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造血幹細胞移植とは

[公開日] 2017.10.18[最終更新日] 2017.10.18

造血幹細胞移植とは

造血幹細胞移植とは、造血機能が何らかの原因によって異常をきたし、正常な血液細胞を作れなくなった患者さん(レシピエント)に対して、ドナーから提供された造血幹細胞(同種移植)もしくはレシピエントが完全寛解期に予め凍結保存しておいた自分の造血幹細胞(自家移植)を移植し、造血機能を正常に戻すことを目的にした治療です。

造血幹細胞移植の種類

造血幹細胞移植は移植する細胞の由来によって自家移植、同種移植、同系移植に分けられていて、他に移植する細胞をどこから採取するのかによって骨髄移植、臍帯血移植、末梢血幹細胞移植に分けられます。

A)造血幹細胞が誰由来か

 ①自家移植=患者自身の凍結保存しておいた造血幹細胞  ②同種移植=ドナー由来の造血幹細胞  ③同系移植=一卵性双生児由来の造血幹細胞

B)移植する造血幹細胞がどこから採取されたか

 ①骨髄移植=骨髄  ②臍帯血移植=臍帯・胎盤  ③末梢血幹細胞移植=末梢血 上記のように分けられています。 自家移植のメリットは、自分の細胞を移植するので、拒絶反応やGVHDの心配がないこと、ドナーを探す手間が省けることです。デメリットは移植細胞の中に腫瘍細胞が混入している可能性があること、移植片対白血病効果(GVL効果)がないことです。 ※GVL効果とは移植したドナーの血液細胞が、生き残っていた白血病細胞を非自己と認識することで攻撃を仕掛け、排除する機構のことです。この機構によって造血幹細胞移植後の再発は少なくなります。 同種移植のメリットは自家移植と違ってGVL効果が期待できることです。デメリットは急性移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)のリスクがあること、免疫抑制剤を用いるので感染症のリスクあること、ドナーを探す必要があることです。 ※GVHDとは移植したドナーのリンパ球がレシピエント(移植してもらった側)を非自己として認識し、攻撃することで引き起こされる病態です。発症時期によって急性GVHDと慢性GVHDがあり、急性では肝臓、皮膚、消化管に障害をきたし、黄疸や皮疹、下痢などの症状を呈します。 慢性では腺、粘膜、皮膚などに障害をきたし、目や口の乾燥、呼吸障害、皮膚の硬化や色素脱失、爪の変形、剥離などの症状を呈します。HLA(白血球の型)が一致したドナーから移植を受けることによって発症のリスクを軽減することができます。 骨髄移植のメリットは他の移植と比べて移植実績が多いことです。デメリットはドナー側への負担が大きいことです(採取の際は全身麻酔下で骨髄穿刺を行います)。 臍帯血移植のメリットは、分娩後の臍帯や胎盤を寄付してもらう形での移植なのでドナーへの負担が少ないこと、移植可能なHLAの型の範囲が他の移植方法と比較して広いこと、GVHDが重症化しにくいこと、臍帯血バンクの存在によって必要に応じて臍帯血移植を行得ることなどです。 デメリットは移植後の感染症が多いこと、採取できる細胞が少ないこと、生着が遅い(末梢血幹細胞移植では2週間ほどで定着しますが、臍帯血移植ですと4週間かかることもあります)ことなどです。 末梢血幹細胞移植のメリットは、ドナー側の負担が少ないこと(採取時に全身麻酔する必要がないので)、移植後の造血回復が速いことです。デメリットは慢性GVHDの頻度が高いことです。

造血幹細胞移植の流れ

造血幹細胞移植は、「前処置→移植→移植後管理」の順に行います。

①前処置

造血幹細胞移植では、移植後、患者さんの免疫機能によって移植した造血幹細胞が破棄されたり、拒絶反応が起きたりするのを防ぐために大量化学療法や全身放射線照射を行います。 この前処置によって患者さんの体では腫瘍細胞と一緒に患者さんの骨髄を破壊します。これによって腫瘍細胞を死滅させると同時に、骨髄を空っぽにすることによって移植した造血幹細胞が根付く場所を確保します。

②移植

同種移植であればドナーの造血幹細胞を、自家移植であればとうえ血保存しておいた自身の造血幹細胞を輸注し、患者さんの造血機能を回復させます。

③移植後管理

管理の目的は主に移植関連合併症の予防・治療です。 合併症には早期合併症(移植~30日)、中期合併症(31日~100日)、後期合併症(100日~1年)、晩期合併症(1年~)の4種類があります。 1)早期合併症  ・粘膜炎  ・肝中心静脈塞栓症  ・非感染性肺合併症  ・急性移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)  ・グラム陽・陰性感染症  ・カンジダ感染症  ・単純ヘルペスウイルス感染症 2)中期合併症  ・非感染性肺合併症  ・急性GVHD  ・グラム陽・陰性感染症  ・アスペルギルス感染症  ・カンジダ感染症  ・サイトメガロウイルス・アデノウイルス感染症 3)後期合併症  ・非感染性肺合併症  ・慢性GVHD  ・被包化細菌感染症  ・アスペルギルス感染症  ・水痘帯状疱疹ウイルス感染症 4)晩期合併症  ・晩期感染症(被包化細胞、アスペルギルス、サイトメガロウイルスなど)  ・骨関節障害(骨粗鬆症や大腿骨壊死の可能性も)  ・内分泌障害(甲状腺機能低下症や甲状腺炎など)  ・二次性発がん(口腔、肝臓、脳や皮膚などに発生する頻度が高いです) など、晩期合併症は患者さんの移植後の生活の質(Quality of life)に多大な影響を与えるため、十分な対策を講じる必要があります。 

白血病に対する標準療法と造血幹細胞移植の差

白血病の患者さんの場合、標準治療は多剤併用化学療法や放射線照射療法なわけですが、この時の目的は白血病細胞をなるべく減らし、正常血液細胞がまた機能を果たせるようにすることです。 そのため、白血病細胞をなるべく死滅させつつ、正常血液細胞が残存する量を考えなくてはなりません。そうなると行える化学療法や放射線照射の量も手加減が必要になり、治療を行っても白血病細胞が根絶しない可能性が否定できず、症状が治まった寛解期にも地固め療法などをする必要が出てきます。 一方で、造血幹細胞移植では前処置として大量化学療法や全身放射線照射を行うことで、白血病細胞を完全に死滅させられる可能性があります。それは正常血液細胞を生き残らせる必要がなく、行える化学療法、放射線照射に手加減が要らないからです。 骨髄中の細胞を全部まとめて破壊し、正常な血液細胞を移植することで白血病の根治を目指します。仮に前処置によって生き残った白血病細胞がいても、移植後のGVL効果によって排除されます。

造血幹細胞移植の適応疾患

造血幹細胞移植の適応疾患には腫瘍性の疾患と非腫瘍性の疾患があります。 腫瘍性疾患  ・急性骨髄性白血病  ・急性リンパ性白血病  ・慢性骨髄性白血病  ・骨髄異形成症候群  ・悪性リンパ腫  ・多発性骨髄腫 非腫瘍性疾患  ・再生不良性貧血  ・慢性肉芽腫  ・重症複合免疫不全症  ・毛細血管拡張性失調症  ・Chediak-Higashi症候群 主に用いられるのは白血病などの腫瘍性疾患ですが、再生不良性貧血などの非腫瘍性の疾患にも適応があります。

造血幹細胞移植の適応

造血幹細胞移植では前処置として大量化学療法や全身放射線照射を行うので、それに耐えることができない患者さんに対しては行わない場合があります。 原則65歳以下で、他の治療では改善が見込めない場合にのみ適応になります。55歳~65歳の同種移植の場合は「ミニ移植」という前処置を減弱させた移植法の適応になります。 適応外になるのは高齢者や臓器障害のある患者さんです。これらの人たちは移植前処置に耐えられないケースが多く、耐えて移植を行ったとしてもGVHDが重症化しやすいことが分かっているので適応外になります。 この他にも、化学療法に対する反応が弱い場合は移植を行っても再発する可能性が高く適応外になりやすいです。

ドナーを見つけるために

現在、骨髄バンクと臍帯血バンクが日本には存在し、造血幹細胞移植の際にドナーが見つかりやすいようなシステムを構築しています。 骨髄バンクには現在(2016年)、46万人を超える人々がドナー登録しています。移植実績は2万件を超えます。移植の際にはHLAの型が一致していることが必要不可欠です。 筐体姉妹間では4分の1の確率で一致するHLAですが、他人同士の一致確率は数万分の1とも言われ、自力で見つけるのはほぼ不可能ですが、46万人登録してある骨髄バンクを利用することで、高確率で自分と一致するHLAの型を見つけることができる訳です。 臍帯血バンクは妊婦から提供された臍帯血を凍結保存し、造血幹細胞移植が必要な患者に仲介、提供しています。移植実績は1万3千件を超えています(2016年)。 出典:病気がみえる Vol.5 血液 第二版

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