骨髄異形成症候群(MDS)の治療の決め方
骨髄異形成症候群(MDS)患者さんの治療は、リスク分類にかかわらず、定期的な受診や社会的生活への支援など、一般的な支持療法が重要です。そのうえで、リスクに応じた治療を選択していきます。
低リスクの場合、無症状であれば積極的な治療は行わず、経過観察を続けます。血球減少に伴う症状がある場合には、輸血を基本とした治療により、症状の改善を目指します。
高リスクの場合、自然経過では予後が悪いため、より積極的な治療が必要です。年齢や患者背景、ドナーなどの条件がそろった場合には、治癒を目指すことのできる同種造血幹細胞移植の適応となります。移植が難しい場合には、薬物療法により治療を進めていきます。
(「日本血液学会 造血器腫瘍ガイドライン 2023年版」を参考に作図)
骨髄異形成症候群(MDS)の治療選択肢
輸血療法
低リスクの患者さんであっても、貧血や血小板減少が進行し、症状が出てきた場合には、輸血療法が必要になります。
ただし、一定量以上の赤血球の輸血は鉄過剰症の原因となるため、体内の過剰鉄を排出することによる臓器障害の改善を期待して、鉄キレート療法を行うことが推奨されています。鉄キレート薬を使う際には、併存疾患や併用薬などの評価を行い、有害事象の合併に注意することが大切です。
サイトカイン療法
低リスクMDSでは、血球減少に対してサイトカイン療法が選択される場合もあります。例えば、赤血球減少の改善には赤血球造血刺激因子製剤「ネスプ(一般名:ダルベポエチンアルファ)」、また好中球減少とそれに伴う感染症の改善にはG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤の投与が検討されます。
薬物療法
MDSの中でも、5番染色体に異常がある「5q-症候群」に対しては、レブラミド(一般名:レナリドミド)の効果が認められています。特に、低リスクMDSで赤血球輸血依存例に対しては、投与が推奨されています。一方の高リスクMDSの場合には、臨床研究によるエビデンスが少ないために積極的な使用は推奨されていませんが、ビダーザ(一般名:アザシチジン)(後述)に不応あるいは耐性の5q-症候群症では、使用を考慮しても良いとされています。
高リスクMDSにおいては、急性骨髄性白血病(AML)への移行を抑えるための治療が重要で、現在はビダーザが第一選択薬となっています。基本的には同種造血幹細胞移植が実施できない患者さんが対象ですが、病状や移植までの期間によっては、移植までの橋渡し治療として、ビダーザの使用を考慮しても良いとされています。一方の低リスクMDSでは、他の治療法に不応かつ輸血依存性のMDSにおいてのみビダーザの使用が検討されるものの、現時点で生存期間の延長が期待できるデータはないため、積極的には使用されません。
化学療法に関しては、AMLへの移行期間を延長できるという報告がないため、第一選択薬としての使用は検討されません。ただし、移植が実施できない患者さんでは、ビダーザに不応かつ染色体異常などの予後不良因子がない場合に限り、多剤併用による強力な化学療法が考慮されます。また、一部の患者さんでは、移植までの橋渡し治療として、ビダーザと合わせて検討することもあります。
同種造血幹細胞移植
同種造血幹細胞移植は、MDSの治癒が目指せる唯一の治療法です。年齢や全身の状態、ドナーの有無などの条件を満たした場合に実施が可能となります。
全身に対する放射線照射や強力な化学療法によって、患者さん自身の造血幹細胞などの血液細胞を壊し、正常な造血幹細胞を移植することで造血機能を回復させます。ただし、高齢者や合併症を持った患者さんの場合、強力な前処理(放射線や化学療法)がリスクとなることもあるため、移植前の化学療法や放射線症を減弱した前処理が考慮され、こうした治療法は「ミニ移植」と呼ばれます。
その他
日本では保険適用外の治療として、低リスクMDSに対する免疫抑制療法も選択肢として検討されることがあります。
また、同様に保険適用外の治療法ではありますが、低リスクMDSの貧血において、蛋白同化ステロイドやビタミンD、ビタミンKが一部効果を示す場合もあります。特にサイトカイン不応あるいは不耐容の場合に、ビタミンDビタミンKの使用を考慮しても良い、とされています。