LINEで送る
Pocket

スピーカー
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科 センター長 川井 章
講演 前編
講演 後編
ディスカッション

川井) 薬物治療のお話です。外科的な治療で治せなかった腫瘍、あるいは取りきれない腫瘍は、どうしてもお薬に頼らざるを得ません。お薬の治療を考えるときに、まず覚えておいた方がいいのは、1次治療と2次治療というお話です。「お薬の治療しましょう」と言うと、「最初に免疫療法はどうですか?」、「オプジーボはどうですか?」と、必ず患者さんは聞かれます。その前にやるべき治療がある。証拠のあるいい治療がある。それを1次治療といいます。

肉腫に対して薬物治療するときに、まず使うべきお薬というのは、現在、大体明らかになってきています。進行、再発の軟部肉腫に対して、まず最初に試みられるべき化学療法のことを1次治療といいます。この1次治療が無効、あるいは効かなくなったときに、2次治療というお薬が使われることになります。

少しビジーなスライドで申し訳ありませんが、ESMO・欧州腫瘍学会という学会が出している肉腫の化学療法に関するガイドラインです。ここに1次治療レジメン、2次治療レジメン、推奨のレベルA、B、C、エビデンスレベルと書いてあります。推奨のレベルはどういうことかというと、Aというのはすごく勧めますということです。これはすごい自信があるから絶対やりなさいというのが推奨レベルAです。推奨レベルBというのは、そこまでの証拠はないけどもやったほうがいい。推奨レベルCというのは、やってもいいけど証拠は薄いという、そういうニュアンスです。

それを決めているのは、いわゆるエビデンス、証拠はどれくらいあるかということで決められるわけです。エビデンスレベルというのは、1というのが一番エビデンス、証拠が高く、2、3、4、5といくにつれて、だんだん証拠が薄いということになります。この証拠というのは論文であるとか、学会発表であるとか、いわゆるその専門家たちが認めている証拠であります。

エビデンスレベル1、2というのが、まず信頼してもいい証拠だと思います。この黄色でポイントした1、2について、お話をしたいと思います。まず1次治療からいきます。1次治療で推奨のレベルがA、エビデンスレベルが1とあるのは、ただ一つだけです。何かというと、アントラサイクリン系薬剤ドキソルビシンが標準治療です。腫瘍縮小がのぞまれて、かつ患者さんのPS、患者さんの体力がいい時にはドキソルビシンにイホスファミドを加えてもいいです。というのがいわゆる推奨レベルのAであります。

これはどういうことか、を少しお話しさせていただきます。アントラサイクリン系っていうのは、アントラサイクリンは抗生物質なんです。地中にできたストレプトマイセス属、微生物に由来する抗がん抗生物質の一部です。非常に古いお薬で、おそらく今から何十年も前に作られたお薬ですが、今もってやはり一番信頼のできる薬と言われています。肉腫に対してもそうですが、白血病、乳がん、子宮がん、卵巣がん、肺がんなど、さまざまながん腫で、現在でも盛んに用いられているお薬であります。

このお薬の効き方を調べたデータがあります。ドキソルビシン45mg/㎡体表面積あたり45mg投与したときに効く可能性は19%です。60mg投与したら27%です。75mg投与したら25%です。これを見てると、たくさん入れたほうが良く効いてるように見えます。イホスファミドというのもそうです。6gが10%なのに、たくさん入れれば入れるほど奏効率、効いた可能性が増えていっています。

この下にあるドキソルビシンとイホマイドというのは、多剤併用療法のレスポンスレート・奏効率ですが、これも非常に高い。となると、お薬はたくさん使ったほうがいいし、いろいろなものを一緒にいれたほうがいいと私たちは教えられました。私が医者になったころは、このような教え方をされました。ですから「患者さんが我慢できるだけ、たくさん使ったほうがいいんだよ」と、医者は信じていたわけです。そのセオリーに従って治療をずっとしてきたわけですが、その風向きが最近少し変わってきています。

それがいつごろからか、これからお話しをさせていただきますが、これが2010年です。そんなに昔の話ではありません。2010年にこのようなデータが出てきました。肉腫の患者さんが来たときにドキスルビジン単剤と、ドキスルビジン、イホマイド、この両方を比べて、両方使った患者さんのその後の予後を見てみると、この二つの曲線は全く同じに見えます。ドキスルビジン単剤群と、ドキスルビジンとイホマイド併用群の間に生存率の明らかな差は見られない。

「ほんとかよ!」と医者は思ったわけです。たくさん使ったほうがいいに決まってると私たちは教えられましたし、患者さんもそう思っていたわけですが、こういうデータが出てきた。本当かということを調べるために、一番確実な方法は臨床試験であります。

幾つかの臨床試験がされました。レジメンと書いてあるのは、ドキスルビジン単剤、それに対してドキスルビジンとイホマイドを加えたもの。幾つかのレジメンを比べて臨床試験がされました。その臨床試験の奏効率、奏効率というのは腫瘍が小さくなる割合です。これを見てみると、例えばドキスルビジン単剤では奏効率14%だけど、イホマイドを加えると26%になっている。

確かに効き方は良くなっているように見えますが、その患者さんのその後の予後、生存率を見てみると、ほとんど変わらないということが明らかになりました。こういう幾つかの臨床試験からわかったことは、多くの臨床試験では多剤併用によって奏効率の改善は認められる。腫瘍が小さくなることは確かです。ただそれが直接患者さんの寿命を伸ばすということには、つながっていないということがわかるようになってきました。

一番、最近の信頼できる臨床試験の結果です。これは2014年に発表された。それほど昔の話ではありません。グラフの上が全生存期間です。グラフの下が無増悪生存期間、これは腫瘍が大きくならずに済んだ患者さんが、どれくらいいらっしゃったかというグラフです。比べたのはドキスルビジンだけを投与した患者さんと、ドキスルビジンにイホマイドを投与した患者さん。当然たくさん投与したほうが毒性は多いわけです。

患者さんもしんどいわけです。この二つを比べてみても残念ながら全生存期間の間には全く差がない。ということになると、全生存期間は差が認められないのでドキスルビジンだけでいいでしょう、と。患者さんにわざわざたくさんお薬を使って、つらい思いをさせる必要はないでしょうということになります。一方、この無増悪生存期間を見てみると、わずかながらこの幾つかお薬を加えたほうが少しいいわけです。

腫瘍を大きくしないということに対しては、お薬はたくさん使ったほうが良さそうだということがわかります。現在のヨーロッパのガイドラインでは、こういうふうに書かれています。現時点でドキスルビジン単剤に比較して多剤併用療法のほうが全生存期間を延長するという証拠はないと書かれています。ドキスルビジンとイホマイドによる多剤併用療法は、腫瘍の縮小が有益と考えられる場合に選択肢となるというふうに書かれています。これはどういうことかというと、例えばこういう状況です。

これは膝の後ろにできた肉腫です。28歳の女性ですが、後ろに大きな腫瘍ができてしまって、そのままでは先ほどの血管も神経も残らないので、これは切断やむなしというような状況ですが、この状態で患者さんは、術前の化学療法を行われました。そうすると腫瘍が幸い小さくなってくれて、神経と血管を残して足を残すことができた。要するに、患者さんの寿命を伸ばすことも大事ですが、こういうふうに手足を残す、腫瘍が小さくなることによって、患者さんのQOLが上がることが期待される場合には、多剤併用、積極的に使いましょうと考えられるようになってきました。

これが1次治療レジメン。1次治療レジメンは一言で言うと「ドキスルビジンが一番信頼できます。それにお薬を加えるのは、なんらかのいいことがあるときだけ加えたらいいです」というのがメッセージであります。2次治療レジメンというのは、1次治療が効かなかった人、あるいはドキスルビジンが耐えられなかった人が使うお薬ということになります。ここには残念ながら推奨のレベルAというのは、どこにもありません。それだけ証拠の薄い領域ということになります。一番証拠があるのが推奨レベルBということになりますが、その中で幾つか見ていきます。

そうすると2次治療レジメン、推奨レベルB、パゾパニブと書いています。このお薬が日本で承認されたのは2012年です。その次に、トラベクテジンと書いています。これが承認されたのが2015年です。ダカルバジンとドセタキセルというのは残念ながら、まだ未承認です。どういうことかというと、軟部肉腫の化学療法を考えたときに、患者さんにお薬を使うときに、このドキスルビジンを使います。人によってはイホスファミドを使います。これが1次治療です。効けばいいんです。

だけど効かなかったときに、その次に使うお薬が2012年までは、実際は無かったということになります。いろいろな工夫をしていましたが、証拠のあるいいお薬は、実はそのころまで無かったわけであります。それがここ数年で幾つか新しいお薬が出てきたというのが、今の状況であります。

パゾパニブ、トラベクテジン、エリブリン、この三つのお薬が、ここ数年の間に日本の国内で承認されて使えるようになりました。このお薬について少しお話をさせていただきたいと思います。まずパゾパニブ、製品名はヴォトリエントっていうお薬です。これはいわゆる血管新生阻害剤というカテゴリに入りますが、飲み薬です。腫瘍が大きくなる時に血管を作りますけども、その血管ができるのを阻害しようというコンセプトのお薬であります。このお薬が世界で承認された一番大事なデータがこれであります。

この黄色がmedianPFSと書いています。無増悪生存期間を比べてみると、プラセボコントロールというのは、それまでいいお薬が無かったので、患者さんの支持療法しましょうという状況の患者さんです。そういう患者さんの無増悪生存期間の中央値、大きくなるまでの時間の平均が1.5カ月だったんです。残念ながら治療しないと腫瘍が大きくなってしまうわけですが、このパゾパニブを使うと、それが4.6カ月まで伸びたということになります。PFSを優に約3倍延長したデータであります。これをもって、このパゾパニブというのは、アメリカとヨーロッパと日本、ほぼ同時に承認されたお薬であります。

具体的な患者さんの画像でありますが、これは胞巣状軟部肉腫という、化学療法がほとんど効かないと言われている肉腫であります。右の肺、左の肺にたくさんの転移があります。2013年の2月にがんセンターの外来に来られた時のCTであります。パゾパニブの処方を行いました。このお薬は、あとでお話ししますが、高血圧を来したり、手足症候群というようなことを起こすことがあります。残念ながらそれが起こってしまったので、お薬の使用量を少し減らしました。少し減らしましたけども、この400mgで飲めるということがわかったので、そのまま患者さんは内服を継続しています。

継続している間の肺のCTの状況でありますが、肺にたくさんあった病気の幾つかは完全に消えてしまっています。幾つかのものは消えないまでも大きさが変わっていないという状況を保つことができています。この状態で、この患者さんは男の方ですが、社会人としてお薬を飲みながらお仕事をしています。結構ハードなお仕事をされていますけども、つい先日も来られましたがパゾパニブ・ヴォトリエントを飲みながら、治療開始後現在4年ですが、社会生活をしておられるという状況です。これは飲み薬であるということが、非常に大きなメリットかなと思います。

こちらは別の患者さんですが、滑膜肉腫という肉腫が肺に転移をしてしまった女性の患者さんでした。2009年の5月に太ももの肉腫の手術をしましたが、約1年たって肺に転移を致しました。肺の手術を何度か繰り返しましたが、手術ができなくなって、先ほどお話ししたドキソルビシンという1次治療を行いました。残念ながら十分な効果が得られませんでしたので、パゾパニブの内服を始めました。

約半年間、そのパゾパニブを飲むことによって病気の悪化は防げましたが、最終的には、この病気でお亡くなりになられましたが、この患者さんが外来に来た時に私に言った言葉があります。「このお薬は、自宅で治療できるから点滴より好き」。点滴というのは、このドキスルビジンなどです。点滴をして頑張って治療したけれど、それよりもやはり家で飲み薬で治療ができるというのは、患者さんにとっては大きなメリットなんだなと、私はこの時感じました。そういうお薬です。

このパゾパニブの副作用、有害事象と書いてますが副作用です。この時点で、日本の中で539人の患者さんにパゾパニブが投与されて、そのうち444人の患者さんに何らかの副作用が見られました。80%を超える何らかの副作用がありました。副作用の中で最も多く見られたのが高血圧40%弱、下痢20%、肝機能障害20%弱。こういう副作用が出ますが、吐き気はさほど強くないかなという感じはいたします。その中でもグレード3、少し重症になったものが高血圧、肝機能障害、血小板減少あります。さらに気胸を起こしたりします。髪の色が変わってしまったりもします。

このパゾパニブというのは、組織系によって効き方が少し違うと言われています。結論から言うと、脂肪肉腫に対して少し効力が弱い。それ以外の肉腫に対するよりも、脂肪肉腫に対して少し効力が弱いと医者は感じています。それも治療のお薬を選択する一つの材料になります。次がトラベクテジン、(商品名)ヨンデリスというお薬ですけれど、これはカリブ海のホヤから抽出されたお薬であります。これは、おなかにできた大きな脂肪肉腫ですが、トラベクテジンを投与する前、1コース、5コース、8コース、12コース、投与するにつれてだんだん腫瘍が小さくなっていっています。こういうだんだん効果が出てくる、特徴的な効き方をするお薬と考えられています。

一方、小さくならないまでも、顕微鏡で見てみると腫瘍が死んでいる、壊死しているという場合もあります。組織学的な効果、腫瘍が小さくならなくても、そのまま死んでしまっているというような効果を示す場合もあります。これは、トラベクテジンの臨床試験の結果ですが、ベストサポーティブケア、お薬を使わなかった患者さんに比べて、トラベクテジンを使うと、その無増悪生存期間を有意に延長したという日本の臨床試験の結果であります。

トラベクテジンを飲んだ患者さんを赤いバーで示すと、上が腫瘍が大きくなった、下が腫瘍が小さくなった、と見ていただいたらいいです。トラベクテジンを飲んだ患者さんは、明らかに腫瘍が、そうでない患者さんよりも小さくなっているということがわかります。

これは外国で行われた第3相試験、比較試験ですが、日本ではトラベクテジンとお薬を使わない人の比較を行いましたが、外国ではトラベクテジンとダカルバジンというお薬の比較試験が行われました。それを見てみると、トラベクテジンというのは、この青線ですけども、このダカルバジン、黄色に比べて腫瘍の増悪、あるいは死亡のリスクを約45%低減させたと報告されています。副作用は骨髄抑制、肝機能障害、悪心、嘔吐、これが代表的なものであります。

最後はエリブリン、(商品名)ハラヴェンというお薬であります。これも三浦半島のクロイソカイメンから抽出された。何故か抗がん剤は土の中とか、海の中から出てくることが多いですが、このエリブリン、ハラヴェンも三浦半島のカイメンから抽出された抗がん剤であります。よく似たお薬にタキサン系のお薬、ビンカルカロイド系のお薬がありますが、このタキサン系は乳がんでよく使われます。パクリタキセルとか、なんとかタキセルっていう薬名です。そういうお薬は、だいたい神経障害を起こすことがよく知られています。

手や足がしびれてしまうということがよく言われますが、このエリブリンというのは少し作用機序が違うので、比較的そういう副作用が少ないと言われていますし、実際に使ってみて、ほかのタキサン系に比べると、そういう有害事象が少ないかなと思っています。これが第3相試験の結果ですが、先ほどと同じようにトラベクテジンと同じように、エリブリンとダカルバジンを比べた第3相試験であります。この黒色がダカルバジン、赤色がエリブリンであります。

グラフが重なって見づらいですが、ダカルバジンに比べてエリブリンを使った患者さんの生存率は、明らかに良かったということを示しているグラフです。エリブリンはダカルバジンに比べて、全生存期間の有意な延長を認めたというデータであります。これは組織系ごとに見てみると、脂肪肉腫において特によく効いたというグラフになります。先ほどパゾパニブというお薬は脂肪肉腫に、あまり効かない傾向があるという話をしましたが、この反対に、このエリブリンというのは脂肪肉腫に特によく効くと医者は考えています。

実際の患者さんの画像をお見せいたします。この患者さんも後腹膜にできた粘液型の脂肪肉腫でありました。ドキスルビジンや、シスプラチンなどいろいろなお薬を使いましたが、残念ながら腫瘍の増大を止めることができずに、2011年にエリブリンの使用を開始いたしました。その時の腫瘍の大きさがこれであります。PETをとってみると、その腫瘍はやはり活発に代謝していると、色が付いているということが、おわかりになるかと思います。ずっと横軸に時間をとってみると、2011年、2012年、2013年、2016年のCTでありますが、ここに腫瘍があります。だんだん腫瘍が小さくなっていってるのがわかるかと思います。この間、エリブリンというのをずっと投与しているわけであります。

トラベクテジンがゆっくり効くと言いましたが、このお薬も効く人に対しては、こういう効き方をすることがあるという例かと思います。腫瘍はだんだん小さくなっていって、腫瘍の代謝もだんだん落ちてきている。この患者さんにとっては非常に福音になるお薬であったと考えています。このお薬で約5年間、腫瘍をコントロールして、主婦として生活しておられます。

有害事象は副作用ですね。100%の患者さんに何らかの副作用がありました。最も多いのが白血球減少、好中球減少、あるいは貧血、先ほどのお薬とはちょっと副作用の出方が違う、種類が違うということに気付かれると思いますが、このエリブリンというのは、骨髄抑制、貧血とか白血球減少が起きやすいお薬と覚えていただいたらいいかと思います。そういうことが起きると白血球が下がって、熱が出たりしますが、そういう患者さんが8%いらっしゃいました。エビデンスと書きましたが煩雑なので後で見ておいてください。

三つのお薬に対して、私たちが持っている一番確実な証拠はこういう証拠であります。この証拠を見ながら、どのお薬を使うかを患者さんと相談していくわけであります。それぞれいいところ、悪いところがあります。先ほどお話ししたように、飲み薬である。非常にいいところもありますし、吐き気が少ない。白血球が少ない。それぞれいいところがあります。それを組み合わせて患者さんとお薬の使用を選択していくことになります。その時に考える項目を一覧表にしてみたのがこちらであります。

治療法選択のために重要な因子、1から10まで挙げてみました。化学療法に対する感受性、腫瘍の性格、腫瘍の広がり、腫瘍の部位など、いわゆる腫瘍は今どういう状況かということをまず考えます。患者さんが、どれくらい元気か、飲み薬がいいのか、点滴に耐えられるのか、患者さんの状況です。最後に、最も重要なのは、患者さんと治療のゴールをどのように考えるか、意志の共有というのが、医者と患者さんの間で成されないといけないことが最も大事なところだと考えています。腫瘍の状況、臨床の症状、意志の共有、こういうことを全部合わせて、お薬をどういうふうに使うかということを、患者さんと医者とは相談していくということになります。

具体的な患者さん例を、少しお見せいたします。この患者さんは45歳の女性で、脂肪肉腫の多発転移の状態で外来に来られました。来られた時に骨盤に大きな腫瘍があって、両方の肺にたくさんの転移がありました。残念ながら、この腫瘍が大きくて歩くことができずに車いすで来られました。これを、先ほどの一つ一つの項目で見ていくと、感受性はある程度あるでしょう。腫瘍は非常にアグレッシブでしょう。広がりはすごく広がっています。腫瘍の部位は脊椎に近いので高リスクでしょう。たくさん転移があって手術ができません。

患者さんの症状は車いすでないと動けない状況、並存疾患は幸い45歳でまだお若い方ですので、ありませんでした。化学療法歴はそれまでございませんでした。治療のゴールは、残念ながらこの腫瘍を取りきることはできないので、腫瘍をコントロールしながら行けるところまで行きましょうというお話になります。患者さんは、こういう話をして十分よく理解をしてくれました。さらに、先ほどお話ししたように、この大きな腫瘍が小さくなれば、この患者さんももしかしたら歩けるかもしれないということで、腫瘍を小さくしたほうがいいでしょうということを考えて、ドキスルビジンとイホスファミドのお薬を使うことにしました。これが治療開始時です。

2008年に来られた時、幸いこの患者さんはお薬が非常によく効いて、ドキスルビジンとイホスファミドを7コース、それからイホスファミドとエトポシドっていう薬を43コース、そこから放射線を当てて、2014年の段階ではこういう状態でいらっしゃいました。腫瘍はほとんど見えなくなりました。主婦として自立して生活しておられました。残念ながら、この後腫瘍がまた大きくなってお亡くなりになられましたが、6年間、病気を抱えてちゃんと生活をしておられた患者さんであります。この患者さんも同じような状況で来られました。腫瘍が非常に広がった状態で来られて歩けない。やはり小さくなってほしいということで、ドキソルビシンとイホスファミドの抗がん剤の治療を行いました。

しばらくは効いたのですが、だんだん効かなくなってきた。ドキソルビシンとイホマイドは、いわゆる1次治療が効かなくなってしまったので、次にパゾパニブを使いました。パゾパニブで4カ月間くらい腫瘍は小さくなったんですが、その後やっぱりまた大きくなってきたので、お薬がまたここで変わりました。ジェムシタビンとドセタキセルというお薬に、この時点で変えました。これをずっと見ていくと、だんだん小さくなっていくことがわかります。PETで腫瘍の代謝を見てみても、この赤かったところが少し赤みが落ちていくのがわかります。

お薬を幾つか使いながら1次治療だけではコントロールできませんでしたが、2次治療、3次治療をすることによって、この患者さんも腫瘍を抱えた状態で5年間、現在外来に通っておられます。1次治療きちんと使った後に2次治療を相談しながら、最も適切と思われるお薬を使っていくというのが、進行、再発の肉腫に対する抗がん剤の治療ということになります。

最後に、新たな治療開発についてお話をさせていただきます。肉腫は希少がんという、人口10万人あたり6例未満の患者さんしか発生しない希少がんの代表であります。がんの頻度、縦軸にとっていますが、胃がんや肺がんに比べると肉腫はここになります。非常にまれな腫瘍であります。「だから開発が進まないし新しいお薬が少ないんだ」とよく言われますが、実際はどうかということであります。

こちらはお薬の開発を絵にしたものですが、人間に投与する前、当然たくさんの基礎的な試験があります。それから第1相試験、第2相試験、第3相試験、ここまで来てやっとお薬になります。それぞれに対して希少がんは、やはり難しい状況があります。お薬を作ろうとしたときに、会社の方は当然儲けないといけないわけです。会社ですから売れないといけない。だけど日本全国100人しかいなかったら100個しか売れないわけです。

肺がんだったら10,000個売れるのに、100個しか売れないものをわざわざ作るかという大きな問題がやはりあります。開発のための基本的な情報が不足しているし、需要がどうかということもわからないし、まずその人間に投与する前に実験しようとしても、その実験材料がない。細胞がない。試験動物がいない。そこを越えたとしても患者さんが少ないから、一つ一つの病院で分散して治療されているので、臨床試験がなかなか進まないということがあります。

第3相試験というのは、数100人の患者さんがいないと成り立ちませんが、肉腫の数を考えると日本だけでこの第3相試験を行うことは非常に難しいと言われています。最後はお薬になったとしても儲からないという、幾つかのハードルがあり、そのようなことが相まって、先日調べたところですが、日本で保険承認されている抗がん剤の種類を調べてみました。

乳がんが37種類ありました。肺がんが35種類ありました。残念ながら肉腫は9種類しかありません。これが今の状況です。これを何とかしないとやっぱりいけないです。先ほどお話ししました幾つかのお薬が最近開発されましたが、その開発の年表であります。2002年から、今年が2017年、いま私たちはここにいるわけですが、幾つかの抗がん剤の開発を試みられました。

その中で幾つかのものは失敗してお薬にならずに終わっていますが、今日お話をしたパゾパニブ、エリブリン、トラベクテジンというのは、幸いお薬になって皆さんが使えるようになりました。現在、あるいはこれから臨床試験が始まろうとしている。私の知る限り、まだあるかもしれませんが、日本における大きな臨床試験は、この三つだと思います。オララツマブというお薬、それからNY-ESO-1というがん免疫を使ったお薬、それからニボルマブの臨床試験であります。これはオララツマブというPDGFRというものをターゲットにした分子標的薬でありますが、実は日本での臨床試験はもう終わっていて、その結果を待っている状況であります。

これは欧米のデータですが、先ほど1次治療はドキソルビシンだけでいいというお話をしました。それは一番最初のころに生存率が重なっているグラフを見られたと思いますが、
ドキソルビシンにイホマイドを加えても生存率が上がらないと話しましたが、このオララツマブというのを加えると全然上がっていますね。ドキソルビシン+オララツマブは、ドキソルビシン群に比べて、全生存期間の有意な延長を認める。ここまで違うのは医者の目で見てもなかなか少ない。これをもってアメリカでは近々保険承認されると聞いています。日本ではもう少し先になると思いますが、非常に期待されているお薬の一つであります。

NY-ESO-1と書いてますが、これは滑膜肉腫という特殊な肉腫をターゲットにしたがん免疫療法の一つであります。滑膜肉腫にだけ発現しているようながん抗原というのを同定して、それを患者さんのT細胞にリンパ球に組み込んであげて、体の外で増やしてあげて、それを患者さんの元に戻すというような、体外の、ある意味の遺伝子治療でありますが、これがアメリカではすでに臨床試験がかなり進んでいます。アメリカのNIH(アメリカ国立衛生研究所)の報告よると滑膜肉腫の患者さん、様々なお薬が効かなくなった。

進行した滑膜肉腫の患者さんにおいて61%という非常に劇的な奏効率を示しています。この試験を近々日本でも開始しようということになっています。おそらく今年から始まりますが、非常に狭い肉腫、全体ではなくて滑膜肉腫という特殊な肉腫を対象とした臨床試験ですけども、これがおそらく日本でも臨床試験が始まると聞いています。

最後はおそらく皆さんも、すでに聞いたことがあると思いますが、ニボルマブというお薬です。メラノーマで劇的に効果がありましたし、肺がんにも適用が広がったというような非常に期待されているお薬であります。このお薬が当然肉腫に効くかどうかは、皆さん興味があるとこだと思いますし、医者も興味があるのですが、残念ながらまだきちんとしたデータは出ていません。「期待できるよ」と言う医者もいるし、「期待ほどでもないよ」という報告も残念ながらあります。

わからないというのが正直なところですが、日本ではこのニボルマブを明細胞肉腫と胞巣状軟部肉腫、これも肉腫の中で非常にまれな肉腫だけに絞っていますが、この二つに対して効くかどうかという臨床試験を現在始めているところです。国立がんセンターを含めて日本全国4施設で臨床試験が始まっています。うまく効いてくれればお薬として使えるようになりますが、その結果は、まだ誰もわからないという状況です。これがニボルマブを使った肉腫に対する臨床試験で、現在進行中であります。

非常にまれな腫瘍でいろいろな顔付きをしていて、外科的な治療もいるし、手術もいるし、化学療法もいる。あるいは最後は儲からない。いろいろな問題があって肉腫の臨床開発というのは、なかなか進んでこなかったわけです。そのバラエティが、この先おそらく、がん治療に対して大きなインパクトを与えると、私たちは考えています。さまざまなターゲットに対して治療を開発するということが、がん治療全体に対して大きなインパクトを与えるのではないかと、五分の虫けらの意地ではありませんが、今、私たちは感じています。

今日、本当に雑駁(ざっぱく)なお話になりましたが、肉腫の基本、しこりから肉腫までの話、それから肉腫の外科的な治療のお話、薬物治療のお話、最後は現在進行している臨床試験のお話、肉腫の総論ということでお話をさせていただきました。最後までご清聴どうもありがとうございました。

LINEで送る
Pocket

人気記事