日本発の新規放射性治療薬64Cu-ATSM、悪性神経膠腫に対する承認を目指す国立がん研究センターら


  • [公開日]2024.06.27
  • [最終更新日]2024.06.26

6月25日、国立がん研究センターは「再発・難治性悪性脳腫瘍に対する日本発の新規放射性治療薬64Cu-ATSMの安全性有効性を確認 -承認申請にむけて、悪性神経膠腫に対する第Ⅲ相比較試験を開始-」と題した記者会見を開催。日本で開発された新規放射性治療薬 64Cu-diacetyl-bis(N4-methylthiosemicarbazone) (64Cu-ATSM)の第1相医師主導臨床試験の結果と、第3相試験開始について報告した。

64Cu-ATSMは、低酸素環境下の腫瘍細胞に高集積し、高い治療効果が期待できる放射性治療薬として、国立がん研究センターと量子科学技術研究開発機構により共同開発された日本発の治療薬。放射性核種64Cuは、既存の放射性治療薬で放出されるベータ線の他に、がん細胞DNAを効果的に損傷できる特殊な電子(オージェ電子)を放出できる。更に64Cuが放出するポジトロンの性質を利用して、陽電子放射断層撮影診断(PET)装置での検出も可能であるため、PETで腫瘍への集積を見ながら治療をすることも可能だ。

第1相試験は、標準治療終了後の悪性脳腫瘍を対象に、64Cu-ATSMの安全性評価、および最大耐用量と推奨用量の決定を目的として実施された(STAR-64試験)。
同試験の結果、安全性においては一時的なリンパ球数の減少が見られたものの、64Cu-ATSMの投与に起因する重篤な毒性兆候は認められず、悪性脳腫瘍に対する推奨用量は「99 MBq/kgの7日ごとに4回の投与」と決定された。
有効性においては、64Cu-ATSMを投与した18人のうち14人(77.8%)が6か月以上、12人(66.7%)が1年以上の生存を達成。脳腫瘍の中でも割合が高く、また最も難治性とされる膠芽腫においては、9人のうち5人(55.6%)で1年以上の生存が達成された。

以上の第1相試験の結果を受けて、再発悪性神経膠腫(膠芽腫や悪性度がグレード3・4の神経膠腫)を対象とした治療用放射性薬剤64Cu-ATSMの有効性を検証するランダム化比較医師主導試験が、今年6月から開始されている(STEP-64試験)。これは、再発・難治性神経膠腫において、64Cu-ATSMを投与する群と従来の標準療法を実施する群を比較するもの。64Cu-ATSM は、100 MBq/kgを7日ごとに4回静脈に投与する。両群ともに登録日から6週間ごとに画像検査を行い、1年間経過を観察、治療による全生存期間無増悪生存期間奏効率などの効果並びに安全性を評価予定だ。
今回の試験は、アカデミアが開発した日本発の新規放射性薬剤において日本医療研究開発機構(AMED)の支援をうけて第3相臨床試験まで進んだ初めての事例であり、日本におけるがん治療開発の大きな成果となることが期待される。

STAR-64試験の責任医師である成田善孝先生(国立がん研究センター中央病院 脳脊髄腫瘍科 科長)は、「悪性脳腫瘍は症例数が少ないために、薬剤承認の過程で重視される第3相比較試験が難しいが、有効や薬剤はたくさんあると信じている。今回実施する第3相試験が、今後の悪性脳腫瘍における薬剤承認のモデルケースとなることを期待している」と意気込みを語った。

またSTEP-64試験の責任医師である栗原宏明先生(神奈川県立がんセンター 放射線診断・IVR科 部長)は、「治験実施施設は限られるが(国立がん研究センター中央病院、神奈川県立がんセンター+4施設程度を予定)、継続した入院や長期にわたる治療は必要ないため、ぜひ全国の患者さんに参加してほしい」と呼びかけた。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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