EGFR変異陽性非小細胞肺がんの初治療 タグリッソで増悪・死亡リスクが標準薬の半分に~アジア人患者の方が非アジア人より有効か?~ NEJM&ESMO Asia


  • [公開日]2017.11.22
  • [最終更新日]2018.01.18

日本で2016年5月から販売開始された非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬オシメルチニブ(商品名タグリッソ)は、上皮増殖因子受容体(EGFR)-T790M変異陽性のチロシンキナーゼ(EGFR-TKI)を特異的に阻害する分子標的薬である。先に承認されている第1世代から第2世代のEGFR-TKIエルロチニブ(商品名タルセバ)、ゲフィチニブ(商品名イレッサ)、またはアファチニブジオトリフ)の治療に抵抗性を示す患者を対象とする二次治療以降を適応に承認されており、初治療としての処方は認められていない。

EGFR変異陽性NSCLC患者に対するタグリッソ単剤初治療の試み

タグリッソの国際共同第3相無作為化二重盲検試験(FLAURA、NCT02296125)で、治療歴のないEGFR変異陽性NSCLCの初治療としてタグリッソを投与したところ、従来のEGFR-TKIによる標準治療を有意に上回るリスク低減をもたらすことが明らかになり、中間解析結果が2017年11月18日のNew England Journal of Medicineに掲載された。また、17日から19日にシンガポールで開催された欧州臨床腫瘍学会アジア会議(ESMO Asia)では、試験FLAURAの解析対象のおよそ6割を占めるアジア人患者集団のみに限った解析結果が発表され、増悪・死亡リスクが標準治療の約半分に低減したことが示された(Abstract LBA 6_PR)。

客観性を重視したデザインの大規模無作為化二重盲検試験FLAURA

試験FLAURA は、2014年12月から2016年3月に29カ国、132施設で行われ、全解析対象556例のうち、タグリッソ群は279例、標準治療群(タルセバまたはイレッサ)は277例であった。EGFR変異のタイプはエクソン19欠失がそれぞれ57%、56%、L858Rが35%、32%で、複数の変異を持つ患者も含まれている。その他の患者背景も群間均衡がとれ、年齢中央値は両群ともに64歳、男性患者の割合はそれぞれ36%、38%、白人患者の割合はともに36%、アジア人患者の割合はともに62%であった。

データカットオフ時点での全治療期間中央値は、タグリッソ群が16.2カ月、標準治療群が11.5カ月で、同時点で治療を継続していた患者の割合はそれぞれ51%、23%、増悪または死亡した患者の割合は49%、74%であった。それぞれ67%、70%の患者は、増悪と判定された後も治療を継続した。

全解析対象で主要評価項目達成、タグリッソ群の増悪・死亡リスク54%低下

有効性評価項目の主な解析結果は次のとおりである。

●タグリッソ群の無増悪生存(PFS)期間中央値(18.9カ月)は標準治療群(10.2カ月)と比べ有意に延長し、増悪・死亡リスクは54%低下した(p<0.001、ハザード比[HR]=0.46)。

●年齢、性別、人種、EGFR変異タイプなど、あらゆる患者背景別の解析でもタグリッソ群の増悪・死亡リスクは標準治療群より低下し、リスク低下率は42%から66%の範囲であった。

●全奏効率(各80%、76%)は同等で有意差はなかったが、奏効の持続期間中央値(各17.2カ月、8.5カ月)はタグリッソ群の方が2倍に延長した。病勢コントロール率(各97%、92%)も群間有意差はなかった。

全生存期間OS)は中央値特定には至っていない。治療後18カ月時点での全生存率(各83%、71%)も中間解析時点では統計学有意差に達していない。

●治療予後不良が懸念される中枢神経系CNS転移のある患者にもタグリッソは有効であった。CNS転移のある患者集団(タグリッソ群53例、標準治療群63例)での無増悪生存(PFS)期間中央値(各15.2カ月、9.6カ月)、CNS転移のない患者集団(各226例、214例)でのPFS期間中央値(各19.1カ月、10.9カ月)ともにタグリッソ群の方が有意に延長し、増悪・死亡リスクの低下率はそれぞれ53%、54%であった(ともにp<0.001、各HR=0.47、HR=0.46)。

タグリッソ群の方が長い治療期間にもかかわらず安全性は標準治療と同等以上

主な有害事象は、両群ともに皮膚乾燥や下痢などであった。間質性肺疾患はタグリッソ群4%(11例)、標準治療群2%(6例)に発現したが、致死性のイベントは認められなかった。グレード3以上の有害事象の発現率は、タグリッソ群(34%)の方が標準治療群(45%)より低く、重篤な有害事象(各22%、25%)は同等で、重篤な間質性肺疾患はそれぞれ6例、4例に認められた。タグリッソとの因果関係が否定できない致死性の有害事象は認められなかった。標準治療との因果関係が否定できない致死性の有害事象は下痢(1例)であった。

有害事象を理由とする治療中止の患者割合(タグリッソ群13%、標準治療群18%)、治療中断の患者割合(各25%、24%)、用量を減量した患者割合(各4%、5%)は群間に大差がなかった。

アジア人の増悪・死亡リスクはタグリッソで46%低下

試験FLAURAに登録されたアジア人患者322例中、日本人は120例、中国人は46例、その他アジア地域の患者が156例であった。このアジア人患者集団において、無増悪生存(PFS)期間中央値はタグリッソ群(16.5カ月)が標準治療群(11.0カ月)より有意に延長し、増悪・死亡リスクは46%低下した(p<0.0001、HR=0.54)。奏効率(各80%、75%)は大差なかったが、奏効持続期間中央値はタグリッソ群(17.6カ月)が標準治療群(8.7カ月)の2倍以上に延長した。グレード3以上の有害事象の発現率はタグリッソ群(40%)の方が標準治療群(48%)より低かった。

アジア人 vs 非アジア人の詳細解析が必要

無増悪生存(PFS)期間のハザード比(HR)で比較すると、非アジア人集団(0.34)の方がアジア人集団(0.54)より低かった、つまりリスク低下率は非アジア人集団の方が高かったものの、統計学的有意差は検証されていない。国立台湾大学のJames CH Yang教授は、「EGFR変異陽性患者のEGFR-TKIに対する人種別の反応性については議論の余地が大いにあるが、生物学的な差というよりむしろ、実臨床下でのバリエーションと考えることもできる」との推測にとどめ、メタアナリシスの必要性を語っている。

ESMO Asia 2017 Press Release: Osimertinib Improves Progression-free Survival in Asian EGFR-mutated Lung Cancer Patients(ESMO ASIA 2017, Press Releases, Abstract LBA 6_PR)

Osimertinib in Untreated EGFR-Mutated Advanced Non–Small-Cell Lung Cancer(NEJM, November 18, 2017DOI: 10.1056/NEJMoa1713137)

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