がん患者・家族が安心して恩恵を受けられる全ゲノム解析の実現へ、患者の立場から見た現状と期待第82回日本癌学会学術集会より


  • [公開日]2023.10.13
  • [最終更新日]2023.10.13

9月21日~23日、第82回日本癌学会学術集会がパシフィコ横浜で行われた。同学術集会のセッション「がん全ゲノムプロジェクトの現状とがん医療の未来」の中で、「全ゲノム解析等実行計画に対する患者の立場から」というタイトルで天野 慎介氏(一般社団法人全国がん患者団体連合会)が発表した。

がんゲノム医療の仕組みづくりに関して、遺伝子変異に基づく治療の成果を評価する一方で、検査や治療の機会、また遺伝カウンセリングの質を均てん化していくことは、未だ道半ばである、と天野氏。全ゲノムプロジェクトは、将来的な薬剤開発に結びつくことも重要であるとともに、今まさに治療中の患者さんのチャンスにつながることにも期待を示した。

がん患者が経験する悩みに関して、特にAYA世代の調査結果では、約半数の患者さんが「がんの遺伝の可能性」を項目に挙げているとし、自身の経験も交えて天野氏は説明。しかし調査回答の半数以上が、「相談したかったができなかった」という。がんの遺伝について疑問に思いつつもなかなか医師に相談できない状況が明らになった。

また、Yahoo!に取り上げられたニュースを例に挙げ、「遺伝子変異がん=遺伝するがん」という間違った認識の払拭の必要性も指摘した。

更に、日本科学未来館の調査において、ゲノム情報が医療で使われることに対する不安として、半数以上が「ゲノム情報による差別」「情報漏洩とその悪用」と回答しており、天野氏はこれらの不安に応えていくことの必要性にも言及した。

実際に日本において、遺伝情報に基づく差別(高い保険料の請求やいじめ、交際拒否など)が起きた事例も紹介された。そして、研究者と患者団体が一緒になって要望活動を続けた結果、今年6月に「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」の成立に漕ぎつけた。

天野氏は、これらの活動は、遺伝情報の扱いに関する不安を煽るのではなく、不安なく研究を進めていくための車輪の一つだと強調。また、ゲノム医療施策は、厚生労働省や経済産業省、法務省や文部科学省など、様々な省庁がかかわる法律であるという特徴があるため、責任の所在があいまいになりがちであり、今後の具体的な施策の推進に期待したいとコメントした。

全ゲノム解析の実行計画の中には、PPI(患者・市民参画)の体制を取り入れることや、ELSI(倫理的・法的・社会的な課題)部門を設置することなどが規定されているが、その詳細な取り組みはこれから決定されていくとのこと。これらの活動によって得られた成果が、1日も早く確実に患者・家族に還元される全ゲノム解析であってほしいと語り、講演を締め括った。

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