白血病とは
白血病(leukemia)は血液のがんと言われます。かつてはおもだった治療法がなく、痛ましい不治の病でした。数十年前までは、白血病患者に対し医師のできることは出血と苦痛を軽減することが精一杯であったため、その後長らく、白血病は新聞、小説、映画やTVのテーマとして広くとり上げられるようになりました。
これは白血病への恐怖を拡げたことは間違いないですが反面、病の認識と対策の強化に役立ったことは言うまでもありません。現在は、化学療法や骨髄移植の劇的は発展により、白血病は、種類にもよりますが、治癒できるがん、または、長期間生存できるがんとなったのです。
そもそも白血病は、血液細胞が骨髄の中でつくられる過程でがん化することで起こります。造血幹細胞や前駆細胞に遺伝子変異が起きたことによって生じる白血病細胞が骨髄で異常増殖することで正常な血液細胞の増殖・機能を阻害し、骨髄にとどまることなく末梢血中にもあふれ出てくる血液の病気です。
造血幹細胞は血液を構成する細胞になら何にでもなれる多様性を有した幹細胞で、赤血球、白血球、リンパ球、血小板は、この造血幹細胞から分化して発生します。
その機能が白血病細胞によって阻害されるので、白血病の患者さんでは、たとえば酸素を運ぶ役割を担っている赤血球の働きを阻害することで貧血になったり、白血球は感染症から体を守る役割を担っていますので感染症にかかりやすくなったりします。日本では、1年間に人口10万人あたり、男性で11.2人、女性で7.7人の割合で白血病と診断されています(2013年のデータ*)。
また、増えすぎた白血病細胞が行き場をなくしてリンパ節や他臓器に侵入することがあり(臓器浸潤といいます)、これによって臓器に障害をきたすこともあります。
白血病を含むがんは、遺伝子や染色体に傷がつくこと(遺伝子変異)で発症すると考えられています。たとえば、慢性骨髄性白血病(CML)では、患者さんの95%以上でフィラデルフィア(Ph)染色体という異常な染色体が見つかります。遺伝子や染色体に傷がつく原因として、放射線、ベンゼンやトルエンなどの化学物質、ウイルスなどが挙げられていますが、そのメカニズムは完全には解明されていません。
* 出典:国立がん研究センターがん対策情報センター
参考:健康文化 18 号、1997 年
白血病の種類
白血病の分類は大きく分けて急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病の4種類があります。骨髄性とリンパ性の違いは増えてくる細胞が骨髄性のものか、リンパ性のものかによって名称が異なります。骨髄性とリンパ性の違いは増えてくる細胞が骨髄性のものか、リンパ性のものかによって異なります。下図をご覧ください。
造血のしくみ
[造血幹細胞から各細胞への分化プロセス]
血液細胞は、赤血球、血小板、白血球に分けられます。白血球には、リンパ球、顆粒球、単球が含まれます。これらの血液細胞は、骨の内側にある骨髄でつくられます。そこで、血液細胞のもとになる造血幹細胞から各種の血液細胞へと変化(分化)し、成熟した血液細胞が血液中に放出されからだじゅうを循環します。
造血幹細胞は造血前駆細胞に分化したのち、リンパ球性共通前駆細胞と骨髄球性共通前駆細胞の二つに分かれます。リンパ球系の方の細胞が異常に分化・増殖しているのがリンパ球性の白血病で、骨髄球性の細胞が異常に分化・増殖しているのが骨髄性の白血病になります。
また、白血病における急性と慢性の意味は他に疾患においての意味とは少し異なっています。他の疾患においては急性のものが持続して慢性化するという順序になりますが、白血病においては急性白血病が持続しても慢性白血病になることはありません。
急性白血病と慢性白血病
血病では、急性と慢性の意味は他に疾患においての意味とは異なっています。白血病の急性および慢性はそれぞれ異なった疾患です。したがって、急性白血病の経過が長引いても慢性白血病になる訳ではありません。
急性白血病は成熟していない若い白血球が増加するもの、未熟なものから成熟した細胞まですべてが増加するのを慢性白血病といいます。急性白血病では幼弱な細胞が大量し、一方で慢性白血病ではすべての分化段階の細胞がまんべんなく増殖しているのです。(下図)
病状や進行過程も異なります。急性白血病では急激に発症し顕著な貧血や白血球増加、血小板減少(出血傾向)を示すことから迅速な治療が必要となります。慢性白血病の白血球数は著明に増加するのですが、症状のないことも多く健康診断時で偶然に見つかることが多いようです。しかし、最終的には急激に悪化(急性転化)しますので、この急性転化を遅らせるような長期にわたる適切な治療が必要になってきます。
1)急性骨髄性白血病の種類
急性骨髄性白血病ではこれだけのサブタイプが存在しています。分類にはWHO分類とFAB分類が存在していますが、最近ではWHO分類の方が主流になってきました。
有名なものを1つ上げるとM3の急性前骨髄球性白血病は、15番と17番染色体の転座によって遺伝子に異常が生じ、PML-RARαという構造物が生じることによって造血幹細胞の分化が阻害される疾患です。
M3で特徴的なのは、対する治療法が他の急性骨髄性白血病の治療とは違う点です。他の急性骨髄性白血病の標準治療はTotal cell kill という概念をもとにした化学療法です。化学療法を行い、白血病細胞をすべて殺すことで根治を目指します。
しかし、M3の治療はオールトランス型レチノイン酸(ATRA)という、分化誘導療法と呼ばれる治療が標準療法になっています。これはPML-RARαに作用し、阻害されていた分化を誘導することで正常な血液細胞が体内で作りだされるようにしてくれる薬です。
M3にしかこれを用いることができない理由は、ATRAはPML-RARαにしか作用しないので他の急性骨髄性白血病には用いることができないわけです(そもそも他の急性骨髄性白血病では原因となっている遺伝子異常、酵素が違うのでATRAを投与したところで何も意味をなしません)。
この様に、同じ急性骨髄性白血病に分類されていて名前も似ている疾患ですが、それぞれ治療法が異なったり予後が違ったりと、差異が生じているのです。
2)急性リンパ性白血病の種類
急性リンパ性白血病では増える細胞がB細胞性のものかT細胞性のものかで、まず2群に分けられ、それぞれ遺伝子異常などでさらに分類されています。
3)慢性骨髄性白血病の分類
慢性の白血病はサブタイプがあるというよりも病期ごとに分類がなされています。
4)慢性リンパ性白血病の分類
病期分類は下記の通りです。
①Ria分類
②Binet分類
白血病の検査と診断
白血病の検査では血液検査と骨髄検査が主となります。貧血などの症状があり、血液検査の結果から、血液細胞の数や種類に異常がみられた場合、白血病が疑われます。そのため、一般の健康診断や血液検査の際に白血病が発見されることも少なくありません。
骨髄検査は患者さんへの負担が大きいので、基本的にはまず血液検査を行って、幼弱な細胞が出てきていれば白血病の可能性が高いと判断します。最終的な診断には、骨髄液を吸引する「骨髄穿刺(マルク)」や、骨髄の組織を採取する「骨髄生検」などの骨髄検査が行われます。
そのほか、急性白血病が疑われた場合はミエロペルオキシダーゼ染色(MPO染色)やエステラーゼ二重染色、細胞表面マーカーや染色体検査、遺伝子検査などを行います。それらによって骨髄性か、リンパ性かの鑑別を行います。
慢性骨髄性白血病が疑われた場合は血液検査、染色体分析、遺伝子分析を行います。慢性リンパ性白血病が疑われた場合は免疫学的解析、遺伝子解析、直接Cooms試験などで確定診断を行います。
出典
病気がみえる Vol.5 血液 第二版
白血病の基本情報