量化学療法が受けられるようになったのは朗報だ。

 ただし、高齢者や、若年者でも重い臓器障害、高度な身体活動量の低下(寝たきり)などがあると、致命的な副作用リスクが高まるため、自家移植併用大量化学療法は勧められないという。PCNSLは高齢者に多い病気なので、自家移植が受けられる人は限られる。高齢者の再発治療では、チラブルチニブ、または、メトトレキサートを基盤とした化学療法が選択肢になる。

CAR-T細胞療法、リツキシマブ維持療法の適用は?

 血液がんフォーラムの参加者からは、「寛解導入療法で腫瘍が消えた場合の維持療法として、リツキシマブは選択肢になるか」という質問が寄せられた。

 これに対し、永根氏は、「脳にリンパ腫があるときには血液・脳関門が壊れているのでリツキシマブの有効性が期待できますが、腫瘍が消えた場合には血液・脳関門が修復されている可能性が高いため、リツキシマブ維持療法の有効性は高くないと考えられます」と回答した。

 

 また、「CAR-T細胞療法は、PCNSLに適用になるのか」との質問も。伊豆津氏は、「国内で使えるCAR-T細胞療法には、チサゲンレクルユーセル(商品名キムリア)がありますが、今のところPCNSLに対する有効性は確立していません。このため、CAR-T細胞療法は、PCNSLに対しては臨床試験以外では使えません。現在行われている臨床試験の結果次第では、将来、PCNSLにもCAR-T細胞療法が使えるようになる可能性があります」と話した。

 永根氏は、「PCNSLは、神経膠芽腫など脳にできる悪性腫瘍に比べると薬物療法が有効な腫瘍です。分子標的治療や免疫調節薬など、さらに新しい治療薬の開発を進めていくのが我々の責務だと考えています」と強調。伊豆津氏も、「脳腫瘍診療ガイドラインの普及によって、PCNSLの標準治療を実施できる病院は増えています。治療選択が必要な場面になったら、必要に応じてセカンドオニオンも活用して、ぜひ、正しい情報を集めてください」と語り、PCNSLのセッションは終了した。

(取材・文/医療ライター・福島安紀)

キャンサーネットジャパン・オンライン血液がんフォーラム2020


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