希少がんMeet the Expert 第3回 肉腫(サルコーマ)総論~ディスカッション~


  • [公開日]2017.04.27
  • [最終更新日]2017.05.10
スピーカー
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科 希少がんセンター長 川井 章
国立がん研究センター希少がんセンター 加藤 陽子
肉腫(サルコーマ)の会たんぽぽ 代表 押田 輝美
認定NPO法人キャンサーネットジャパン理事 柳澤 昭浩
がん情報際サイト「オンコロ」オンコロジー事業本部 本部長 可知 健太
開会挨拶
講演 前編
講演 後編
ディスカッション

柳澤) 川井先生ありがとうございました。おそらくかなりの質問が、川井先生の講義でカバーされている可能性があります。個人の、病気、相談、質問はお控えくださと言うのですが、ご自身のことは、とても気になりますし、その質問がかなり多いですが、残り時間を考えると、すべての回答はほぼ不可能と判断いたしました。とはいえ、この質問は川井先生に後からお答え、テキストでお答えいただいて、ホームページなどでお答えいただけるようにしたいと思いますが大丈夫でしょうか。また聞き取りなどで代表的な質問と事前にいただいた質問で、有益なお話を聞ける質問については、お伺いしておきたいと思います。

まず国立がん研究センターといえば、去年年末、NHKさんで取り上げたプレシジョン・メディシン。これは、肺がんや大腸がんだけではなく、さまざまな領域の患者さんがご興味を持って注目をされておりました。今日の肉腫を対象として、あるいは肉腫の領域でプレシジョン・メディシンの方向性、あるいは可能性というのはあるのでしょうか?という質問が結構ありましたが、いかかでしょうか?

川井) オバマ大統領が2015年、プレシジョン・メディシンということを言いました。それまで個別化医療などという言葉で私たちも呼んでいましたが、実際はプレシジョン・メディシンの意図するところは何かと私なりに考えるのは、やはり個別化医療とほぼ同じです。そのシークエンスが非常に深くなっている。遺伝子の解析をきちんとすることによって、その腫瘍の持っている性格をはっきりさせて、それに対して一人一人に合った治療をしましょうということであります。

国立がん研究センターでは次世代シークエンサーを使って、がんに特異的な遺伝子を網羅的に、現在百数十種類のがん遺伝子をスクリーニングして、先ほどお話をした1次治療、あるいは2次治療がなかなか効かなくなった患者さんに対して、まだお薬ではない段階の治験で新しいお薬になるかどうかわからないけど、この人にとっては特効薬になるかもしれないというお薬を探す試みを現在行っています。

肺がんや乳がん、すべてのがん腫に対してやっていますが、それと同じプラットフォームに肉腫も乗っています。肉腫の患者さんで1次治療、2次治療が効かなかった患者さんを、その遺伝子解析を現在するようになっていますが、残念ながら今までのところがんと同じがん遺伝子を調べても、肉腫に対してさほど特徴的なお薬になるという遺伝子異常は見つかっていません。

その理由は何かと考えると、今日最初に話をしましたが、がんと肉腫というのは、少し遺伝子の異常の在り方が違う。だからがん遺伝子でおかしくなっているような、いわゆる上皮の癌でおかしくなっているようながん遺伝子を調べても、同じような異常は、肉腫には起こっていないんじゃないかということを、今考えています。現在私たちは、その次世代シークエンサーを使って、ある程度肉腫に特化した遺伝子異常を調べるパネルを作ろうということを考えています。これがいつできるかというのは、まだお話しできませんけれど、そういうものを作っていく必要があると考えています。

柳澤) どうもありがとうございます。それに関連をして、特定の遺伝子の異常がなく、なかなか難しい領域であろうということですが、可知さんは社会的に「オンコロ」というサイトのほうでは、いろいろ毎回更新される治験情報というのを、あるいは臨床試験情報を集めて、サイトで出していますね。毎回取り上げる疾患を調べて来てもらっていますが、肉腫は、どんな状況ですか?

可知) 今、肺がんでEGFRや、そういった遺伝子変異があり、川井先生がおっしゃったように肉腫はなかなか見つからない中で、最近、NTRKという遺伝子変異がわりと肉腫では多いので、とはいっても肺がんは1%くらいです。肉腫はもう少し多いくらいのものだと思いますが、そういった遺伝子変異があるとある薬剤が効くんじゃないかということが、アメリカのほうでわかってきまして、実を言うとこの薬剤は治験が実施されてます。このタイプは肺がんや乳がん、大腸がんが対象とかのいうがん腫で絞ったスタディではなく、バスケットスタディと言うんです。

NTRKや、ALK、ROS1など、この三つの遺伝子変異があると効くような治験が、今動いてまして、それの遺伝子検査を個別に行って、これらの遺伝子変異があると、この治験薬を使えるといったスタディが、まさに今走っています。どのホームページで見るかというと、SCRUM-JapanのホームページのLC-SCRUMの治験情報のところに載っているんですね。

肉腫なので、あまり関係ないと思いきや、肺がんのところの情報にこの治験情報が載っていて、しかも医療機関も載っていますので、まず見ていただければと。見方がわからなければ「オンコロ」のほうに提案していただいたり、ホットラインのほうにかけていただければ、実はこのがんセンターさんもやっていると思います。何かコメントありますか?

川井) 今お話があったのは、STSRTRK-2という臨床試験だと思いますが、肉腫も入れるバスケットトライアルが、今がんセンターでも動いています。幾つかの遺伝子異常があれば、その治験薬を使うことができます。肉腫は非常にまれな病気ですし、その中の2%から8%に異常があると、私たちは考えています。だから患者さん皆さんにあたるわけではありませんが、今お話があったように考えてみてもいい選択肢と思います。

柳澤) ありがとうございます。可知君は治験のことは一生懸命取り組んでいます。昨日ちょうど関連情報で、Googleの検索結果について、この十年、本当に検索は大変なんです。けれどもSEO対策といって情報を着飾らしたりとか、皆さんの耳障りのいい情報というのは検索上位に上がるんです。それは情報の価値以上に膨らませて、皆さんの目に届こうとするのですが、あんまりきれいじゃないようなサイトですけれど、情報はしっかり出していきたいと思いますので、よかったらまた見てください。

加藤さん、今希少がんセンターのホットラインのほうでは、肉腫の患者さんがとても多いと聞きましたが、その中でもどういったご相談やお話が多いんでしょうか?

加藤) 希少がんホットラインは、2014年1月から始まって8,000名以上の患者さん、ご家族の方、医療者の方からご相談の電話を受けております。そのうち肉腫は約30%です。どういう相談が多いかというと、病院に行ったけれど「初めて肉腫というものを見た」と担当の医師に言われ「どこに行ったらいいかわからないから」と言われたという内容が一番多いです。

手術をしたら病理結果で、最初何かわからなくて手術をしたら、病理結果で肉腫と言われた、と。担当している先生が「肉腫は初めてだ」と。その後「この手術で良かったんだろうか?」、「このあとどのような治療をしたらいいのだろうか?」というようなことを言われたので、というご相談の電話があります。皆さん希少がんセンターを受診したいということで、30%の相談受けて約15%くらいの方は、がんセンターのほうに受診を、初診もしくはセカンドオピニオンでいらしています。

相談して感じることは、川井先生が講義されましたが、肉腫の種類が50種類以上あるんですね。「私、脂肪肉腫です」、「平滑筋肉腫です」という簡単な肉腫の名前は出てくるみたいですが、肉腫は悪性末梢神経鞘腫(あくせいまっしょうしんけいしょうしゅ)といって、患者さんたちはなかなか覚えることが難しいみたいです。

担当の先生が、築地のがんセンターはたぶん面談表に先生が書いてくれるから、それを見て私の肉腫はこの種類だとわかるらしいんです。ほかの施設だと先生が口頭で説明するので、悪性とは聞いたけれど肉腫とか、病気の名前が新しく作られてきたりとか。肉腫であっても、そこにリンパ腫や、いろいろな新しい名前が作られて電話をかけてくるということが結構あります。そういう場合は患者さんのお話をお聞きして、一緒に病状を整理して、わからないところは担当の先生に聞いてほしいというアドバイスをしております。

柳澤) ありがとうございます。そんな中で、国立がん研究センターの希少がんセンターにご相談されると同時に、一般の方々がもう少し相談しやすい、医学的ではない問題の共有をする場所として、患者会がありますね。乳がんやほかの疾患ではたくさんありますね。ただ先ほど加藤さんのご指摘にもあったように、肉腫というのはたくさんの種類もあるし、罹患者数もそれほど多くない中で、患者会というのが少ないけれどもあります。今日は押田さんに来ていただきました。川井先生と加藤さんの話を受けて、患者会はどういう役割や、どのようなことが対応できると思われていますか?

押田) 私どもが患者会を作ったのがちょうど2年前の2015年になりまして、まだそれほど活動も活発ではなく、やり始めたばかりの患者会なんです。私たちが患者の立場としてできることとしては、先ほど先生の講義の中でもありましたが、自分がどういう治療していきたいか、や、肉腫は後遺症や障害が残ることが多いので、治療の選択を迫られた時に実際に「手を切ります」「足を落とします」と言われた時に迷いますよね。そういう時に患者会のところに、お茶会形式などで遊びに来ていただいています。

そういう方々も今、元気でいらっしゃるとか、闘病していらっしゃるというのを実際に見ていただきます。そうすると「じゃあ私も頑張ってみようかな」「僕も頑張ってみようかな」という気持ちになって、治療を早く進めていただけるというメリットがとても大きいです。初めてお会いする方もたくさんいらっしゃいますので、仲間はたくさんいるんだよということを、一番知っていただきたいかなと思ってます。

柳澤) ありがとうございます。今日のこのような機会で、同じ体験や同じようなものに直面する方が集まる機会を作ることは、欧米でもその重要性と有用性はわかってきています。その時、1点だけ医療者の懸念というのがあって、川井先生もたぶん懸念されているところかと思います。押田さんは、川井先生のような専門家が、きちんと医学的なところは協力するというようなところがあると思います。具体的にそういう会を予定されていらっしゃいますか?

押田) 勉強会は年に2回ほど、国立がん研究センターの川井先生などのご協力いただきまして、肉腫についての外科的な治療ですとか、内科的な治療ですとか、その時にテーマを決めまして年2回ほど定期的にやらせていただいおります。その他にもお茶会という、月に一回ほど、19階のレストランで、たんぽぽの会の会員ではなくどなたでも参加できる会を開いています。集まれる会を作って、共有するかたちにしたい。

柳澤) 次はいつですか?

押田) 次は、実は明日がお茶会なんです。

柳澤) 頑張れる方は明日来られてはどうでしょうかね。

押田) 勉強会は来月、4月の8日に予定しております。今回は外科的治療がなかった、内科的治療がテーマです。

柳澤) ご案内告知をしていただき、たくさんの人に参加してもらえればと思います。時間は予定を過ぎました。しかしながらたくさんの方、複数の方から頂いているご心配の質問について、川井先生にコメントを頂いておきたいと思います。やはり遺伝を気にすると、ご自身が肉腫になった、そのあと家族に遺伝するのですかと懸念をされている方が複数おられますけど、どうでしょうか?

川井) 一言で言って、まず遺伝はしません。遺伝はしませんから、まず安心していいと思います。しかしながらやはり例外というのがあって、幾つかの肉腫は遺伝性の疾患に続発して起きます。一番代表的なのは、レックリングハウゼン病と言いますが、そのような病気を持っていらっしゃる患者さんは、生涯の間に、2割か3割の方が肉腫を発症します。これは遺伝をします。レックリングハウゼン病という病気ですね。

あとは非常にまれなリー・フラウメニ症候群など、もともとご本人の体にもともと遺伝子の異常があって、それがために肉腫になりやすい病気がありますが、それは非常にまれですので、多くの方はまず肉腫は遺伝しないと考えていただいていいと思います。それはきちんとした専門の先生に聞けば、私の病気は遺伝するかしないか、というのは答えてくれますので、聞かれてみたらいいと思います。

柳澤) ありがとうございます。こうやって言っていただけると大変心強いですね。ある疾患や、地方の患者さんからお話を聞くと、がんと遺伝というのは、その実態以上に思われている人もおられて、今ほとんどないということと、実際にほかのがん腫でも数%、あるいはそれ以下というのが通常です。一部大きく報道されますよね、BRCA1、BRCA2など乳がんのことが大きく報道されますけれども、きちんとそういうことも医療者に聞くことが大事と思います。

加藤さんに最後に聞きたいのは、相談者に結構多いと思いますが「食べるもの注意したほうがいいですか?」。再発予後のためにですね。よくいらっしゃいます。肉を断つ方などおられるんですけど、そこはどのようにお答えされてますか?

加藤) まず川井先生、根拠は全くないですよね?食事は。

川井) 根拠はないですね。バランスのいいものをおいしくしっかり食べるというのがいいと思います。これを断てばいいというものはありません。私自身も肉親にがんの患者がいました。その時に「お肉は食べては駄目」などと、やはり言うのです。そういう気持ちはよくわかりますが、肉腫に関してお話をすると、食べ物で良くなったり悪くなったりすることは基本的にはありません。

加藤) 今日、相談でニンジンを食べると、ほかの希少がんですが「進行しないから一生懸命ニンジンを食べてるんだ」と。「それはどこで言っていたのですか?」と聞いたら、インターネットだったらしいですね。何の療法か私はわからなかったのですが、患者さんはそれを食べたら自分は転移とか再発はしないんじゃないか、と願掛けしてたみたいです。、でもそこには、きちんと根拠がないし「もし食事のことで気になるようであれば、主治医の先生に相談してみたらどうですか?」と、お答えしてます。

さきほど柳澤さんからもお話がありましたけど、インターネットを見てから皆さん電話をかけてこられるのですが、横に載っている広告はいろいろなものがあるので、十分お気を付けになられて、どの情報が正しいのかという判断をする能力を付けるというのも、患者さんやご家族の方の一つのちからというか、能力なのではと思っております。

柳澤) ありがとうございます。私から二つだけポイントをあげると、インターネットをみるときに「広告」と言いましたが、そもそも広告がないサイトがあります。横に出てこない。グーグルアドセンスといって自動的に出てこないサイトがあります。そこはまあまあ信頼できるのではと思います。例えばキャンサーネットジャパンや「オンコロ」のサイトは自動的に出ないようにしています。免疫細胞クリニック、細胞気をつけましょう、クリニックに気をつけましょう、という記事の横に免疫細胞療法のクリニックの広告が出たりします。そういうのがあるのです。

公的機関、国立がん研究センターなど、そのようなところの情報を一番初めに見に行くというのが大切だと思う。この2点がわかればずいぶん変わってくると思っています。で、時間が本当に過ぎてしまって申し訳ありませんがセミナーは終わりにし、この辺についてはもう1回、時間を頂いて質問だけお答えいただいて大丈夫ですか?

川井) 私の話が長くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。頂いたご質問に対しては、お答えできるものはきちんと後日メールでお答えしていきたいと思います。

柳澤) よろしくお願いいたします。肉腫については、6月に「四肢の肉腫」というテーマで手足の疾患を取り上げます。皆様ご存知かと思いますが、テリー・フォックス氏、カナダ人ですよね。大変勇敢ながんの体験者がおられて、カナダや欧米の研究が一気に進んだきっかけとなった疾患です。是非、四肢のがんにもご参加いただきたいと思います。私の司会も中途半端で申し訳ありませんでしたが、以上でこのセッションを終わりたいと思います。

加藤) 皆さん、長い時間ありがとうございました。今日は「肉腫の総論」というテーマでしたが、この企画の計画立てたのは私で、実は肉腫はたくさんの種類があり、今日この中に子宮肉腫の患者さんもいらっしゃると思います。「なぜ子宮肉腫のテーマはないのですか?」と言われてしまいましたが、今回の経験を基に来年は必ず子宮肉腫や、後腹膜の肉腫や部位など、年齢に合わせて計画を立てていきたいと思います。今日は、肉腫の総論ということで、肉腫ってこんな感じなんだというのを覚えていただけたらいいんじゃないかなと思います。

会はこれで終わりにさせていただきたいと思います。アンケートがありますので、なにかご希望等ございましたら記入していただいて、席に置いてお帰りください。首にぶら下げておりますネームも、その場所に置いていただくかスタッフにお渡しください。玄関は閉まっているので、出るときはスタッフの指示に従って、外へ出ていただくようよろしくお願いいたします。以上を持ちまして第3回、「肉腫~総論~」を終わりにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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