大腸がんの治療


  • [公開日]2017.02.20
  • [最終更新日]2022.12.23

大腸がんの治療方針

一般的に、がんが粘膜下層までに留まり、多臓器やリンパ節への転移がみられない場合(I-III期)には、内視鏡治療、または手術が選択されます。一方、粘膜下層深部に達している場合や、多臓器やリンパ節への転移が見られる場合(IV期)、切除可能であれば手術が、切除不可能であれば放射線治療や薬物療法が選択されます。

大腸がんの内視鏡治療

肛門から内視鏡を入れ、大腸内を観察しながら病変を切除する治療法です。がんの転移が殆どなく、粘膜下層への広がりが軽度(1mm)までにとどまっている症例が適応となります。
切除方法には、下記の3つの方法があり、病変の大きさや形などで決定されます。

内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)

金属の輪(スネア)を腫瘍にかけて、病変を絞めつけると同時に高周波電流で焼き切ります。腫瘍が1cm未満の場合には、高周波電流なしのコールドポリペクトミーが行われます。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

腫瘍の盛り上がりが少なくスネアがかけにくい場合、病変の下に生理食塩水などを注入してから、周囲の正常な粘膜の一部を含めて病変を切り取ります。

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

主にEMRでは切除が難しい大きな腫瘍が対象です。病変の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入してから、病変の周りを高周波ナイフで徐々に切開し、はぎ取るようにして病変を取り除きます。

大腸がんの手術

手術は、切除可能な腫瘍のうち内視鏡治療が難しい場合に選択されます。がん病変部位に加えて、がんが広がっている可能性のある朝刊部位とリンパ節も併せて切除します。

結腸がんの手術

がんのある部位から10cmほど離れたところを目安に腸管を切除することで、病変部位と周囲のリンパ節を同時に切除することを目指します。部位によって回盲部切除術、結腸右半切除術、横行結腸切除術、結腸左半切除術、S状結腸切除術などの方法が選択されます。また、がんを切除できない場合には、便が流れるように迂回路を作るバイパス手術や人工肛門(ストーマ)を作る手術を行うこともあります。

結腸がんの手術

がんのある部位によって、肛門を残す場合とストーマを作る場合があります。また、直腸は骨盤内の深い部分に位置し、周囲には膀胱・前立腺・子宮・卵巣などがあります。そのため、排尿や性機能を調節する自律神経に近いため、手術後に機能障害が最小限ですむよう、自律神経を残す手術が検討されます(自律神経温存術)。直腸がんの部位や進行の状況により、直腸局所切除術・前方切除術・直腸切断術・括約筋間直腸切除術の中から適切な方法を選びます。

大腸がんの薬物療法(全身療法)

大腸がんにおける薬物療法は、手術後の補助療法として実施するケースと、切除が難しい進行・再発症例に対して実施するケースがあります。

術後補助療法

手術後に体内に残っている可能性のある目に見えないがん細胞を攻撃し、再発を予防する(再発までの期間を遅らせる)目的で行うことが推奨されています。細胞障害性抗がん剤を内服や点滴で使い、6ヶ月間実施することが一般的です。

進行・再発症例に対する薬物療法

切除が難しい症例に対し、がんを小さくしてし手術ができる状態にすることや、がんの進行を抑えることで、延命や辛い症状を緩和することを目的として行われます。
初回治療を決める際には、ますMSI(マイクロサテライト不安定性)検査、RAS遺伝子検査、BRAF遺伝子検査を行います。

MSI検査でMSI-High(遺伝子の損傷を修復する機構がうまく働かない)と判断された場合には、免疫チェックポイント阻害薬を最初に使うことが推奨されています。二次治療以降は、細胞障害性抗がん剤または分子標的薬のいずれか、または両者の併用療法の中から検討していきます。初回治療で免疫チェックポイント阻害剤を使わなかった場合には、二次治療以降で使用されることもあります。

MSI-Highではなかった場合、遺伝子検査の結果に関わらず、一次治療では細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数の治療法の中から検討します(遺伝子変異がなく、がんが下行結腸、S状結腸、直腸にある場合には、分子標的薬のみを用いることもあります)。

二次治療では、一次治療で使用しなかった細胞障害性抗がん薬と分子標的薬を併用する複数の治療法の中から検討します。また遺伝子検査によりRAS遺伝子またはBRAFV600E遺伝子の異常が認められ、一次治療で分子標的薬のみの治療を行わなかった場合、二次治療で分子標的薬のみを用いることがあります。

三次治療以降では、二次治療までに使用しなかった細胞障害性抗がん薬もしくは分子標的薬のいずれか、または両者を併用する複数の治療法の中から検討します。また遺伝子検査によりRAS遺伝子またはBRAFV600E遺伝子の異常が認められ、二次治療までに分子標的薬のみの治療を行わなかった場合には、三次治療以降で分子標的薬のみを使うこともあります。

大腸がんの放射線治療

がんの再発を抑える目的で行う「補助放射線治療」と、再発や転移による痛みや嘔吐などの症状を和らげることを目的で行う「緩和的放射線治療」があります。

補助放射線治療

切除が可能な直腸がんが主な対象で、骨盤内の再発を抑えることを目的に手術前に行います。多くの場合、薬物療法との併用療法として実施されます。

緩和的放射線治療

直腸がんなどにおける骨盤内腫瘍による症状(痛みや出血、便通障害、脳への転移による神経症状、骨転移による骨折リスクなど)を改善する目的で、腹部や頭部などに放射線を照射します。脳への転移に対する放射線治療においては、転移の個数や大きさによって、脳全体に放射線を当てる全脳照射と、転移した場所に放射線を集中させて当てる定位放射線照射を使い分けます。

大腸がんの再発後の治療

大腸がんが再発しやすい部位は、肝臓、肺、局所(原発のがんがあったところの周辺)、腹膜、リンパ節で、手術後の吻合部に再発が起きることもあります。
治療法としては、手術、薬物療法、放射線治療が中心ですが、それぞれの状況に応じて治療やケアの進め方を決めていきます。
再発した臓器が1つで、完全に切除できる場合には、手術を検討します。また、再発した臓器が2つ以上であっても、それぞれが切除できる場合には、手術を検討してもよいとされています。切除が困難な場合には、体の状態や再発した部位に合わせて、薬物療法や放射線治療または対症療法が検討されます。

多臓器への転移に対する治療

大腸がんが転移しやすい部位は、肝臓や肺・腹膜・脳・骨であり、それぞれ治療法が異なります。

なお、吻合部での再発や局所再発の場合は、手術によって治癒する可能性があります。また、がんの再発によって腸閉塞になった場合は、バイパス手術や人工肛門(ストーマ)を作ることで食事ができるようになることがあります。

×

会員登録 ログイン