前立腺がんの治療


  • [公開日]2017.11.21
  • [最終更新日]2023.02.01

前立腺がんの監視療法

前立腺がんでも、治療を早期に開始しなくてよいと判断された場合や、無治療でも進行がゆっくりで寿命に悪影響を及ぼさない可能性が高い場合に、監視療法が選択肢となります。過剰な治療を回避し、適切な時期に治療を開始することを目的とした治療法です。適切な治療開始のタイミングを捉えるために、定期的なPSA測定と、1-3年ごとの前立腺生検を行います。

監視療法は、比較的進行が遅く、転移のない前立腺内にとどまった小さながんに適しています。具体的には、PSA値が10ng/mL以下、病期がT2以下、グリーソンスコアが6以下などさまざまな指標をもとに総合的に判断します。

前立腺がんのフォーカルセラピー

前立腺がんの「フォーカルセラピー」とは、治療と身体機能の維持の両立をめざし、前立腺がんを治療しながら正常組織を可能な限り残す取り組みです。監視療法と手術など根治的治療の中間にあたる概念ですが、がんが前立腺の内側にとどまる場合、選択肢のひとつとなります。

前立腺がんのフォーカルセラピーには、高密度焦点式超音波療法(HIFU)、凍結療法、小線源療法などさまざまな療法が含まれます。そのため、事後的な評価が難しく、今のところ十分なエビデンスは揃っていません。具体的にどんな療法を行うのか、担当医とよく相談して決めていくことが重要です。

前立腺がんの手術療法

前立腺がんの手術では、前立腺と精のうを摘出した後、膀胱と尿道をつなぐ「前立腺全摘除術」を行います。また手術の際に、前立腺の周囲のリンパ節も取り除くこともあります(リンパ節郭清)。基本的には、手術によって根治が期待できる症例に対して行います。つまり、がんが前立腺の内側にとどまっていて、大きな合併症もなく期待余命が10年以上と判断される場合に最も推奨されています。ただ、前立腺の被膜を越えてがんが広がっていても、手術の対象となります(T1~T2N0M0、およびT3aN0M0の一部)。

手術の方法には、開腹手術、腹腔鏡下手術、ダヴィンチなどのロボット手術があります。近年はロボット手術が多く行われるようになっています。

1)開腹手術(恥骨後式前立腺全摘除術)

開腹手術は、全身麻酔・硬膜外麻酔を行い、下腹部を切開して行う手術方法です。

2)腹腔鏡下手術(腹腔鏡下前立腺全摘除術)

腹腔鏡手術は、炭酸ガスで下腹部をふくらませ、数カ所小さな穴を開けて、そこから専用のカメラや器具を差し入れて行う手術方法です。開腹手術に比べて出血量が少なく傷口が小さいため、体への負担が少なく、合併症からの回復も早いとされています。

3)ロボット手術(ロボット支援前立腺全摘除術)

ロボット手術は、下腹部に小さな穴を5~6カ所開けて、手術用ロボットに装備に搭載された精密なカメラや鉗子を遠隔操作して行う手術方法です。開腹手術と同等の治療効果を得られるだけでなく、人間の手と違って微細な震えなどが極限まで抑えられ、拡大画面を見ながら精密な手術ができるメリットがあります。

さらにロボット手術は、開腹手術に比べて傷口が小さく、腹腔鏡手術以上に合併症からの回復が早いとされます。目安として、入院期間は11日間程度、手術時間は3時間程度です。

前立腺がんの術後合併症

前立腺がんの手術後に、合併症として「尿失禁」(尿漏れ)や「性機能障害」が起こる確率が高いのが現状です。

(1)尿失禁

前立腺がんでは手術の際に尿の排出を調節する筋肉(尿道括約筋)が傷つき、尿道の締まりが悪くなって、尿失禁が起こりやすくなります。咳やくしゃみをした拍子などに尿が漏れる、といったことが増えます。これを防ぐために、手術でもできる限り神経や尿道括約筋を温存しますが、完全に防ぐことは困難です。

尿失禁は多くの場合、手術後の数カ月にわたって続きます。骨盤底筋体操、薬物投与で対処し、90%以上の患者さんは手術後3〜6カ月で、尿パッドのいらない状態まで改善します。一方で、少数ながら完治の難しいケースもあります。

(2)性機能障害

前立腺がんの手術直後は、多くの場合で性機能障害が起こります。前立腺全摘除術では前立腺と精嚢腺が摘出されるため、射精はできなくなります。また、前立腺がん手術には勃起神経を温存する方法と、同時に切除する方法がりますが、勃起神経を温存しても40%の人に勃起障害が発生します。

勃起障害の改善は、神経温存の程度、年齢、術前の勃起能などによって異なりますが、完全に回復することは難しいのが一般的です。ただし、勃起神経を温存した手術後の勃起障害には、飲み薬による治療も有効といわれています。

前立腺がんの放射線療法

放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射することでがん細胞を攻撃し、がんを小さくする療法です。手術と同じく、根治も目指せる治療法のひとつです。

海外で行われた研究では、外照射療法と組織内照射療法を組み合わせることにより、外照射療法を単独で行うよりも有効性が上回ったという臨床試験の結果が発表されています。ただ、副作用も多かったと報告されており、どちらがどのように優れているか、十分なエビデンスはありません。担当医とよく相談して決めることが大事です。

放射線療法は、低リスク・中間リスク・高リスク群のすべてにおいて使える治療法です。しかし、高リスク群に対して放射線療法を実施する場合には、内分泌療法を長期間併用することが推奨されています。また、近くの臓器に及んだがんに対しても放射線療法は行われます。

1)前立腺がんの外照射療法

前立腺がんの外照射療法は、体の外から前立腺に放射線を照射する治療法です。一般的に、1日1回、週5回のサイクルで7~8週間ほど継続して行います。治療範囲をコンピューターで患部の形に合わせることで、直腸や膀胱など周囲の臓器に当たるX線の量(線量)を減らす「三次元原体照射(3D-CRT)」や、その進化形である「強度変調放射線治療(IMRT)」を行うこともあります。

また、いろいろな方向から前立腺がんにX線量を集中させる「定位放射線治療(SRT)」と呼ばれる方法もあり、その場合はおおむね5回程度、短期間で治療します。

このほかにも、粒子線を用いた「粒子線治療(陽子線、重粒子線)」があります。X線を用いた治療では体の表面近くで線量が最大になります。一方、粒子線治療では体の深いところ(がんのある部分)で線量が最大になるように調節できます。これにより、効率よく患部に線量を集中し、正常組織への線量を少なくできます。ただし、施行可能な施設は限られています。

外照射療法の主な副作用は、3カ月以内に生じる急性期のものとそれ以降に生じる晩期のものがあります。

  • 急性期の副作用
  • 頻尿、排尿・排便時の痛みなど
  • 晩期の副作用
  • 排便時の出血や血尿など

なお、副作用の治癒には数年かかることもありますが、その頻度は高くはなく、重篤なものはまれです。

2)前立腺がんの組織内照射療法

前立腺がんの組織内照射療法は、放射線を出す物質を小さな粒状の容器に密封し(線源)、前立腺の中に入れて体の中から照射する方法です。がん組織のすぐ近くに線源を置けるため、位置がずれにくく常に高い線量を照射することができます。

ただし、前立腺肥大症の治療で前立腺を削り取る手術を受けた場合、この治療は行えません。また、前立腺が大きすぎる方では、その一部が恥骨の後ろに隠れてしまい、線源を埋め込めない場合があります。そのようなケースでは、治療前に内分泌療法を行い、前立腺を小さくすることもあります。

組織内照射療法には、低い線量の線源を永久的に埋め込む「密封小線源永久挿入療法」(LDR:low dose rate)と、高い線量の線源を一時的に埋め込む「高線量率組織内照射法」(HDR:high dose rate)があります。

密封小線源永久挿入療法

密封小線源永久挿入療法では、麻酔をかけ、超音波で確認しながら、専用の機械を用いて陰のうと肛門の間(会陰)から前立腺に線源を埋め込みます。治療はおよそ半日で終了しますが、手術後に少なくとも一晩は入院が必要です。埋め込まれた放射性物質は半年ほどで効力を失うため、線源を取り出す必要はなく、周囲の人にはほとんど影響ありません。

高線量率組織内照射法

高線量率組織内照射法では、麻酔をかけた後、管状の針を10数本ほど会陰から刺し、その針に線源を通して放射線を照射します。翌日ないし数日間、針は刺したままで、1日1回照射を行います。必要な場合はその後、外来での外照射療法を併用します。

外照射療法では排便に関する副作用が多く、組織内照射療法の副作用は排尿に関するものが多いという特徴があります。治療後、3カ月間ほどで徐々に排尿困難感や頻尿が進み、そこからおよそ1年かけて、徐々に低減していきます。尿失禁を起すことはまれです。また、年齢にもよるものの、外照射療法に比べて性機能が維持される割合が高いという特徴があります。ただ、精液量は減少します。

前立腺がんの薬物療法

前立腺がんの薬物療法は、ホルモン治療を行う「内分泌療法」と、抗がん剤による「化学療法」に大きく分かれます。

1)前立腺がんの内分泌療法(ホルモン療法)

前立腺がんは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモン「アンドロゲン」が、前立腺のアンドロゲン受容体(AR)に結合することで増殖し、悪化します。そこでアンドロゲンの分泌や受容体への結合を妨げる薬剤を用いて増殖を抑えるのが、内分泌療法(ホルモン療法)です。

前立腺がんの内分泌療法は、高齢などで手術や放射線治療を行うことが難しい場合のほか、他の臓器への転移や再発が見られた場合、また前立腺がんの悪性度が高い場合に手術や放射線治療の前後にも行われます。

抗アンドロゲン薬には注射(LH-RH[黄体形成ホルモン放出ホルモン]アゴニストまたはアンタゴニスト)と飲み薬(抗アンドロゲン剤)があります。注射薬は皮下注射で、1~6カ月ごとに注射することでアンドロゲンの分泌を抑制します。また飲み薬は、前立腺のアンドロゲンの合成を妨げるほか、アンドロゲン受容体に結合してアンドロゲンの前立腺がん細胞に対する働きを遮断するものもあります。

内分泌療法は前立腺がんに有効な治療法ですが、長く治療を続けることで反応が弱くなり、病状がぶり返してくる「再燃」が生じます。再燃すると、、内分泌療法の効果が弱くなり、悪化・転移が始まります。この状態を「去勢抵抗性前立腺がん」(CRPC)といいます。

去勢抵抗性前立腺がんに対しては、通常はさらにアンドロゲンを強力に抑える新規薬剤を投与します。アンドロゲンの受容体への結合を阻害する「イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)」や「アーリーダ(一般名:アパルタミド)」、「ニュベクオ(一般名:ダロルタミド)」のほか、アンドロゲン合成を阻害する「ザイティガ(一般名:アビラテロン)」などがあります。また、化学療法や副腎皮質ホルモン剤、女性ホルモン剤を組み合わせて治療を行うこともあります。

ただ、これらも治療の初期は効果が見られるものの、次第に効果が弱くなるため、内分泌療法だけで前立腺がんを根治させることは難しいのが現状です。

なお、前立腺がんの内分泌療法の副作用として、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、急な発汗)、性機能障害(勃起障害、性欲低下)、乳房の症状(女性化乳房、乳頭の痛み)、骨に対する影響(骨密度低下、骨折)、疲労のほか、肝機能障害、糖尿病の悪化、心血管イベントなどが見られることもあります。

これらの副作用は、主に治療によってアンドロゲンが低下することで、相対的に女性ホルモン(もともと男性にも存在します)が優勢になるために起こります。多くは一過性で徐々に慣れてきますが、副作用が強すぎる場合は、薬の種類を変更したり、治療を中止したりすることもあります。

2)前立腺がんの化学療法

前立腺の化学療法は、抗がん剤を注射、点滴または内服することで、がん細胞を消滅させたり小さくしたりするために行われます。一般的に、去勢抵抗性前立腺がんや、はじめから内分泌治療が効かない前立腺がんで転移があるような場合に選択されます。

「タキソテール、ワンタキソテール(一般名:ドセタキセル)」で効果が不十分な場合、「ジェブタナ(一般名:カバジタキセル)」を使用することができます。いずれも「微小管阻害薬タキサン系)」と呼ばれる種類の抗がん剤で、細胞分裂に現れて重要な役割を果たす微小管の働きに作用し、細胞分裂を妨げることでがんの進行を抑える薬です。通常、初回は入院で行いますが、2回目以降は外来通院で行います。

前立腺がんに対する化学療法の副作用として、骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)、発熱、間質性肺炎、浮腫、倦怠感、脱毛などがあります。発熱は、白血球減少の結果である「発熱性好中球減少症」の症状で、重い感染症につながる場合があり注意が必要です。脱毛などは、末梢神経が障害される結果です。

前立腺がんの転移に対する治療

前立腺がんは骨や肺、リンパ節への転移が多いといわれます。転移のある前立腺がんの治療は、内分泌療法や化学療法が中心となります。また転移の数や部位によっては、放射線の外照射療法などの治療を追加することがあります。
 
骨転移のある前立腺がんでは、「ゾレドロン酸」や「ランマーク(一般名:デノスマブ)」など、破骨細胞(骨を破壊・吸収する働きをもつ細胞)を抑制することで骨転移の進行を抑制する薬を使います。また、痛みを和らげる治療として、鎮痛剤のほか、痛みの範囲が一部に限られている場合は、外照射療法も効果的とされています。

また、骨折予防として外照射療法を行うこともあります。去勢抵抗性前立腺がんで、病巣が骨転移のみであれば、「ゾーフィゴ(一般名:塩化ラジウム(223Ra))」の注射治療を行うこともあります。この治療は、点滴で投与されたラジウムが骨転移部位に集まり、そこでアルファ線を放出してがんの勢いを抑えます。

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