急性骨髄性白血病の治療


  • [公開日]2017.10.18
  • [最終更新日]2019.07.17

急性骨髄性白血病の標準治療

急性骨髄性白血病の治療では、骨髄中の白血病細胞を死滅させることで速やかに患者さんの骨髄機能を回復させることを目標に、多剤併用化学療法を行っています。

急性骨髄性白血病の好発は50代ですので比較的高齢者に多いわけですが、若年者よりも化学療法に対する忍容性が低く、治療しているうちに急性骨髄性白血病以外の疾患にかかって死亡するリスクが高いので、治療の方針は若年者と高齢者で分けて考えられることが多いです。

ここでは若年者の治療アルゴリズムを示します。

①若年者の急性骨髄性白血病であると診断されたら

若年者の急性骨髄性白血病の場合、第一に行うのが寛解導入療法です。寛解導入療法ではアントラサイクリン系の抗生物質とシタラビン代謝拮抗薬に分類される抗腫瘍薬で、DNAを複製する際に必要となる物質と拮抗した機能をすることで抗腫瘍効果を示します)を組み合わせた治療法です。

寛解導入療法とはその名の通り、根治を目指すというよりもむしろ症状を抑え、寛解状態にすることを目標にしています。この場合で言う寛解の定義は「骨髄中に存在する白血病細胞が5%以下」の状態を寛解と呼んでいます。

流れとしては、先ほど述べた抗がん剤を7~10日投与することで白血病細胞と自身の血液細胞も一緒に減少します。減少していったままでは免疫が機能せず、易感染性になってしまいますので、患者さんの体の中で自然と白血球が増えていくのを待つことになります。

この期間は大体4週間程度とされていて、この間は陽圧室という、無菌状態に近いようにした部屋で過ごすことになります。これで寛解することができた患者さんは次の②へと移行していきます。

※陽圧室の反対は陰圧室と呼ばれ、結核などの空気感染する疾患にかかっている患者さんがいてもらう部屋です。陰圧室は部屋の空気が外部に漏れないようにすることで空気感染する細菌が院内外へばらまかれないようにするために用いられます。

②-1 寛解したのち、予後良好群であると判定された場合

予後良好と判断されたら、次は地固め療法へと移行します。なるべく再発を抑える目的で行われる地固め療法は、大量シタラビン療法やシタラビン+アントラサイクリン系の併用療法などを行い。

寛解導入療法によって5%以下になった白血病細胞をさらに死滅させることで根治を目指します。地固め療法を続けていくうちに再発してくることがあります。再発してしまった場合は再寛解導入療法を行い、十分な効果が得られなかった場合は同種造血幹細胞移植を考慮します。

②-2寛解したのち、予後中間・不良群と判定された場合

基本的に同種造血幹細胞移植を考えますが、ドナーがいなければ移植を受けることができないので、ドナーがいない場合は地固め療法でしのぐことになります。再発してしまった場合は再寛解導入療法を行ったり同種造血幹細胞移植をもう一度検討したりすることになります。

ドナーがいる場合は同種造血幹細胞移植の適応になります。

③初回寛解導入療法によって寛解に至らなかった場合

救援療法を行います。救援療法では地固め療法でも用いられた大量シタラビン療法や、そのほかにゲムツズマブやオゾガマイシンという薬を用いた抗CD33抗体療法が行われます。

抗CD33抗体療法では急性骨髄性白血病の白血病細胞に発現しているCD33という受容体に結合する抗CD33抗体に対する物質を抗がん剤として投与します。用いる抗がん剤は抗CD33抗体に結合しているため、この抗がん剤はCD33を発現している細胞にしか効果を示しません。

CD33を発現している細胞とは白血病細胞ですね。薬剤がCD33を介して白血病細胞の中に取り込まれると、白血病細胞のDNAを破壊し、細胞を殺してしまいます。これによって抗腫瘍効果を示します。

ただ、CD33は急性骨髄性白血病の白血病細胞の80%以上に発現しているとされていますが、正常な血液細胞にも一部発現していることが分かっており、特異的に白血病細胞を攻撃するわけではないことが分かっています。

こういった背景があるので、抗CD33抗体療法は現在難治性や再発例の急性骨髄性白血病にのみ認可されています。

救援療法の後に同種造血幹細胞移植を考慮することもあります。

急性骨髄性白血病に対する化学療法適応基準

急性骨髄性白血病では治療のために強力な化学療法を行います。化学療法によって二次的な死亡リスクが生じてしまっては元も子もないので、以下に示す基準に基づいて慎重に判定が行われています。

特殊な急性骨髄性白血病に対する治療

今まで述べてきた治療のアルゴリズムを用いない急性骨髄性白血病の型があります。それはM3に分類される急性前骨髄球性白血病です。

急性前骨髄球性白血病ではオールトランス型レチノイン酸(ATRA)を用いた分化誘導療法というものを行います。

急性前骨髄球性白血病では(これに限らず急性白血病すべてに当てはまりますが)、造血幹細胞からの分化ができなくなることで未熟な白血病細胞が大量に増殖する病態を呈していました。

分化ができなくなる理由は、PML-RARαという分化を導く酵素の働きを阻害する物質が急性前骨髄球性白血病では発現しているからであり、この物質をさらに阻害してやることでPML-RARαの機能を正常にし、前骨髄球以降に分化を進め、病状を回復させます。

ATRAによって分化できた前骨髄球は正常に分化した場合と同じ一生をたどるとされています(好中球として成熟し、使命を果たし寿命が来た時に死にます)。この治療のことを分化誘導療法と呼びます。

※急性前骨髄球性白血病にしかATRAが用いられないのは異常の原因となる遺伝子が違うためです。

再発した場合は標準治療のアルゴリズムに従う形で、同種造血幹細胞移植を検討します。

出典
病気がみえる Vol.5 血液 第二版

白血病の基本情報

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