乳がんの治療


  • [公開日]2017.08.08
  • [最終更新日]2023.01.16

乳がんの治療の決め方

乳がんの治療では、遠隔転移のような手術が難しい症例を除き、まずは手術が検討されます。また、手術に放射線療法や薬物療法が追加される場合もあります。

がん細胞の特徴によって決まるサブタイプ分類毎に、薬剤選択が変わってくることも、乳がんの特徴です。

乳がんの手術

乳房全切除術

乳がんが広範囲に広がっている場合や、複数のしこりが離れて存在している場合には、乳房をすべて切除します。また、全切除が必ずしも必要ない場合でも、患者さんの希望によって全切除を選択することも可能です。
全切除をした症例は、乳房再建術の対象となります。自分のおなかや背中などから採取した筋肉や脂肪、あるいはシリコンなどの人工物を使って、乳房を新たに作る方法です。再建を検討する際には、担当医とよく話し合い、再建の時期や合併症のリスクをよく理解したうえで検討することが大切です。

乳房部分切除術(乳房温存手術)

がんが乳房内に限局していて、乳房全体を切除しなくても病変部位を取り切ることができる場合には、乳房の一部のみを切除します。乳房を残すことが可能で、美容的にも患者さんが満足できる方法です。

ただし、手術中に切除した組織の切り口部分にがん細胞が残っていないかどうかを顕微鏡で調べ、確実にがんが切除できていることを確認する必要があります。もし、手術前の予想を超えてがんが広がっている場合には、乳房全切除術への変更や再手術となる場合もあります。

腋窩リンパ節郭清

診断の検査や、手術中のセンチネルリンパ節生検などで、腋窩(わきの下)リンパ節にがんの転移が見られた場合には、腋窩リンパ節を切除する手術(腋窩リンパ節郭清)を行います。切除する範囲やリンパ節の個数は、転移の範囲によって判断されます。

手術後の副作用として、肩や腕が動かしにくくなる場合や、リンパ浮腫(腕や手がむくんだ状態)などの症状が出ることがあります。担当医とよく相談し、運動を段階的に取り入れていくなど、日常生活の工夫を行うことが大切です。

乳がんの放射線治療

放射線治療は、高エネルギーのX線を照射することで、がん細胞にダメージを与え、死滅させたり小さくしたりするための治療です。乳房部分切除術の後には、再発予防のために原則として残った乳房の組織に照射します。乳房全切除術を行った場合にも、胸壁・鎖骨の上のリンパ節に対して照射することがあります。

1日1回、照射時間は1-3分程度です。一般的には、週5回の照射で、約4~6週間かけて実施します。また、脳や骨への転移など、一部の再発・転移病変に対して、放射線治療を使う場合もあります。

放射線療法の副作用としては、照射した部分の皮膚が日焼けしたように赤くなり、痛みやかゆみがでる皮膚炎が挙げられます。皮膚がむけたり、水膨れができたりすることもありますが、治療終了後2週間頃までには徐々に回復していきます。
また、放射線肺臓炎がおこることもあるため、咳や微熱が続く場合には注意が必要です。

乳がんの薬物療法

乳がんの薬物療法は、個々のサブタイプによって使う薬剤が異なることが特徴です。また、病期やリスクに応じて、薬物療法を使うタイミングや目的が異なります。

まず術前に行う薬物療法(術前薬物療法)は、手術前になるべく腫瘍を小さくし、乳房全切除術ではなく部分切除術を目指すことを目的としています。術前薬物療法には、抗がん剤を用いる「術前化学療法」とホルモン療法を用いる「術前ホルモン療法」の2つがあります。

術後に行う薬物療法(術後薬物療法)は、目に見えない微小転移を根絶させ、手術後の再発を予防することが目的です。術前薬物療法と同じく、術後薬物療法にも「術後化学療法」と「術後ホルモン療法」の2つがあります。

再発・進行性乳がんに対する初回治療として実施する薬物療法は、症状をやわらげ、できるだけ高いQOL生活の質)を保った状態での延命を目指します。

ホルモン療法

ホルモンの分泌や働きを阻害することで、ホルモンの作用に依存したがん細胞の増殖を止める治療法で、ホルモン受容体陽性の乳がんに効果が期待できる治療法です。

体内の女性ホルモンであるエストロゲンの量を減らす、LH-RHアゴニスト製剤アロマターゼ阻害薬剤、がん細胞がエストロゲンを取り込むのを妨げる抗エストロゲン薬があります。

ホルモン療法薬の副作用としては、ホットフラッシュ(ほてり)、性器出血などの生殖器の症状、骨密度低下などが挙げられます。また、気分の落ち込みやイライラなどの症状が出ることもあります。副作用の症状やその対処法についても、担当医や医療スタッフの方とよく話し合い、理解して治療に取り組むことが重要です。

分子標的薬

分子標的薬は、がんの増殖に関わる特定のタンパク質などを標的とした薬剤です。乳がんにおいては、HER2タンパクをターゲットにした抗HER2薬、ホルモン陽性乳がんに対するCDK4/6阻害剤、血管新生を促すVEGFを標的にした抗VEGF抗体薬、がんの増殖に関わるmTORを標的にしたmTOR阻害剤、BRCA遺伝子変異を有する乳がんに対するPARP阻害剤などがあります。

抗体薬物複合体

抗体薬物複合体ADC)は、がん細胞に発現する分子を標的とする抗体に薬剤を付加し、がん細胞に直接薬剤を送り届けることで、選択的に作用させることを目的とした治療法です。

乳がんに対し保険適用となっているのは、トラスツズマブ エムタンシン(製品名:カドサイラ)とトラスツズマブ デルクステカン(製品名:エンハーツ)の2剤で、いずれもHER2タンパクを標的としています。

免疫チェックポイント阻害剤

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃力を高めるための薬剤です。

現在乳がんに対して保険適用されている免疫チェックポイント阻害薬は、PD-L1陽性の転移・再発トリプルネガティブ乳がん一次治療として、抗PD-L1抗体のアテゾリズマブ(製品名:テセントリク)と抗PD-1抗体のペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)があり、いずれも化学療法と併用して使われます。

また、周術期トリプルネガティブ乳がんの術前・術後療法として、抗PD-1抗体のペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)と化学療法の併用療法が使えるようになっています。

細胞障害性抗がん剤

ホルモン受容体陰性・HER2陰性の(トリプルネガティブ)乳がんや、ホルモン療法抵抗性となった乳がんには、細胞障害性抗がん剤(いわゆる抗がん剤)が使われます。また、がんの大きさや転移の状況、がんの増殖スピードなどを考慮し、他の薬剤や放射線治療と組み合わせて使う場合もあります。

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