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デジタル時代の患者報告アウトカムの活用法:ePRO導入への期待と課題

[公開日] 2024.07.17[最終更新日] 2024.07.17

7月5日、肺がん医療向上委員会主催のセミナーがオンラインにて開催された。今回は医療Dx時代に求められる新しい肺がん診療、特にePRO(electronic Patient Reported Outcome:電子的な患者報告アウトカム)のアプリに焦点を当てた90分に渡る講演・ディスカッションが行われた。 セミナーの最初の演者である小澤雄一先生(浜松医療センター 呼吸器内科)によると、PROとは、医療者が聞き漏らしている患者の本当の声を照らし出すものである。一方で、実臨床の中でPRO評価のための質問票の実施は難しく、なかなか浸透していかない現状があった。 しかしながら、いつでもどこでも患者さん自身のデバイスで入力でき、自動的な結果の集計も可能なスマホのアプリの登場により、状況が大きく変わったと小澤先生は言う。具体的なスマホアプリを使ったePROのメリットは、➀患者さん側の安心感・満足感が得られること、➁患者さんの声の見える化により腫瘍の増悪や副作用の早期発見・対応につながること、➂患者さんの声を医療者間で容易に共有できること、④入力内容に準じたアラートシステムによる早期の受診促進が可能であること、の4つだ。更に、ePROを使うことによる生活の質(QOL)や生存期間の改善を示す文献や学会発表も複数報告されている。 また小澤先生は、最近開発が進んでいるPHR(Personal Health Record)と連携することや、ePROの質問票に就労/生活支援に関する項目を導入することなどにより、ePROの可能性は更に広がるだろう、と近い将来への展望を語った。 残る課題は、スマホやPCとの親和性がない高齢の患者さんなどにはハードルが高いという現状だ。 小澤先生は、まずは使える症例で実践していくこと、また多職種との連携などにより説明や指導を工夫することなどを解決策として挙げた。また今後、スマホ所有率の増加などによりデジタル親和性が高まることが予想されるため、今後のePRO普及に期待を寄せて講演を締めくくった。 続いて堀江良樹先生(聖マリアンナ医科大学腫瘍内科)から、自施設で実施している「ePROと電子カルテの連携」によるモニタリングについて紹介があった。堀江先生によると、同システムにより、在宅時に患者さんが経験した症状を外来で検討し、確実にアクションにつなげる質の高い対応が可能となっている。 堀江先生は、実際のアンケート結果を挙げながら、医療者が患者の苦痛を過小評価している可能性を指摘。ただし、患者さんと医師との直接のコミュニケーションや、紙媒体での記録の活用には限界があることから、ePROの活用の重要性を語った。具体的なePRO活用のメリットとしては、QOLの向上や治療継続とそれに伴う生存期間の延長、患者-医師間のコミュニケーションの充実化、更には適切なモニタリングによる緊急入院の減少などに伴う医療経済効果などがある。また、電子カルテと連携することにより医療者のアクセスが容易、かつデータの利活用も可能になり、更に投薬や治療状況などの臨床情報と併せて考えられる、という利点を強調した。 最後に、同システムの継続的な運用における多職種チームでの実装の重要性を説明し、不安の中にいる患者さんに、より安心できるモニタリングシステムを提供し最良の治療につなげていきたい、と今後の意気込みを語り、講演を締めくくった。 パネリストの久山彰一先生(岩国医療センター 呼吸器内科)は、スマホを保有していることとアプリがつかえることの間のギャップを指摘。演者の両先生も、ePROは全例に使うべきものではなく、現時点では一つの便利ツールという位置づけであり、ePROのみで問診が完結するわけではなく、あくまで診療時のコミュニケーションのサポートとして考えるべきものだと回答した。実際に、診療時に医師がePROデータに言及することで、患者さんのePROモニタリング継続に対するモチベーションにつながっていくというプラスの効果もあるそうだ。 もう一つの大きな課題として、アラートを誰がいつ受け取るのか、ということが話題となった。これに対して久山先生は、ePROの入力内容から対応が必要な副作用を機械が自動で判定するようになっていくことへの期待を述べた。ただし、アラート機能のメリットは認めつつも、演者の両先生は現時点ではアラート機能を使っていないと言う。全例のアラートに対応できる体制が整っていない現状に加え、アラートへの対応が遅れたことの責任をどこに置くかということも難しい。ただしアラート機能自体を使わなくても、患者さんが自宅で過ごしている期間の状況を医師が定期的に把握することで、受診すべき事態の早期発見にはつながる、と堀江先生。また今後PHRなどのツールとの連携で解決する部分もあるのではないか、と小澤先生も前向きにコメントした。 セミナーの最後に久山先生は、現時点では自施設でのePROの導入は進んでいないが、丁寧な指導・説明により、患者さんが病院に来ない間のケアにつながるePROシステムを取り入れていきたい、とお話した。 またePROが便利であることは間違いないので、全例対象を目指さずに、できる患者さんにメリットを利用してもらうことがまずは第一歩ではないか、と小澤先生は述べた。 堀江先生は自施設の経験を通して、紙では分からなかったことはたくさんあり、システム導入によって患者さんとのコミュニケーションも確実に向上したので、多くの施設で普及していってほしい、と改めてePROの利点を強調した。 閉会のあいさつの中で小栗鉄也先生(肺がん医療向上委員会副委員長)は、患者さんの声を可視化することによって、医療者と患者さんとの認識のギャップが埋まり、信頼関係が深まることで、治療へのモチベーションアップにつながるのではないか、と話した。現時点では、普及に向けた多くの課題はあるものの、エビデンスの蓄積や実臨床での使用経験に基づいて、今後確実に有用なツールとなり得る、と展望を語り、同セミナーを締めくくった。
【プログラム】 <Opening Remarks> 鈴木 実(肺がん医療向上委員会委員長/熊本大学呼吸器外科) <講演①>「医療Dx時代に求められる新しい肺がん診療」       演者:小澤 雄一(浜松医療センター呼吸器内科/腫瘍内科) <講演②>「アプリ(ePRO)と電子カルテ連携を利用した精緻な症状モニタリングの取り組み       演者:堀江 良樹(聖マリアンナ医科大学病院 腫瘍内科)) <ディスカッション>  ファシリテーター:柳澤 昭浩(肺がん医療向上委員会委員)  パネリスト:小澤 雄一(浜松医療センター 呼吸器内科/腫瘍内科)        堀江 良樹(聖マリアンナ医科大学病院 腫瘍内科)        久山 彰一(肺がん医療向上委員会委員/岩国医療センター呼吸器内科) <Closing Remarks> 小栗 鉄也(肺がん医療向上委員会副委員長/名古屋市立大学地域医療教育研究センター)

■参考
肺がん医療向上委員会 第46回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー

ニュース 肺がん ePRO

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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