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肺がんのゲノム(遺伝子)医療|遺伝子のタイプ別の治療法

[公開日] 2018.10.11[最終更新日] 2018.10.11

プレシジョン・メディシン;遺伝子異常に合わせた薬物治療

2000年ごろまで、肺がんの薬物療法は、小細胞肺がんと非小細胞肺がんの大きく2つに分けられているだけした。肺がんの約90%を占める非小細胞肺がんの患者さんに薬物療法か必要になったときには、一般的な抗がん剤による一律の治療が行われていました。 ところが、2002年に特定の分子(タンパクや遺伝子)をターゲットにした分子標的薬が保険適用になり、その薬が特にEGFR遺伝子変異のある人に高い効果を示すことがわかったため、肺がんの薬物療法は個別化に向けて大きく前進しました。 現在では、非小細胞肺がんの中で最も多い腺がんなど非扁平上皮がんの患者さんに対しては、がんの遺伝子の異常を調べて、その結果に応じた薬物療法が行われています。 なお、肺がんの増殖に関わる遺伝子の異常は、親から子に伝わる遺伝とは関係なく、たばこや化学物質などの影響で起こる後天的な遺伝子の異常がほとんどです。 ■がんゲノム医療 ~現在、未来、その先へ~

非小細胞肺がんは遺伝子タイプによりわけられる

がんの増殖に直接関わる遺伝子をドライバー遺伝子と呼びます。 「ドライバー」は、がんの発症や増殖に関係する「運転手」という意味です。私たちのからだの中の細胞は、がん化して細胞増殖を加速させるアクセルが踏まれたとしても、増殖を抑えるブレーキが働き、正常な状態を保っています。ところが、ドライバー遺伝子異常の影響で、アクセルが踏みっぱなしになったり、ブレーキがきかなくなったりすると、がん細胞が増殖し続けることにつながります。 日本人の非小細胞肺がんのドライバー遺伝子異常の中で、最も多いのはEGFR遺伝子変異で、腺がんの5割、肺がん全体でみると3分の1に存在します。次に多いのがALK融合遺伝子で、以下、MET遺伝子変異、HER2遺伝子変異、と続きます。(遺伝子変異と融合遺伝子の違いは別項目で説明します。) 特定の遺伝子異常に対しては、それぞれに合わせた分子標的薬が用いられます。さらに、2015年12月からは、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体薬が非小細胞肺がんに対して保険適用になり、肺癌の治療はドライバー遺伝子異常陽性例と陰性例で明確に治療法が分かれてきています。。

3種類のドライバー遺伝子変異

遺伝子異常には、変異(点突然変異や挿入・欠失変異)、コピー数異常(増幅および欠失)、構造異常(転座、欠失、逆位、など)といったさまざまなタイプがあります。 そのうち肺がんにおけるドライバー遺伝子の異常としては、「変異」と「構造異常(特に融合)」があります。 「変異」とは、遺伝子の塩基(DNAの構成するアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の分子)の配列の一部が置きかわることを言います。遺伝子が変化することで、できてくるタンパク質の構造や機能に異常が生じ、がん細胞の増幅などに関わる場合があります。 「遺伝子融合」とは、異なる複数の遺伝子が連結することで、ひとつの遺伝子としての挙動を示すことです。融合遺伝子からは、通常とは異なる融合タンパク質ができ、がん細胞の増殖などに関わる場合があります。

可能であれば、遺伝子検査とPD-L1検査は同時に

非小細胞肺がんの患者さんの治療方針を決める際には、薬物療法の効果を判定するために、遺伝子検査やPD-L1検査を行います。PD-L1検査は、免疫チェックポイント阻害薬である「抗PD-(L)1抗体薬」の効果を予測する検査です。 効果判定の検査は、非扁平上皮がんか扁平上皮がんかで異なります。進行・再発非扁平上皮非小細胞肺がんの場合は、治療方針決定のために、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、KRAS、HER2の遺伝子検査およびPD-L1検査を行います。 肺がんの遺伝子検査とPD-L1検査には、手術や生検で採取したがんの組織を使い、結果が出るまでには、1~2週間かかります。そのため、現在日本肺癌学会では、上記の遺伝子検査およびPD-L1検査を同時に行うように推奨しています。

遺伝子変異に合った治療を行う

非小細胞肺がんではまずドライバー遺伝子の検査を実施し、異常が見つかった場合には、各ドライバー変異に応じた分子標的薬を使います。 ■EGFR遺伝子変異 ゲフィチニブ(イレッサ)、エルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)、ダコミチニブ(ビジンプロ)、オシメルチニブ(タグリッソ) ■ALK融合遺伝子 クリゾチニブ(ザーコリ)、アレクチニブ(アレセンサ)、セリチニブ(ジカディア)、ロルラチニブ(ローブレナ)、ブリグチニブ(アルンブリグ) ■ROS1融合遺伝子 クリゾチニブ(ザーコリ)、エヌトレクチニブ(ロズリートレク) ■BRAF遺伝子変異 ダブラフェニブ(タフィンラー)/トラメチニブ(メキニスト)の併用 ■MET遺伝子変異 テポチニブ(テプミトコ)、カプマチニブ(タブレクタ) ■RET融合遺伝子 セルペルカチニブ(レットヴィモ) ■KRAS遺伝子変異 ソトラシブ(ルマケラス) ■NTRK融合遺伝子 トレクチニブ(ロズリートレク)、ラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ) ■HER2遺伝子変異 トラスツズマブ デルクスデカン(エンハーツ) 遺伝子検査は最適な治療を選択するためだけではなく、効果がないのに副作用だけ出たという事態を避けるためにも大切です。がんの治療薬は副作用を生じることが多く、効果がない人に投与すべきではありません。 ドライバー遺伝子を調べて、それに合わせた分子標的薬治療を受けた患者さんの生存率は、遺伝子異常に合った薬が使えなかった、あるいは遺伝子異常がないけれども分子標的薬を使った患者さんより高いことがわかっています。こういった結果は、国内外の複数の研究報告で示されています。肺腺がんのうち約1%と希少な遺伝子異常であっても、遺伝子検査で遺伝子異常の有無を調べ、それに合った治療を行うことが重要なのです。 なお、遺伝子検査が陰性でPD-L1陽性の患者さんは、免疫チェックポイント阻害薬による治療が第一選択になります。

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