患者団体に聞く! NPO法人中皮腫サポートキャラバン隊 右田孝雄さんみぎえもんブログから始まった患者交流活動 -患者は「治療法」の開発を願っている-


  • [公開日]2023.10.13
  • [最終更新日]2023.10.13

はじめに

今回は、中皮腫サポートキャラバン隊の「ミギえもん」こと右田孝雄さんにお話をお伺いしました。
右田さんとはオンコロ立ち上げ初期からお付き合いをさせていただいており、がん患者さんにとって治験がどれほど大事なものかということを、私たちオンコロスタッフに教えていただいた方でもあります。
会の立ち上げから最近のトピックスまでお話をお伺いしました。

中皮腫診断と挫折。そして仲間との出会いとキャラバン隊のスタート

濱崎:右田さんが中皮腫と診断されたときのことを教えてください。

右田:はい。2016年に中皮腫と確定診断されました。聞いたこともない病名で、悪性と書いてあるが「がん」でないなら治ると楽観的に思っていたんですよね。
でも、医師に相談したら、「がん」よりたちが悪い、予後が悪い病気と言われ、とてもショックを受けました。まわりに中皮腫の人なんていないし、相談もできない。ひと月は落ち込んでいましたね。
気持ちを変えたのは、ヨーロッパでテロがありバス爆発で多くの人が亡くなったニュースです。突然の死により、家族にも挨拶やお礼もできず、日々の生活をいきなりさえぎられたという事実を知ったときに、自分は余命2年と言われたが、落ち込むのはもったいない、その期間でやりたいことやってしまえばいいと、気持ちが奮い立たされました。
そこから、同じ中皮腫の患者を探すためにブログを始めました。

濱崎:そのブログからキャラバン隊の活動が始まったのですね。

右田:はい。ブログを開始してから徐々に仲間が集まっていきました。一年が経ったころ、中皮腫の仲間7人で集まろうという話になり、それがきっかけで栗田さんと出会うこととなったんです。

濱崎:一緒に会を立ち上げた栗田さんですね。

右田:栗田さんとは初めて会った気がしなく、すぐに打ち解けました。
栗田さんは、中皮腫の方にインタビューをして、その内容を本にしたいと思っていました。僕も栗田さんに誘われる形で行動を共にしていき、全国にいる中皮腫の患者さん・ご家族に会いにいく、という中皮腫キャラバン隊の活動がスタートしました。

栗田英司さん(右)との出会いから始まったキャラバン隊

※右田さん(ミギえもん)ブログはコチラから

患者同士だから分かり合えること。患者同士の交流が活動の原点

濱崎:実際に患者さんや家族と会ってみてどうでしたか?

右田:家族(遺族)の方は、最初は物珍しそうに対応してくれましたね。でも、患者さんは孤立していたので、そのうち来てくれて嬉しいという感じも見受けられました。いろんな身の上話を語ったり。孤独感をひしひしと感じることが多かったです。

濱崎:キャラバン隊での活動で大切にしていることを教えてください。

右田:活動の原点はがん患者さんとの交流などのピアサポートです。
栗田さんが亡くなってからもその気持ちは変わらない。それは患者である僕ができることだし。患者同士なら互いに「頑張ろう」って言い合える。
患者さん同士なら分かるから、医師にどう伝えたらいいのかなども話し合える。
患者同士でしか伝えられないものがあると思っています。
また、僕たちが元気を分け与えているつもりが、僕らが元気を貰ってもいることもありますね。
この活動は一方的なものではないのです。

濱崎:活動をしていて大変なことや辛いこともあるのではないでしょうか。

右田:悲しいのは、亡くなったら抜けていくことですね。
何人も亡くなられると、慣れていきそうになる。でもそれは慣れたらいけない。隊の人にもそう言っています。
キャラバン隊入ってから何回葬式に行ったのだろうか……。礼服を結婚式でも着たいですね。
人は忘れられたら二回目の死になると言いますよね。だから、寝られないときにはみんなのことを思い出すようにしているんです。
僕がたまたま、中皮腫に罹って8年も生きていて、代表をしているのはなぜかと思うことがあります。それは亡くなった方がもっと頑張れと言っているのかもしれない。そのような想いが僕を生かしてくれているのかもしれないなと。

中皮腫患者が望んでいること

濱崎:中皮腫は「アスベスト」が原因となっているが、それについてどう感じていますか?

右田:怒りの感情を感じる方が多いですね。本人以上に家族の方が、怒りが強いように思います。
また、アスベストに暴露した原因が分からない人が半数近くいるんです。
その人達はどこで吸ったんだろうと悩みますよね。中皮腫は国からの救済制度がありますが、しっかりとした保証を受けるためには、どこでアスベストに暴露したかが明確にならないと難しい。僕自身、それが判明し認められるまでに5年以上の時間がかかった。
ここまで生きていたからよかったけど、死んでいたらアスベストに暴露した原因はわからずのままだった。
学生や幼少期のときのことを忘れている人もいるだろうし、断片的・抽象的な記憶な人もいます。
もっと平等に中皮腫の救済制度が受けられるようになることを願いたいです。

濱崎:ほかに何か国や製薬企業に伝えたいことはありますか。

右田:とにかく治療法が欲しいです。
中皮腫は治療が難しい病気です。そもそも病気自体が珍しい。
有効な治療法は多くはないし、新たな治療法の開発を望んだとしても、その声を発信する前に、先が絶たれてしまうことのほうが多い。僕みたいなのは本当に稀なケースなんです。
もちろん、製薬会社というのは、患者が多い疾患を優先するのは分かっています。それは当たり前なのでしょう。
でも、見捨てないでほしい。
民間企業で限界があるならば、国が動いてほしい。
アスベストによる中皮腫の補償はありますが、遺族が多いこともあり薬の開発に目がいきにくい。
補償や救済制度もとても大事です。でも、今中皮腫に罹って生きている人もいます。これからも罹患者は出てきます。
僕たちの活動で寄付金などを集めていますが、本当はお金じゃなくて治療法が欲しいのです。でも、現状では新たな治療法をつくるためにはお金がいる。とても難しい状況なのです。
とにかく伝えたいことは——患者の命を救うのはやはり薬だから。治療法が欲しい、と言いたいです。

右田さんの直筆メッセージ

中皮腫と診断された方に知ってほしい!自身の経験を生かした動画企画の実施

濱崎:中皮腫の解説動画「ミギえもん&Dr.ハシモト中皮腫のこと教えてください」についてお話を聞かせてください。

右田:日本で最も多くの中皮腫患者を治療している兵庫医科大学の呼吸器外科医・橋本昌樹先生にご協力いただき制作しました。
中皮腫になって、自分で情報を探したり学んだりできる人はいるとは思いますが、みんながそうできるわけではないですよね。僕自身も、診断当初は中皮腫って何?とか思いながらも、自分で調べようとは思わなかった。
あとから厳しい病気だとわかり、どん底に落ちていき、そして病気のことはよくわからないので先生の言いなりの治療をしていた。このような状況の方は多いんじゃないのかなと思います。
そうならないために、今日明日に中皮腫と診断された方が中皮腫についてわかる、初級者向けのものを作りたかったんです。
これまでの活動の経験からも、中皮腫について詳しい医師とそうでない医師の格差が大きいように感じています。そのため、患者自身もある程度中皮腫とその治療について分かっていた方がよいと思っています。

※「ミギえもん&Dr.ハシモト中皮腫のこと教えてください」はコチラから

命をつなぐための治療開発。治療開発に必要なものとは

濱崎:中皮腫治療推進基金の活動について教えてください。

右田:先ほども話したように、患者にとって一番は命であり治療です。
でも、治療の研究や治療法の開発には沢山のお金が必要となる。実際に、効果の期待できそうなお薬が開発費の問題で進んでいかないという実態を目の当たりにしてきました。
この中皮腫治療推進基金では、中皮腫治療の研究開発のためのお金を集めて新しい治療につなげたいという想いがあります。
製薬企業がお金を出せないのなら、医師主導治験しかない。協力してくれる医師はいますが、一番の壁はお金なんですよね。

濱崎:このような現状があること、そして患者さんは治療法を待ち望んでいるということがもっと世の中に伝わり、よい良くなっていくことを切に願います。

中皮腫治療推進基金の代表理事である中川和彦先生(右)と

※中皮腫治療推進基金のHPはコチラから

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