遺伝子が傷つくことで正常細胞ががん化
正常な細胞の遺伝子が傷つくことでがん細胞となり得ますが、喫煙、化学物質や慢性肺疾患は遺伝子を傷つけることにより、肺がんのリスクが上昇します。なお、遺伝子の傷が多いがんのことを、遺伝子変異数(Tumor Mutation Burden;TMB)が高いといいますが、喫煙などの影響により生じたがんはTMBが高いことが多いです。
最も肺がんリスクとなる喫煙
肺がんの主たる原因は喫煙で、特に中心型の扁平上皮がんと小細胞肺がんは喫煙と深く関係しています。
喫煙者が肺がんになるリスクは、非喫煙者に比べて男性で4.4倍、女性で2.8倍と高く、喫煙開始年齢が若いほど喫煙量が多いほどリスクは高いとされています。喫煙者が禁煙すると、喫煙を継続した場合に比較して肺がんリスクが低下し、禁煙年齢が低いほど,その効果が大きいです。
一方、受動喫煙も肺がんリスクとなります。受動喫煙の曝露を受けた者はそうでない者に比べてリスクは約1.3倍に増加します。
その他の肺がんの原因
喫煙以外に、アスベスト(石綿)、ラドン、ヒ素、クロロメチルエーテル、クロム酸、ニッケルのような化学物質、大気汚染などが原因となり得ます。
職業によるリスクが高く、特にアスベストは1960年代から1990年代に建材などに広く使用されており、吸入後15~40年後に肺がんや悪性胸膜中皮腫を発症する原因となります。その他にも上述の化学物質を使用する職業も肺がんリスクが高いです。
石綿(アスベスト)による健康被害の救済制度(外部サイト;がん情報サービス)
https://ganjoho.jp/public/support/backup/public_insurance.html#a20
大気汚染物質、特に「PM2.5」と呼ばれる粒径2.5㎛以下の微小浮遊粒子は、粒子の大きさが非常に小さいため肺の奥まで入りやすく原因となり得ます。なお、PM2.5はディーゼル排ガスの黒煙などに含まれるため比較的に身近なものとなります。
肺気腫や慢性気管支炎といった慢性閉塞性肺疾患(COPD))といった慢性的に肺や気管支が炎症状態となる疾患も肺がんリスクが高くなります。その他、肺結核の診断後2年以内の肺癌リスクが増加し、その後もリスクが持続するとの報告がなされています。
肺がんと家族歴の関係
肺がんの家族歴もリスクを高めると報告されていますが、この理由は解明されていません。また、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)やリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん;HNPCC)のような先天性(生まれつき)の遺伝性腫瘍はほとんど認められません。それゆえ、親から子へ肺がんが遺伝するとことは、極めてまれなことになります。
参考文献
EBM手法に基づく肺癌診療ガイドライン2017年版Ver1.1(日本肺癌学会)