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肺がんのゲノム(遺伝子)医療|遺伝子のタイプ別の治療法


  • [公開日]2018.10.11
  • [最終更新日]2019.03.08

プレシジョン・メディシン;遺伝子異常に合わせた薬物治療

2000年ごろまで、肺がんの薬物療法は、小細胞肺がんと非小細胞肺がんの大きく2つに分けられているだけした。肺がんの約90%を占める非小細胞肺がんの患者さんに薬物療法か必要になったときには、一般的な抗がん剤による一律の治療が行われていました。

ところが、2002年に、特定の分子(タンパクや遺伝子)をターゲットにした分子標的薬が保険適用になり、その後、その薬がEGFR遺伝子変異のある人に効果があるとわかったため、肺がんの薬物療法は大きく変わりました。

現在では、非小細胞肺がんの中で最も多い腺がんなど非扁平上皮がんの患者さんに対しては、がんの遺伝子の異常を調べて、その結果に応じた薬物療法が行われています。この一人一人のがんの遺伝子の異常に合わせた治療を「プレシジョン・メディシン」「がんゲノム医療」「遺伝子治療」などと呼びます。(本項では「がんゲノム医療」と統一)

2018年から始まった「第3期がん対策推進基本 計画」では「がんゲノム医療」が取り組むべき課題の一つになっていますが、肺がんではすでに保険診療で行われているのです。

なお、肺がんの増殖に関わる遺伝子の異常は、親から子に伝わる遺伝とは関係なく、たばこや化学物質などの影響で起こる後天的な遺伝子の異常です。

■がんゲノム医療 ~現在、未来、その先へ~

非小細胞肺がんは遺伝子タイプによりわけられる

がんの増殖に直接関わる遺伝子をドライバー遺伝子と呼びます。

「ドライバー」は、がんの発症や増殖に関係する「運転手」という意味です。私たちのからだの中の細胞は、がん化して細胞増殖を加速させるアクセルが踏まれたとしても、増殖を抑えるブレーキが働き、正常な状態を保っています。ところが、ドライバー遺伝子の影響で、アクセルが踏みっぱなしになったり、ブレーキがきかなくなったりすると、がん細胞が増殖し続けることにつながります。

日本人の非小細胞肺がんのドライバー遺伝子異常の中で、最も多いのはEGFR遺伝子変異で、腺がんの5割、肺がん全体でみると3分の1に存在します。次に多いのがALK融合遺伝子で、以下、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異の順です。(遺伝子変異と融合遺伝子の違いは別項目で説明します。)

以下の図は、100人の非小細胞肺がん患者さんがいたときに、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異を有する患者さんの割合を示したものになります。



こういった特定の遺伝子異常に対しては、それぞれに合わせた分子標的薬が用いられます。さらに、2015年12月からは、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体薬が非小細胞肺がんに対して保険適用になり、肺がんの治療はますます多様化しています。

3種類のドライバー遺伝子変異

ドライバー遺伝子が異常になる、いわゆる、ドライバー遺伝子変異には発生の仕方により「突然変異」「融合遺伝子」「遺伝子増幅」という3種類があります。なお、一般的には広義の意味で「遺伝子変異」と呼ぶことが多いです。

「突然変異」とは、EGFR、BRAFのように遺伝子配列の塩基(DNAの構成する分子)が置きかわってしまう遺伝子の突然変異によってできた異常なタンパクが、がん細胞の増幅に関わるものです。

「融合遺伝子」とは、ALK、ROS1、RETのように本来は離れたところにある染色体が結合して融合タンパクを発生させて、無秩序にがん細胞を増幅させるものがあります。

遺伝子増幅とは、myc、HER2は遺伝子の増幅により、がん細胞を増幅するようなタンパクを過剰発現(生成)する遺伝子です。

なお、RET、myc、HER2は保険診療による遺伝子検査が行われていません。(2018年11月現在)

可能であれば、4つの遺伝子検査とPD-L1検査は同時に

非小細胞肺がんの患者さんの治療方針を決める際には、薬物療法の効果を判定するために、遺伝子検査やPD-L1検査を行います。PD-L1検査は、免疫チェックポイント阻害薬「抗PD-1抗体薬」の効果を予測する検査です。

効果判定の検査は、非扁平上皮がんか扁平上皮がんかで異なります。非扁平上皮がんの場合には、EGFR遺伝子検査、ALK遺伝子検査、ROS1遺伝子検査、BRAF遺伝子検査、PD-L1検査を行い、その結果に応じた治療を行います。扁平上皮がんの場合は、PD-L1検査のみ実施します。

肺がんの遺伝子検査とPD-L1検査には、手術や生検で採取したがんの組織を使い、結果が出るまでには、1~2週間かかります。EGFR遺伝子検査で陰性なら次はALK遺伝子検査、それも陰性だったからROS1遺伝子検査と順番に調べていたら、すべての結果が出るまでに1~2カ月かかってしまいます。その間にがんが進行して薬物療法が行えない状態になるかもしれません。

そういったことを防ぐために、日本肺癌学会では、EGFR遺伝子検査、ALK遺伝子検査、ROS1遺伝子検査、BRAF遺伝子検査、PD-L1検査を同時に行うことを推奨しています。

遺伝子変異に合った治療を行う

非小細胞肺がんでは、EGFR遺伝子検査が陽性ならEGFR阻害薬、ALK遺伝子検査陽性ならALK阻害薬、ROS1遺伝子検査が陽性ならROS1阻害薬による治療、BRAF遺伝子検査陽性ならBRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法を行います。

遺伝子変異別の使用可能薬剤

■EGFR遺伝子変異
ゲフィチニブイレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)、オシメルチニブ(タグリッソ)

■ALK遺伝子変異
クリゾチニブ(ザーコリ)、アレクチニブアレセンサ)、セリチニブ(ジカディア)

■ROS1阻害薬
クリゾチニブ(ザーコリ)

■BRAF遺伝子変異
ダブラフェニブ(タフィンラー)/トラメチニブ(メキニスト)の併用

遺伝子検査は最適な治療を選択するためだけではなく、効果がないのに副作用だけ出たという事態を避けるためにも大切です。がんの治療薬は副作用を生じることが多く、効果がない人に投与すべきではありません。

ドライバー遺伝子を調べて、それに合わせた分子標的薬治療を受けた患者さんの生存率は、遺伝子異常に合った薬が使えなかった、あるいは遺伝子異常がないけれども分子標的薬を使った患者さんより高いことがわかっています。こういった結果は、国内外の複数の研究報告で示されています。肺腺がんのうち約1%と希少な遺伝子異常であっても、遺伝子検査で遺伝子異常の有無を調べ、それに合った治療を行うことが重要なのです。

非扁平上皮がんで遺伝子検査が陰性でPD-L1陽性、扁平上皮がんでPD-L1陽性の患者さんは、免疫チェックポイント阻害薬による治療が第一選択になります。

※この内容は「肺がんの薬物療法を受ける患者さんのための本」より引用/編集しました。

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