目次
- 1 乳がんの新薬パルボシクリブ(イブランス)について
- 1-1
- 1-2
- 2 パルボシクリブ(イブランス)の臨床試験成績
- 2-1
- 2-2
- 3 パルボシクリブ(イブランス)の副作用
- 4 パルボシクリブ(イブランス)の製品概要
- 5 パルボシクリブ(イブランス)の治験情報(2017年12月10日現在)
- 5-1
- 5-2
- 6 パルボシクリブ(イブランス)の類薬とその情報
- 6-1
- 6-2
- 7 パルボシクリブ(イブランス)の参考情報
- 7-1
- 7-2
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目次
- 1 乳がんの新薬パルボシクリブ(イブランス)について
- 1.1 2017年9月27日、イブランスが国内承認取得
- 1.2 サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬 イブランスの作用機序
- 2 パルボシクリブ(イブランス)の臨床試験成績
- 2.1 閉経後のER陽性HER2陰性進行乳がん患者対象のイブランスの第3相試験
- 2.2 ホルモン療法を受けた後に疾患進行を認めたHR陽性HER2陰性進行乳がん患者対象のイブランスの第3相試験
- 3 パルボシクリブ(イブランス)の副作用
- 4 パルボシクリブ(イブランス)の製品概要
- 5 パルボシクリブ(イブランス)の治験情報(2017年10月10日現在)
- 5.1 イブランスの乳がん対象の治験
- 5.2 イブランスの頭頸部がん(頭頸部扁平上皮がん)対象の治験
- 6 パルボシクリブ(イブランス)の類薬とその情報
- 6.1 サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬アベマシクリブ
- 6.2 サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬リボシクリブ
- 7 パルボシクリブ(イブランス)の参考情報
- 7.1 イブランスの過去記事
- 7.2 イブランスの文献(本記事の参考文献)
乳がんの新薬パルボシクリブ(イブランス)について
2017年9月27日、イブランスが国内承認取得
乳がんは女性の罹患率が最も高いがんであり、世界で毎年170万人の患者が新規に乳がんと診断されている。また、国内でも新規に約7.4万人の患者が新規に診断され、年間死亡者数も1.3万人を超えている。 乳がんの死亡率は早期乳がんこそ低率であるものの、進行または再発乳がんとなると5年生存率は30%以下であり、その治療方法も限られている。 その中、2013年4月、米国においてパルボシクリブ(イブランス)は米国食品医薬品局(FDA)よりブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)指定を受け、2015年2月に迅速承認、2017年3月に正式承認されている。そして2017年9月27日、国内においてもイブランスが「手術不能又は再発乳癌」の効能・効果にて製造販売承認を取得、2017年12月15日に上市した。サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬 イブランスの作用機序
パルボシクリブ(イブランス)は、サイクリン依存性キナーゼであるCDK4およびCDK6を特異的に阻害することでがん細胞が増殖するのを制御する経口分子標的薬である。 サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)は、細胞周期を制御するメカニズムを不能とする酵素である。 1つの細胞が2つに分裂が進む過程を細胞周期と呼ぶ。図のように、S期→G2期→M期→G1期という順番で細胞分裂が繰り返され、無限に細胞分裂しないように細胞周期のG1期で抑制している。しかしながら、CDK4及びCDK6が関与することにより細胞周期の制御を不能とし、無制限に細胞増殖する。 CDK4およびCDK6はサイクリンDという蛋白質に依存する蛋白リン酸化酵素複合体であり、それ故、サイクリン依存性キナーゼと呼ばれる。 進行乳がん患者の約70%はホルモン受容体が陽性を示しているため、ゴセレリン(商品名ゾラデックス)、リュープロレリン(商品名リュープリン)などのホルモン療法に効果を示すが、中にはホルモン療法に効果を示さなかったり、又は一度は効果を示したものの時間の経過とともに病勢が進行してしまう可能性がある。 ホルモン療法に効果を示さない原因の1つとして蛋白質複合体であるサイクリンDの存在が考えられている。サイクリンDは乳がん患者50%以上に発現することが確認されており、サイクリンDが過剰発現する患者の大半はエストロゲン受容体陽性であることがわかっている。 故に、サイクリンD に依存する酵素であるCDK4/6を阻害するCDK4/6阻害薬は、進行再発乳がんの治療成績向上を期待される。
パルボシクリブ(イブランス)の臨床試験成績
パルボシクリブ(イブランス)は、日本も参加した以下の臨床試験にて有効性を科学的に証明している。(2017年12月15日時点) ・閉経後のER陽性HER2陰性進行乳がん患者対象の第3相試験(PALOMA-2試験:NCT01740427) ・ホルモン療法を受けた後に疾患進行を認めたHR陽性HER2陰性進行乳がん患者対象の第3相試験(PALOMA-3試験;NCT01942135) イブランスは、これらの試験結果が科学的根拠となり国内承認を取得している。 故に、「手術不能又は再発乳癌」の効能・効果にて製造販売承認を取得しはいるものの、実診療ではホルモン受容体陽性またはエストロゲン受容体陽性のHER2陰性乳がん患者を対象として使用される。(下図) 実診療におけるイブランスの使用対象(2017年10月10日時点)
閉経後のER陽性HER2陰性進行乳がん患者対象のイブランスの第3相試験
パルボシクリブ(イブランス)は、『閉経後のエストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性進行乳がん患者対象に、初回内分泌療法にイブランスを追加したときの有効性を検証する国際多施設共同ランダム化の第3相試験(PALOMA-2試験)』にて、有効性が立証された。 閉経後のER陽性HER2陰性進行乳がん患者666人が、初回内分泌療法として「イブランス+レトロゾール(商品名フェマーラ)併用療法(イブランス併用群)」または「プラセボ(偽薬)+フェマーラ併用療法(プラセボ群)」を実施する群に2:1の割合で割り付けられ、主要評価項目は無増悪生存期間(PFS;病態が進行するまでの期間とほぼ同義)となる。 治療は28日を1サイクルとし、「イブランス125mg/日(3週間投与、1週間休薬)とフェマーラ(2.5mg/日)」または「プラセボとフェマーラ」を内服し、病勢進行、患者の試験同意の撤回、死亡のいずれかまで継続された。
ホルモン療法を受けた後に疾患進行を認めたHR陽性HER2陰性進行乳がん患者対象のイブランスの第3相試験
パルボシクリブ(イブランス)は、『ホルモン療法を受けた後に疾患進行を認めたホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性進行乳がん患者対象に、次治療内分泌療法にイブランスを追加したときの有効性を検証する国際多施設共同ランダム化の第3相試験(PALOMA-3試験)』にて、有効性が立証された。 ホルモン療法を受けた後に疾患進行を認めたHR陽性HER2陰性進行乳がん患者521人が「イブランス+フルベストラント(商品名フェソロデックス)併用療法」または「プラセボ(偽薬)+フェソロデックス併用療法」を実施する群に2:1の割合で割り付けられ、主要評価項目は無増悪生存期間(PFS;病態が進行するまでの期間とほぼ同義)となる。 治療は28日を1サイクルとし、「イブランス125mg/日(3週間投与、1週間休薬)とフェソロデックス500mg/日(1サイクル目のみ14日ごと、その後28日ごと筋注)」または「プラセボとフェソロデックス」を内服し、病勢進行、患者の試験同意の撤回、死亡のいずれかまで継続された。なお、閉経前および閉経周辺期の患者には、両群とも黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)作動薬であるゴセレリン(商品名ゾラデックス)を28日ごと皮下投与を行った。
パルボシクリブ(イブランス)の副作用
パルボシクリブ(イブランス)は、細胞周期を抑制する薬剤であるため、細胞障害製剤(いわゆる化学療法製剤)と同じような副作用が発生する。 特に血液系副作用は高頻度で発現し、POLOMA-3試験の「イブランス+フェソロデックス併用群」では、好中球減少、白血球減少、血小板減少、貧血であった。また、発熱性好中球減少症の有害事象発現頻度は0.9%であった。好中球減少にてイブランスを休薬した割合は59.7%、減量した割合は27.0%であったが、イブランスの使用を中止した割合は0.6%であり、ほとんどの場合で休薬や用量調整で制御可能となった。 非血液系副作用では、感染症、脱毛症、口内炎、下痢、悪心、疲労などが高頻度で認められ、頻度は高くないが間質性肺炎(0.9%、G3以上0%)の発現が認められた。