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日本の実臨床におけるHER2陽性転移性乳がんに対するエンハーツ後の治療実態 ESMO OPENより

[公開日] 2025.08.13[最終更新日] 2025.08.06

2025年7月25日、医学誌『ESMO Open』にて、HER2陽性転移性乳がんを対象にエンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)中止後の次治療の種類およびその有効性・安全性を解析したEN-SEMBLE試験の結果が報告された。 これは、日本全国で実施されたリアルワールド観察コホート研究である。

試験デザイン

対象

2020年5月25日から2021年11月30日までにエンハーツによる治療を受け、中止後に別の治療を開始したHER2陽性の再発または転移性乳がん患者

治療法(レジメン)

評価項目

エンハーツ中止後の最初の治療、リアルワールドの無増悪生存期間(rwPFS)、全生存期間(OS)、間質性肺炎(ILD)の発現率、など

結果

合計664例が解析対象であり、年齢中央値は60歳、ホルモン受容体陽性の割合は397人(59.8%)また内臓転移は529人(79.7%)、脳転移は153人(23.0%)であった。

有効性

初回エンハーツ後の治療は、73.2%(486/664例)で別のHER2を標的とした治療が実施された(抗HER2抗体が54.4%、HER2-チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が17.0%、抗体薬物複合体が1.8%)。一方で、26.8%(178例)は化学療法±アバスチン(一般名:ベバシズマブ)、内分泌療法±CDK4/6阻害剤による治療が実施された。 エンハーツ後の最初の次治療のrwPFSの中央値は、4.1ヶ月(95%信頼区間:3.9-4.5ヶ月)、OSの中央値は16.2ヶ月(95%信頼区間:13.8-17.2ヶ月)であった。抗HER2抗体とHER2-TKIで有意な差は認められなかった。 ILDなどの有害事象によりエンハーツを中止した患者、およびT-DXdに完全奏効または部分奏効した患者では、rwPFSとOSが数値的に長かった。

安全性

エンハーツ後の最初の治療中に、664人の患者のうち10人(1.5%)にILDが発現したが、グレード5は認められなかった。エンハーツ後の治療開始からILD発症までの期間は、4例で50日以内、6例で100日超であった。 初回治療のエンハーツ治療中にILDの発症歴があった155例のうち、エンハーツ後の次治療中にILDの再発/増悪が観察されたのは5例(3.2%)であった。

結論

HER2陽性転移性乳がんに対するエンハーツ後の最初の治療として、HER2を標的とした治療を逐次的に行うことは有用であることが示唆され、実臨床で実行可能である。特に有害事象のためにエンハーツを中止した患者とエンハーツで奏効が得られた患者において臨床的ベネフィットが高いと考えられる。 また、エンハーツ治療中にILDを発症した場合であっても、その後の治療における再発/増悪リスクは低いことが示された。 参照元: Effectiveness of post-trastuzumab deruxtecan treatments and incidence of interstitial lung disease in HER2-positive metastatic breast cancer: a real-world, observational cohort study(ESMO Open. 2025 DOI: 10.1016/j.esmoop.2025.105511.)
ニュース 乳がん HER2エンハーツトラスツズマブ デルクステカン

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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