希少がんMeet the Expert 第3回 肉腫(サルコーマ)総論~講演 前編~


  • [公開日]2017.04.27
  • [最終更新日]2017.05.10
スピーカー
国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科、希少がんセンター長 川井 章
講演 前編
講演 後編
ディスカッション

川井) はじめまして、国立がん研究センター中央病院・骨軟部腫瘍・リハビリテーション科の川井と申します。肉腫が希少がんの中で比較的多いがんということで、現在希少がんセンターの担当をさせていただいております。今日は希少がんのお話しではなく、私のホームグラウンドで肉腫のお話をさせていただきたいと思います。肉腫に関してはさまざまな種類がある、さまざまな治療法がある。希少がんの中では比較的多い腫瘍ということもありまして、幾つかに分けてお話をしようと思います。

今日、私がお話させていただきますのは、肉腫の総論ですので、診断から外科的な話、内科的な話、詳しい話をお聞きになりたいという方にとっては、少しもの足りないところがあるかもしれませんが、それは後の質疑応答でお聞きいただくか、あるいは6月に外科的な治療、あるいは内科的な治療のもう少し詳しいお話をさせていただく予定にしていますので、そこでお聞きいただければと思います。今日の私のお話は肉腫(サルコーマ)総論ということであります。では、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

肉腫というのはサルコーマと書いていますが、日本語で肉腫、英語ではサルコーマと言われます。今日のお話は、大きく四つに分けて準備をしてまいりました。まず肉腫の基本。肉腫というのはどういう病気か、といいうお話をさせていただきます。完治に対しては、最も重要な治療である外科的な話、手術のお話をさせていただき、それからここ数年、肉腫に対して幾つかの新しいお薬が出てまいりました。そのお薬を中心にお話をさせていただいて、最後に少し現在開発中の新しい治療の話をさせていただきたいと思います。

まず肉腫の基本であります。今日ここに来られている方は、おそらく肉腫のプロという言い方はおかしいですけども、肉腫を経験されたか、よく勉強されている方だと思うので、そんなことと思うかもしれませんが気軽に聞いてください。「しこりと肉腫」書きました。私たちの病院に来られる患者さんに聞いてみると「どのようにこの病気に気が付きましたか?」とうかがうと、「何カ月前か、あるいは何年か前から、どこかにしこりがあった、どこかが腫れてきた」と、ほとんどの方が、そのように病気を見つけていらっしゃいます。

最初は、しこりだと思うんです。この左側は、手の左にできた横紋筋肉腫という肉腫でした。これは左の肩のところにできた脂肪肉腫という肉腫でした。皆さん最初、しこりかな?と思うわけですが、しこりは、正式な言葉を使うと腫瘤と言います。

腫瘍ではなくて腫瘤と言います。塊があるということです。この腫瘤は、本当の腫瘍と腫瘍でないものに分けられます。この非腫瘍っていうのは、どういうものかというと、ほとんどの人が1年に1回は経験するような、いわゆるおできです。ばい菌が付いて細菌感染して腫れてくる。これは膿瘍(のうよう)と言います。膿(うみ)が出たら治るものです。

もう一つは嚢胞(のうほう)と書いていますが、これは膝の辺りに特に多いです。あるいは手関節のところにできますが、ばい菌がなくても関節の袋がなんとなく腫れてきて、塊、しこりとしてふれる。こういう症状が嚢胞と言います。この黄色で書いたものは、真の腫瘍ではないので、がんとして扱う必要はない。抗生剤を飲んだり、様子を見ていたら治るということです。真の腫瘍は、これも大きく二つに分けられて、悪性の腫瘍と良性の腫瘍に分けられます。悪性腫瘍はいわゆる広義のがんなります。

国立がん研究センター中央病院で扱うのは、この悪性腫瘍ということになります。この悪性腫瘍は、さらに三つに大きく分けることができます。漢字で書いてますが、いわゆる癌、狭義の癌と、肉腫と血液の悪性腫瘍です。この三つをまとめて広義のがんと呼んでいます。がんと肉腫は、三つのうちの二つですけども、がんと肉腫はどこが違うか。これは人間の腸です。輪切りにしたところであります。腸を輪切りにしてみると、腸の外側には筋肉があって、上皮という組織が腸の内腔に向かって伸びてるわけですが、ここを食物が通って吸収されていくわけです。それを顕微鏡で見たところがここです。

筋肉があって、粘膜があって、粘膜の向こう側に腸があるわけです。この粘膜にある細胞のことを上皮細胞と言います。この上皮細胞を支えている。いわゆる支持組織のところを非上皮細胞と言います。医学の教科書に書いてあるのは、このように書いています。支持組織があって、その上に上皮細胞がある。この上皮細胞が、がんになったものを、いわゆる狭義の癌、キャンサーと言います。そうでなくて、その下の脂肪や筋肉や骨など、上皮細胞を支えている組織が、悪性腫瘍になったものをサルコーマと言います。頻度としては、皆さんご存知のように、いわゆるこの狭義のキャンサー、癌のほうが圧倒的に多いわけです。

どうしてかなと考えると、おそらく骨や筋肉は、外界にさらされていないわけです。腸の表面というのは、毎日食べ物を食べて、あるいは肺の表面というのは空気を吸って、外界のいろんな発がん物質にさらされたり、刺激にさらされたりするわけです。がんになりやすい状況になる。それに比べて、その下にある非上皮細胞というのは、そういうカルチノイドで、おそらくそういう刺激があまりないことで悪性腫瘍になる頻度が少ないかなと、私たちは考えています。大体このキャンサーとサルコーマの頻度は、キャンサー100に対してサルコーマ1と、大体1%ぐらいと考えていただいたら間違いないかと思います。このサルコーマというのは、さまざまな組織系からなります。

有名なところからいくと骨肉腫ユーイング肉腫軟骨肉腫など、本当にたくさんの腫瘍が教科書には載っています。大体50種類以上、本によっては100種類に分けている教科書もありますが、数えきれないぐらいの肉腫の名前があります。それを顕微鏡で見たものがこちらですが、病理の先生が見ても、なかなか診断するのに難しい。病理の先生を泣かせる腫瘍の代表的なものと言われています。

非常に多彩な組織像を呈しています。多彩な顔付きをしてるだけではなくて、その悪性度、どれぐらいたちが悪いかというのも、腫瘍によって本当は千差万別です。こういう非常にバラエティに富んだものを、ひとまとめにして肉腫と呼んでいます。そうは言っても、どうやって治療するんだというときには、まとめて考えないといけないので、現在、代表的な教科書、医者が使っている、信頼しているデータベースとしては、こういうものがあります。

WHOによる肉腫の分類の教科書、それから学会が発行している肉腫の取り扱い規約、それから実際の臨床に対して、臨床の現場で、どうしたらいいんだということを、もう少しかみ砕いて書いているガイドライン。こういうものを見ながら医者は診察しているわけであります。これは軟部肉腫の病気分類、ステージを表したものですが、例えば骨の肉腫、これは軟部肉腫でありますが、それを治療せずに置いておくと段々大きくなってきて、多くの場合は肺に転移をします。

キャンサー、上皮性の癌はリンパ節に転移することが多いですが、肉腫というのはリンパ節に転移するのは、どちらかというとまれで、血液に乗って肺に転移をします。中央のCTを見ていただくと、小さななポツッという影がありますが、これが肉腫の肺転移です。

それがまた進行していくと、肺にたくさんの転移巣を作ってくる。これが肉腫を治療しなかったときに起こる、いわゆる自然経過であります。その自然経過を、患者さんが来られた時にどのステージにあるかということを、私たちは診断するわけですが、診断する時のよりどころとしては、腫瘍の大きさ、肺に転移しているかどうか、それから最も大事なのは、その腫瘍がどれくらい悪性度が高いか、組織学的な悪性度と言いますが、非常に転移をしやすい腫瘍から、あまり転移をしない腫瘍まで、おとなしい肉腫までさまざまなものがあります。この四つのパラメーターを組み合わせて、ステージングというのは決められます。

ステージⅠからステージⅣ、ステージⅣというのは初診時、病院に来られた時にすでに残念ながら転移をしてしまってらっしゃる患者さん。ステージⅠというのはローグレードと書いていますが、肉腫ですからたちは悪いのですが、転移をする頻度が少ない。ステージⅡというは、ハイグレードと書いていますが、たちが悪いのであまりゆっくりしてると転移をしてしまうというような分け方であります。

そういう分け方でステージⅠからステージⅣまで、肉腫は分けられています。これは2006年から2010年までの5年間に、国立がん研究センター中央病院に来られた患者さんの治療方法と、その後の治療成績を少し見てみました。国立がん研究センター中央病院に、この5年間に470例の軟部肉腫の患者さんがいらっしゃいました。男性275例、女性195例、年齢は1歳から97歳、平均は51歳でありました。

先ほどのステージ群をしてみますと、ステージⅠというのは125人の患者さんがいらっしゃって全体の26%でありました。ステージⅡは91例いらっしゃって全体の19%、ステージⅢは134例で29%、ステージⅣは120例で26%でありました。大体グラフにしてみると4分の1ずつきれいに分かれています。そのステージⅠからⅣの患者さんに対して、私たちの診療科でどういう治療がされたかというのを示したのが、この下の表になります。ステージⅠで手術をした患者さん、化学療法受けた患者さん、放射線の治療を受けた患者さんです。

これを見ていただくと、ステージⅠの患者さんは96%が手術を受けています。化学療法を受けた患者さんはいらっしゃいません。放射線を受けた患者さんは8%。ステージⅠの患者さんは、ほとんどが手術だけで治療されています。ステージⅡの患者さんは少し組織学的にたちが悪くなっていますが、そういう患者さんであっても96%の患者さんは局所の手術を受けておられます。化学療法を受けられる患者さんが20%いて、放射線を受けた患者さんが12%、化学療法や放射線を受ける患者さんが出てきています。

ステージⅢというのは遠隔転移、肺には転移してませんが、手足に大きなたちの悪い腫瘍ができている。もう、すぐ転移してしまう、というような状況の患者さんですが、86%の患者さんは、まずその原発巣の手術を受けておられます。しかしながら化学療法受けた患者さんが38%、放射線も35%、そういう手術以外の治療も段々受けるようになってくるわけであります。ステージⅣの患者さんは、がんセンターに来られた時に、すでに転移をしており、原発巣の手術は27%しか受けていません。多くの患者さんが抗がん剤による化学療法を受けて治療をしておられます。大体こういう治療を皆さん受けられるわけであります。

ステージによって、このような治療を選択をすることになります。その治療成績です。治療成績の測り方にはいろいろあります。ご本人の満足度や、歩けるかどうか、痛みがどうか、いろいろな測り方があると思いますが、やはり人間にとって一番大事なのは、生きているかどうかということだと思うんです。これは縦軸に生存率をとって、横軸に時間をとった生存率です。ステージⅠの患者さんは5年の生存率が98%、手術だけの治療ですが、きちんと手術をすれば98%の人は助かるということになります。

ステージⅡの患者さんは94%、ステージⅢの患者さんはがんセンターにいらっしゃった時には転移はしておらず手術はきちんとしたけれど、やはり転移をしてお亡くなりになる患者さんがいらっしゃる。ステージⅢの患者さんの5年生存率は65%ということになります。ステージⅣ、残念ながら、最初から転移のあった患者さんというのは、やはりいまだに悪い。10%に届かないというような成績であります。病気別の生存率であります。

どういう治療したかというのをもう1回思い出してみると、ステージⅠからステージⅢの患者さんは、皆さん手術を受けていらっしゃるわけです。ステージⅢ、あるいはステージⅣの患者さんは、化学療法や放射線を受けていらっしゃる。ということは、約半数でステージⅠとステージⅡの患者さんは、きちんとした手術をしてあげれば多くの方が助かるということになります。肝はきちんとした手術をすることであります。

これに対してステージⅢ、あるいはステージⅣ、残りの半分の患者さんは、手術をきちんとしただけでは治らない。やはり、この方たちの予後を改善するためには、どうしても新しい化学療法の開発が必要ということになります。これは国立がんセンターの成績ですが、こちらは全国のがん登録、整形外科の学会がやっている全国臓器がん登録のデータであります。ほぼ同じような曲線を描いているのがわかると思います。ステージⅠの患者さんの5年生存率は97%、ステージⅡが86%、ステージⅢが71%、ステージⅣは25%ということになります。国立がんセンターの成績とほぼ同じと見ていただくとわかるかと思います。

これを見て私たちが何をしないといけないかというと、ステージⅠ、あるいはステージⅡの患者さんに対しては、より良い手術をするということがこれから求められてくると思いますし、ステージⅣの患者さんに対しては、命を救うということを、もっともっとやっていかないといけないと私たちは考えています。以上が肉腫の基本です。大体ご存知のことだったとは思います。

次は手術の話からいきたいと思います。手術をすると、90数%の患者さんは手術を受けられるわけですが、手術をする時に最終的には患者さんの希望やQOLが、最も大事な判断の材料になりますが、それまでに医者が何を考えるかというと、まずこの患者さんの肉腫を完全に取ることができるか、あるいはその手術のリスクはどうかということを考えます。手術をした後に術後の予測される障害です。

手足の肉腫であれば障害ですし、おなかの肉腫であっても、それを取った後に人工肛門になるのか、ちゃんとおしっこは出るのか、そういうことを考えます。手足の話に絞ると患肢温存は可能か、切断せずに肉腫を取ることができるか、温存した手足はちゃんと使い物になるのか、それから手術により予後改善の見通しはどうか、患者さんご家族の希望、こういうことを考えながら手術の実施や、その方法を決めていくことになります。

具体的な患者さんの画像を持って参りました。これはどちらも後腹膜の脂肪肉腫の患者さんであります。後腹膜というのは、骨盤の奥の方にある場所ですが、どちらも脂肪肉腫、ここに大きな腫瘍があります。こちらはもっと大きな腫瘍があります。こちらの患者さんは、きちんと取ることができると判断されますが、残念ながらここまで大きくなってしまうと、これを取りきるということは、取ってあげたいけども取れないという状況になってしまいます。切除不可能と判断されて、内科的な治療、化学療法による治療を受けることになります。手足の肉腫に絞ってみますと、大腿骨の骨肉腫のMRIの画像ですが、ちょうど膝の上あたりに骨肉腫の像があります。

これが骨肉腫です。この青でポイントしたものが足にいっている坐骨神経などです。足を動かすための神経、この赤色が足を動かすための血管です。大腿動脈、この青と赤を残すことができなければ、その足は生きていくことができない。あるいは動くことができないわけですね。この左側の患者さんは神経や血管を温存することが可能ですので、手足を残して手術ができる。右側の患者さんは、残念ながらこの腫瘍の中に神経も血管も巻き込まれてしまってこのままでは切断して病気を取らざるを得ないというふうな判断になります。

実際の患者さんの写真をいくつかご覧にいれます。これは右の大腿骨にできた骨肉腫であります。大腿骨の膝の上に、こういう黒い影があります。MRIでこのように見えたところを、大きく腫瘍を取ってしまって人工関節を入れたところ、人工関節を入れて5年後に、外来に来られた時の患者さんの足であります。この患者さんは非常に勇気があって「ズボン履きませんか?」と言ったら、ミニスカートで来られるんです。「私はこれで行く」と言って、女らしいと思います。少し歩き方がぎこちないですが、これでちゃんと日常生活が、再発も転移もなく送っておられます。階段もちゃんと上がれるということです。

術後5年の、手術をした後の状況です。これは、骨盤にできた骨肉腫、ちょっと治療が難しいところです。この骨盤にできた骨肉腫、レントゲンを見てみると、この右の腸骨と言われるところに大きな骨の腫瘍があるのがわかります。おなかを切って、骨盤を切って、腫瘍をきちんと取って、人工股関節、腫瘍用の特殊な人工関節を入れます。これが術後3年のレントゲンですけども、右の骨盤が無くなって、そこに大きな人工関節が入っているのがわかります。

先ほどの患者さんは、杖無しでちゃんと歩けますが、残念ながらここまで取ってしまうと、やはり杖はどうしても必要になります。一本杖、あるいは二本杖で歩いて外来に来られます。それでもちゃんと足は残っているわけです。ですから今後やらないといけないのは、残った足がどれくらい使えるようになるかというのは、やはり外科医としてまだまだ考えないといけないところかなと思っています。

これは後腹膜の脂肪肉腫の患者さんです。ここに見えているのが腎臓です。こちらが右側、こちらが左側、病気はどれかというと、この黒い部分が病気です。ちょうどおへその辺りにあたりますけども、これが後腹膜にできた脂肪肉腫です。こういう手術は、私たちの病院では骨軟部腫瘍科と、後腹膜腫瘍科と、場合によっては大腸外科の先生と一緒に、いくつかの診療科が協力して手術をすることになります。この患者さんも手術を受けられて、現在術後2年たちますが、ここに腎臓があります。腫瘍は一応どこにも見えないところまで、きちんと取ることができました。当然再発の危険性ありますけども、この患者さんも、現在マラソンを走るくらい元気にしておられます。

そういう治療を専門病院ではするわけですが、きちんとした治療をきちんとした診断にのっとってやるかやらないかというのは、その患者さんの予後を大きく左右します。最初の1回目の手術というのは、非常にそういう意味では大事です。手術に至るまで、きちんとガイドラインにのっとって治療されたかどうか、あるいは専門的な病院で治療を受けたかどうかということを、フランスで調べたデータがありました。ガイドラインにのっとって治療受けた患者さんの予後は、そうでなかった患者さんの予後より、良いということが示されています。専門病院かそうでないか、これはなかなか難しい。

いろいろな議論があると思いますけれど、フランスのデータでは専門病院で治療したほうが良かったと言われています。これが標準的な肉腫の手術です。こういうことを考えながら手術をするわけですが、それでもなかなか取りきれない。もう少し良くしたいということは、現在もまだまだたくさんの患者さんがいらっしゃる。そういう例をいくつかお見せしたいと思います。

この患者さんは左の鼠径部(そけいぶ)です。股の付け根に、この大きな病気ができてしまったわけですけども、こちらが右の足、こちらが左の足、右の足を見ていただくと、ここに大腿動静脈と書きましたが、足をつかさどっているどうしても残さないといけない血管があります。これは残さないと足は残らないわけですが、この患者さんは残念ながら、この左の足見ていただくと、血管も神経もどこにあるかわからない状態で来られました。

きちんと取るためには、この範囲を取らないといけないが、これを取ってしまうと足の血管も無くなるし、こんなに大きく取ると傷も閉じられないということになるので、一昔前であればまず間違いなく切断という選択しかなかったわけです。この血流と創閉鎖を現在では、なんとかしようということでトライをしています。この患者さんは取ってしまった血管を人工血管で再建して、閉じられない皮膚を、おなかの皮膚を持って来て閉じるということをして、腫瘍を残して病気をコントロールすることができました。血行再建と遊離筋皮弁移植、こういう手術ががんセンターでは、おそらく4分の1くらい、最近どんどん増えてきています。こういう手術をしています。

これはまた別の患者さんですけども、膝の後ろにできた大きな脂肪肉腫です。膝の後ろです。ここには足の大事な神経があります。坐骨神経、足首を動かしている神経です。それが無くなってしまうと足首が動きません。その神経がどこにあるかというと、この腫瘍のど真ん中にあるんです。来られた時にはこういう状態だった。これを切ってしまうと、足が動かないので切断しかないかということですが、この患者さんは術前に放射線治療を受けて、色が少し変わっているのがわかると思いますが、腫瘍を少し殺して、腫瘍の活きを悪くして、この神経だけを何とか残すというような試みをしました。

坐骨神経を温存して血管は人工血管を、先ほどと同じようにつないで、足を残して手術を致しました。現在術後7年ですが幸い再発もなく、ちゃんと歩いて外来に来ておられます。

もう少し上になってきました。これ後腹膜にできた大きな脂肪肉腫の患者さんです。先ほどお見せしたとおり骨盤にできたこの黄色でポイントしたところに腫瘍があります。腎臓から鼠径部(そけいぶ)を通って太ももまで、非常に大きな腫瘍がある。これを取ることは、なかなかこのままでは難しい。

手術不可能かなと考えられた患者さんでありますが、この患者さんに術前に化学療法を行って、放射線を当てて、腫瘍は幸いここまで小さくすることができました。ここまで小さくしたところで手術をして腫瘍を取りきる。それまでであれば取れなかったものを、取るようにするという試みも成されています。

最後に、手足を残すことができるかどうかということのお話をしたいと思いますが、この患者さんは10歳から9歳くらいの男の子でしたが、この脛骨(けいこつ)と言われる向こうずねに骨肉腫ができました。腫瘍はちゃんと取って人工関節を入れるのですが、9歳の男の子の膝に人工関節を入れるとどうなるかというと、術後何年かたつと足の長さが違ってくる。当然お子さんはどんどん大きくなりますから、そのままでは右と左の足の長さが違って、いわゆる脚長差というのが出てきてしまう。この脚長差が5センチ以上あると人間は歩けないと言われています。3センチまでだったらなんとかなるけども、5センチあるとどうしても歩けない。

これはなんとかしないと手足は残せないわけですが、最近ではこういうことがよくされています。この患者さんは8歳の男児で、左の大腿骨にできた骨肉腫という病気でしたが、腫瘍を取って延長型の人工関節、少し特殊な人工関節を入れました。この人工関節は傷が治った後、小さな手術をして、このネジをぐるぐる回すと、1回回すと1ミリ伸びるという非常に原始的な、だけど信頼のおける人工関節です。そういう手術を何度か行うことによって、足を徐々に伸ばしていってあげることができました。

この患者さんの思春期を越えたころの足の長さを見せていただきました。8歳の時に身長が124センチだったのですが、16歳の時に164センチ。きちんと男の子として成長しているわけですが、足を7センチ伸ばして左右の足の長さの違いが1センチ、ちゃんと使える足を残してあげることができるようになっています。こういう幾つかの試みをして取れなかった腫瘍を取る。残せなかった足を残すというようなことが、現在、専門病院では盛んに行われています。

こういうことを全部合わせて国立がん研究センターの私たちの診療科で、手足を残して手術ができた患者さんの割合というのを調べてみました。1983年から84年、80年代は手足を残せる人がほとんどいなかったわけですが、最近では大体90%の患者さんが、最初の手術で手足を残して肉腫も取りきることができるようになっています。

これは中世の絵ですが、人間は昔から同じようなことを考えてきたというのは、この絵を見るとよくわかります。これをよく見てみると、患者さんが寝ていて、ここに病気に侵された足があります。違う色の足をここに付けています。この聖者が行っているのは、まさしく患肢温存術です。なんとかこの足を残して治療ができないかということを、人間は昔から考えてきたわけです。それがやっと現実のものになりつつあるというのが、現状かと思います。これが肉腫の外科治療のお話です。

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