慢性骨髄性白血病(CML)の治療


  • [公開日]2017.12.04
  • [最終更新日]2019.07.17

慢性骨髄性白血病(CML)の標準治療

CMLの実際の治療法について説明していきます。

CMLの治療の目的は、フィラデルフィア染色体陽性白血病細胞のコントロール(=血液細胞の異常増殖を止めること)と、病気進行の回避にあります。

慢性期にはほとんど症状の無いCMLですが、進行して急性転化期になると致命的なことになることもありますので、無症状のうちから治療に当たり、進行を防ぐことが重要になってきます。

現在、CMLの患者さんに対する第一選択薬はイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)です。この他に、根本的にCMLを治す方法として造血幹細胞移植がありますが、TKIに比べて毒性が高く、早期死亡のリスクがあるので、患者さんの年齢や全身状況などを考慮したうえで移植を行うか否かを決定します。

基本的な治療アルゴリズムを以下に示します。

この際の治療効果は、血液所見、フィラデルフィア染色体の残存率、BCR-ABLの残存率など複合的な因子で決定します。TKIによって、BCR-ABLの働きを封じ込めることに成功しても、TKIを中止すると多くの症例が再発することが分かっています。ですので、現時点においてはまだ寛解後もTKIの治療を継続すべきであるとしています。

慢性骨髄性白血病(CML)の薬物治療について

CMLの第一選択として用いられているチロシンキナーゼ阻害薬TKIについて説明します。

TKIにはいくつかの種類があります。以下に示します。

以上の表に示したTKIが比較的よく使われているものです。

この中から代表して第一選択薬であるイマチニブの作用機序を説明します。

イマチニブはBCR-ABLチロシンキナーゼのATP結合部位(ATPは細胞内で何かするときに必要になるエネルギーのようなものです)に競合的に結合します。

つまり本来ATPに結合してもらうことでエネルギーを得て、活性を得るBCR-ABLチロシンキナーゼのエネルギーをなくしてしまうということです。エネルギーがなくなったBCR-ABLチロシンキナーゼは活性を失い、細胞を増殖させる働きが弱まると言う訳です。

また、BCR-ABLチロシンキナーゼというのはフィラデルフィア染色体がある細胞にしか発言していない異常なものですので、正常な細胞に対してイマチニブは何の効果もありません。ですから、イマチニブは比較的副作用が少ないのです。

また、イマチニブの単独療法で血液所見は97%の患者さんで寛解させることができ、フィラデルフィア染色体陽性細胞は82%の症例で消失、5年生存率は95%に達することが現段階での研究で知られており、非常に効果がある治療法であると言えます。

ただ、イマチニブは薬価が高く、先発医薬品に比べて廉価といわれるジェネリック医薬品(後発医薬品)でも1日当たり4000円以上の負担になってしまいます。経済的な理由で服薬を自己中断してしまうケースもあります。

自己中断するとその多くは再発、進行してしまうのでいかに患者さんに正しく飲んでもらうかも重要なポイントです。

薬物療法の副作用

【イマチニブ】
イマチニブの副作用で最も多いのが皮疹です。そのほか、体液貯留や肝障害、関節痛や筋肉の痛みなどが出る場合があります。ですが致命的な副作用は少なく、体液貯留などは利尿薬などを同時に服用することによってある程度改善が見込め、イマチニブによる治療を続けることが可能になっています。

ただし、イマチニブはあくまでも対症療法であり、根治を目指す治療ではありません。あくまでも慢性期にとどめることで生存率を挙げることを目標にしたものです。

【ニロチニブ】
ニロチニブの副作用はQT延長(不整脈)や血糖値の上昇や虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症などです)が低確率(不整脈は2.5%、高血糖は7.5%、心筋梗塞は1.2%、狭心症は1.4%)ではありますが起こり得ます。

不整脈に関しては心電図検査を行うなどして対応します。高血糖に関しては観察を十分行い、異常が認められたら適切な対応をします。虚血性心疾患にかんしても、異常や兆候が認められたら速やかに検査を行います。

イマチニブと比較してABLへの親和性も高く、効果も期待できますがそれ以外の副作用が少し多めです。

【ダサチニブ】
ダサチニブの副作用は出血傾向が他のTKIと比べて得意的です。脳出血や硬膜下出血(0.8%)、消化管出血(3.3%)が見られることがありますので、定期的な血液検査を実施します。また、頭痛、咳嗽、下痢や悪心、発疹なども見られます。

ボスチニブ
ボスチニブの副作用として重大なものは、肝機能障害や重度の下痢、骨髄抑制、体液貯留、心障害、易感染性などです。肝機能障害は60.3%に見られます。重度の下痢は12.7%にみられ、体液貯留は9.5%、心障害は6.3%です。

これらの副作用に注意するために観察を十分に行い、異常が見られた場合休薬、減量または中止します。

この他にも、日々新しい薬が開発されています。

慢性骨髄性白血病(CML)の化学療法

イマチニブの登場によってCMLに対して化学療法抗がん剤治療)を行うことは少なってきましたが、以前はインターフェロンαやブスルファン(アルキル化薬)などが良く用いられていました。今でも一部用いられることもあります。

インターフェロンαは白血病細胞を直接破壊する作用と、免疫系の働きを強める作用があります。副作用には発熱や悪寒、頭痛などの症状に加えて骨髄抑制や貧血、脱毛、下血なども見られます。

慢性骨髄性白血病に対する同種造血幹細胞移植について

一般に慢性骨髄性白血病(CML)に対してはイマチニブでの治療を目指しますが、イマチニブの効果が不十分な(フィラデルフィア染色体が消失しない)場合は、同種造血幹細胞移植の適応となります。

同種造血幹細胞移植では、まず前処置をします。移植を行う前に、CML患者さんに対して大量の化学療法、もしくは全身放射線照射の組み合わせによって、体内の白血病細胞を残存する正常の血液細胞もろとも死滅させます。

この前処置を行うことによって、白血病細胞を死滅させると同時に移植した正常な免疫機能を持った血液細胞が働きやすい土壌を作ります(もともとの免疫機能が働いていると拒絶反応が起きます)。その後、骨髄移植や末梢血幹細胞移植などを行います。

化学療法、放射線照射でも白血病細胞は完全には死滅しないですが、移植した正常な免疫機能を持つリンパ球によって攻撃され、やがて治癒することを目標にしています。

移植に際して、白血球の型(HLA)がドナーとレシピエントで一致している必要があります。HLAは兄弟姉妹間であれば4分の1の確率で一致しているので、兄弟姉妹に同じHLAを持っている人がいる場合が同種造血幹細胞移植のいい適応になります。

兄弟姉妹間にいない場合はドナーを探すことになります。血縁など全く関係のない人同士では数百~数万分の1での確率で一致するので、骨髄バンクなどを利用することになります。現在、日本では26万人の方が骨髄バンクにドナー登録しています。

同種造血幹細胞移植の有効性について

まだ慢性期にとどまっている慢性骨髄性白血病(CML)の患者さんや、病気の状態がいい患者さんの場合、移植によって50~60%が治癒しますが、30~40%の患者さんは白血病が再発し、20%の患者さんでは移植に伴う合併症などで1年以内に亡くなっているというデータがあります。

また、移行期や急性転化期など、病気の状態の良くない患者さんの場合だと移植後も治癒するケースが減少している傾向にあります。

同種造血幹細胞移植の副作用

同種造血幹細胞移植では、前処置に抗がん剤を用いることによる副作用を無視できません。通常の化学療法よりもかなりひどい吐き気や嘔吐、口内炎や下痢など、様々な副作用が生じます。

加えて、移植後にドナー由来のリンパ球がレシピエントの臓器に障害を与えたり、移植してすぐにはちゃんと存在して機能していたリンパ球がしばらくして消えたりする(生着不全)などのリスクもあります。

これらの副作用は何年にもわたって継続することもあり、これらのことからもCMLの患者さんに対しては慎重に治療法を選択必要があります。

同種造血幹細胞移植前の管理について

次に移植前の感染管理についてです。移植に伴う合併症をなるべく少なくするために、移植の前に虫歯などの感染源となるものを治しておく必要があります。

虫歯が原因で移植後、亡くなった方もいらっしゃるので、これくらい、と楽観することは出来ません。また、患者さん自身には手洗いうがいを徹底してもらうなど、最大限感染のリスクを低くします。

それでも万が一感染症を発症した場合には速やかに強力な抗生物質などで鎮静させます。

ミニ移植について

最後に「ミニ移植」と呼ばれる同種造血幹細胞移植法を紹介します。

ここまでで紹介してきた幹細胞移植ですと、大量化学療法、放射線照射が前提にあるので、高齢者や臓器機能がもともと低下している患者さんにおいては、死亡率が上昇してしまうことが問題視されていました。

このような、造血幹細胞移植の適応ではあるけれど、移植したら死亡率が高い人たちのために考案されたのがこのミニ移植です。ミニという名称になったのは前処置の際に用いる化学療法の強さです。

ミニ移植では骨髄抑制や殺細胞効果の低い前処置を行います。具体的な薬剤名を挙げると、フルダラビンやブスルファンなどを用います。ですがこれらの抗がん剤では白血病細胞をはじめとする骨髄の血液細胞は完全には死滅しません。

ですので、移植後、ドナーの血液細胞とレシピエントの血液細胞が混ざりあう訳です。自己免疫が問題になりそうですが、抗がん剤によって、また、CMLによって弱っているレシピエント側の血液細胞はドナーの血液細胞の免疫によって淘汰され、最終的には100%がドナー側の血液細胞になります。

なお、一回の移植でドナー側の免疫が勝ち切れなかった場合は追加で末梢血よりドナーのリンパ球を輸注することがあります。

ただ、副作用などの問題は決してミニではありません。ミニ移植はいまだ研究段階にすぎず、発展途上の治療法です。

出典
病気がみえる Vol.5 血液 第二版

http://www.med.osaka-cu.ac.jp/labmed/CMLHSCT.pdf#search=%27%E6%85%A2%E6%80%A7%E9%AA%A8%E9%AB%84%E6%80%A7%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%97%85+%E5%90%8C%E7%A8%AE%E9%80%A0%E8%A1%80%E5%B9%B9%E7%B4%B0%E8%83%9E%E7%A7%BB%E6%A4%8D%27

http://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCI/mini_transplant.html

http://www.esmo.org/content/download/86945/1603666/file/ESMO-ACF-CML-Guide-for-PatientsJapanese.pdf#search=%27%E6%85%A2%E6%80%A7%E9%AA%A8%E9%AB%84%E6%80%A7%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%97%85+%E5%9C%http://ganjoho.jp/public/cancer/CML/B0%E5%9F%9F%27

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