慢性リンパ性白血病とは
慢性リンパ性白血病とは白血病の一種です。白血病は血液中の細胞が異常増殖してしまう疾患で、他の臓器で言う所の癌にあたります(白血病=がん)。
血液は血小板、赤血球、白血球などの血液細胞と呼ばれる細胞によって構成されています。これらの細胞たちは、全て骨中心にある骨髄の中で生まれる「造血幹細胞」からできます。
幹細胞はまだプロフェッショナルな役割を持っていない未熟な細胞で、まだどの細胞にもなれる可能性を有している細胞です。造血幹細胞は骨髄の中で増殖していきますが、まだ何も役割を持たない造血幹細胞ばかりが増えても生体にはなんらメリットがありません。
ですから生体は造血幹細胞に役割を与える訳です。このことを医学的には「分化」と言います。造血幹細胞はまず①骨髄系幹細胞 ②リンパ系幹細胞に分化し、それぞれさらに①-1赤血球、①-2血小板、①-3骨髄芽球、①-4単球、②-1 B細胞 ②-2 T細胞 ②-3 NK細胞、と分化していきます。
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http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/130808html/index.html)
白血病の分類はどの細胞がどの成長段階で、どういったパターン・速度で増殖するのかをもとにして分類しています。今回説明する慢性リンパ性白血病は、②-1・2・3にあたるリンパ球系の細胞が何らかの理由で異常増殖してしまう疾患です。
リンパ球系にはT細胞、B細胞、NK細胞と多数ありますが、慢性リンパ性白血病で増殖しているのはB細胞(CD5陽性←CD5は本来T細胞に発現している細胞表面マーカーです)で、しかもちゃんと成熟したB細胞です(急性リンパ性白血病では未熟なリンパ系細胞が増殖していましたが、ここが急性と慢性の違いです)。
似たような疾患に「小リンパ球性リンパ腫」があります。ともに増殖している細胞はB細胞性のもので、病理診断をしてみても像は共通しています。両者を分けるのは白血病細胞がどこにあるのか、という点です。
白血病細胞が骨髄や末梢血に出現するのが慢性リンパ性白血病で、リンパ節に限局性腫瘤を形成するのが小リンパ球性リンパ腫です。
WHO分類ではこの二つは同じ疾患として分類されています。
※慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫 と表記されています
慢性リンパ性白血病の原因
慢性リンパ性白血病の原因はいまだに解明されていません。統計的に欧米人に多く、アジア人では稀な疾患ということが分かっています。ですがアジア人が欧米に移住したところで頻度の増加は有意に認めることができなかったことから、環境的要因と言うよりもむしろ遺伝的な要因の関与が示唆されています。
慢性リンパ性白血病の症状
初期症状に乏しく、健康診断や他の疾患の治療中に血液検査を行い、白血球数が多いことを指摘されて偶然に診断されることが多いです。症状としては、白血病細胞が血液や骨髄のみならずリンパ節や髄外組織で増殖することでリンパ節の腫脹や肝脾腫などが見られるようになります。
次に、白血病細胞の増殖に伴い、発熱や体重減少などの症状が現れます。さらに、白血病細胞が骨髄での正常なリンパ球の産生を邪魔するほどに増殖すると、免疫能の低下をきたして易感染性になったり、赤血球の産生を邪魔することで貧血になったりします。
易感染性について詳しく説明します。ヒトの免疫機能にはB細胞が主体の液性免疫と、T細胞が主体の細胞性免疫がありますが、慢性リンパ性白血病ではその両方の機能が白血病細胞の異常増殖によって阻害されます。
正常に働いている液性免疫では、B細胞が抗体を産生し、抗体が異物を標識しマクロファージ(掃除機のような細胞で、体にとって必要の無いものを食べてくれます)に貪食してもらいます。
ところが慢性リンパ性白血病では、異常に増殖したCD5陽性B細胞が正常なB細胞の抗体産生能を抑制し、免疫機能が低下します。
また、同様にT細胞の機能もCD5陽性B細胞は抑制することが分かっており、このため細胞性免疫も低下します。
このようにして易感染性に陥ってしまうと、免疫能が正常な人ではまずかかることのない感染症でも簡単に罹患してしまうのです(たとえば、慢性リンパ性白血病の患者さんは肺炎を合併しやすいことが知られています)。
慢性リンパ性白血病の病期
慢性リンパ性白血病の低悪性度のリンパ性腫瘍で、診断されてからの進行は個人によって様々になります。
発症しているのにもかかわらず診断されず未治療で10年、20年と生きて他の疾患によって死亡する例や、慢性リンパ性白血病によって2、3年で死亡する例、末期においては、びまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)に移行するRichter症候群(リヒター症候群)にかかって死亡する例など、多岐にわたります。
病期の分類は下記の通り、2つの分類があります。
Rai分類
Binet分類
これらの病期分類は臨床現場で治療開始の判断や予後の確定因子として用いられています。
また、慢性リンパ性白血病の生存期間は、上記表の通りです。この値は米国MD Anderson Cancer Centerから、1,893人の慢性リンパ性白血病患者の臨床経過に基づいた解析によって算出されています。
慢性リンパ性白血病の疫学・統計
原因の項でも述べましたが、慢性リンパ性白血病は欧米に多く日本では少ない疾患です。欧米では白血病の30%を慢性リンパ性白血病が占めるのに対して、日本では3%程度です。
年間発症率は100万人あたり3人で、一般的に50歳以降の中高年に多く、女性よりも男性に多いのが特徴的です。日本では比較的稀な疾患ですが、最近では増加傾向にある疾患です。
慢性リンパ性白血病の診断
慢性リンパ性白血病は自覚症状に乏しい疾患で、健康診断などで偶発的に見つかることが多いです。発症年齢の中央値は67歳で男性は女性の2倍です。
合併症としては自己免疫性溶血性貧血(自分の体が自分の赤血球を攻撃してしまうことで赤血球が溶血し、酸素が足りなくなります)、自己免疫性血小板減少症(自己免疫性に血小板を攻撃し、出血傾向になります)、抗体が減ることによる重篤な感染症などがあります。
診断は以下に示す、the International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia(IWCL)のガイドラインの診断基準を用いています。
以上のように、慢性リンパ性白血病の診断では免疫学的解析と遺伝子解析を行います。免疫学的解析では、細胞表面のマーカーをみます。細胞表面マーカーにはCD分類というマーカーがあります。
CD1~CD371まで現在では見つけられていて、細胞ごとに染まる組み合わせは決められています。普通のB細胞ではCD19,20,21,37,40,75,79a,b,という組み合わせで染まります。
しかし、慢性リンパ性白血病で発生する異常B細胞においてはCD5,19,20,23が陽性になります。普通のB細胞では染まらなかったCDの番号が染まるのが分かると思います。これを利用するのが免疫学的解析です。
遺伝子解析では液性免疫の結果、出来上がる抗体を分子生物学的に解析することで慢性リンパ性白血病かどうか分かるそうです(免疫グロブリンH鎖、L鎖のモノクローナルな再構成を解析する、と専門的には言います)。
主としてこの二つの解析を組み合わせて診断を確定しています。
出典
病気がみえる Vol.5 血液 第二版
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/7/100_1817/_pdf
http://www.niigata-cc.jp/disease/ketueki_cll.html
白血病の基本情報