10月20~22日に第60回日本癌治療学会学術集会(JSCO 2022)が、神戸コンベンションセンターにて開催された。現地を主体としたハイブリッド形式であったが、当日多くの参加者が現地に集まった。
その中から、「がん研究における患者・市民参画の実現に向けて:3学会共同プロジェクトへつなぐ」と題したセッションでのディスカッション内容を紹介する。
患者・市民参画(PPI)は「患者・市民のために、または患者・市民について研究が行われることではなく、患者・市民と共に、または患者・市民によって研究が行われること」と定義されている。
この“共に”の構図の実現はどこまで進んでいるのか、本セッションの中で、日本医療研究開発機構(AMED)、患者、医師の視点からそれぞれ発表があった。
AMEDの立場から
日本医療研究開発機構(AMED) 研究公正・社会共創課 勝井 恵子氏
AMEDは、医療分野の研究開発及びその環境整備の実施・助成について中核的な役割を担う国の機関だが、臨床研究の“立案段階から”患者さんが参加していく体制作りにも力を入れている。
研究のタイプが多岐にわたっているのががん領域の特徴、がん研究が日本のPPIのリードとなるように活動していくことを目標としている、とコメントがあった。
AMEDの三島理事長の「医療分野の研究開発は、幅広い学問分野を背景に進められるべきである。この総合知には患者さんなどが有する知も含まれる必要があることは、国際的動向から明らかである」という言葉も紹介され、成果を一刻も早く実用化して、患者さんやご家族のもとに届けることがAMEDのミッションである、と強調した。
そして、患者さんに知ってほしいツールが以下の通り紹介された。
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PPIガイドブック
・研究への患者・市民参画の動画
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AMED find: どんな研究があるの?という疑問に答えるもの
・研究への患者・市民参画相談窓口
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医学研究をわかりやすく伝えるための手引き
・Youtube AMEDチャンネルによる情報発信 3月11日AMEDがん研究プロジェクト成果発表会開催予定→公式Twitterから情報発信している
最後に勝井氏は、医療開発を通じて社会を共に作る取り組みを、PPIを通して進めていきたいと講演を締めくくった。
患者の立場から
全国がん患者団体連合会 天野 慎介氏
PPIは、患者の声を医師・研究者側がすべて聞き入れる、ということではなく、患者のニーズと医師の考え方の違いをお互いに理解し合いディスカッションすることだと天野氏は言う。それにより初めて、患者が臨床試験にただ参加するだけでなく、提案・評価する場に参画し、理解し支援する立場に立てるようになるという。
この実現のための大前提として、まずは患者が臨床試験の基礎知識を共通言語として学ぶことが求められている。そのための教育プログラムが作成されつつあることは、非常に心強いとコメントした(後述)。
天野氏は、「医療者も患者も一緒に学んでいく体制ができ、1人でも多くの患者が臆することなく臨床研究へ参画できる環境ができることを期待している」と講演を締めくくった。
医師の立場から
帝京大学医学部緩和医療学講座 有賀 悦子先生
帝京大学医学部の有賀先生は、PPIの実現に向け、日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会が合同で作成を進めている教育カリキュラムを紹介した。同カリキュラムでは、患者さんが選択・反復学習し、単位制として個人学習を進めていく形が想定されている。現在、大枠ができ上がった段階であり、ここからアンケート調査やディスカッションを重ね、3年後を目標に実用化の予定としている。
また、2022年8月22日-9月9日でWeb調査によって得られたPPIの意識調査の結果が報告された(医師を中心とした518名の回答)。PPIを聞いたことがあるとの回答は43%であり、重要性やメリットに理解を示す回答が得られた。一方、患者の個人的な体験や感情的な発言への対応の難しさ、1人の患者の声が代表意見として反映されることへの懸念なども声として上がってきた。PPIを広めるにあたっては、患者とはまた別の視点での医師側の教育も必要であることが明らかとなり、すでに医療者側の教育プログラムも実施の検討が進んでいるとのことだ。
最後に有賀先生は、PPIは患者と医療者の両輪で推進していくものであると強調した。
今後の課題
ディスカッションでは、「教育プログラムはパートナーシップを結ぶための共通理解のためであり、プロ患者の育成が目的ではない」「盛りだくさんのカリキュラムについていかれない患者がいては意味がないのでは?」との懸念も上がった。
これに関しては、単位制にすることで個々のニーズ・ペースに合わせて学習を進めていき、PPIに到達できる患者を徐々に増やしていくことが想定されているとのこと。ただし最終的には、これから患者側の意見を取り入れて、修正を重ねていく必要があると結論付けられた。