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ホルモン受容体陽性乳がんに対する新規治療薬への期待:日本の開発の現状と課題 第33回日本乳癌学会学術集会より

[公開日] 2025.08.05[最終更新日] 2025.07.31

7月10日から7月12日に、第33回日本乳癌学会学術集会(JBCS 2025)が、京王プラザホテルにて開催された。 シンポジウム16「本邦で開発中/開発予定の新規内分泌療法薬について」のセッションの中で、新規の治療薬の開発状況が紹介された。 その中から、日本の実臨床にインパクトがある開発状況を以下にピックアップしてまとめてみた。

選択的エストロゲン受容体分解薬(Selective estrogen receptor degrader;SERD):内藤陽一先生(国立がん研究センター東病院 総合内科)

ホルモン受容体陽性乳がんに対する内分泌療法としては、エストロゲン受容体拮抗薬であるタモキシフェンや、アロマターゼ阻害剤が標準的に使われてきたが、現在は新たな作用機序の薬剤の臨床導入が進んでいる。 その中のひとつである選択的エストロゲン受容体分解薬(Selective estrogen receptor degrader;SERD)は、エストロゲン受容体のシグナル伝達遮断だけでなく、エストロゲン受容体の核内輸送の抑制や分解の促進など様々な作用を持つことから、従来の内分泌療法に耐性を示すがん細胞に対しても有効性が期待されている。 既にステロイド性の筋肉内投与によるSERDとしてフェソロデックス(一般名:フルベストラント)が承認されているが、特定の変異(Y537S)に対する作用が弱いなどの制限があり、現在非ステロイド性の経口SERDの新薬の開発がメインに実施されている。 まず未治療症例に関しては、ギレデストラント(第3相persevERA試験)およびカミゼストラント(第3相SERENA-4試験)の有効性・安全性の検討が進んでおり、いずれの参加国にも日本が含まれている。 次に、初回治療中にctDNAによるESR1遺伝子変異が検出された症例に関しては、カミゼストラントの早期介入が検討されている(第3相SERENA-6試験)。画像上の病勢増悪が認められなくても、ctDNA陽性となった段階で早期にカミゼストラントに切り替えることで、病勢増悪までの期間が延長されることが今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で示された。しかし、画像上の病勢進行が認められた時点でカミゼストラントに切り替えることで、増悪後の生存期間が十分延長する可能性も指摘されているため、早期の積極的な治療介入の意義は、今後より長期的な結果を評価する必要がありそうだ。 そして既治療症例に関しては、イムルネストラントの効果が既に第3相EMBER-3試験で検討されており、特にESR1変異陽性症例において無増悪生存期間(PFS)の改善が認められている。また、CDK4/6阻害剤であるベージニオ(アベマシクリブ)との併用でPFSの更なる改善が得られることも示された。この結果について内藤先生は、約7割がCDK4/6阻害剤の治療歴を有した症例にもかかわらずこれだけの効果が出ているというのは、臨床的にとても貴重なデータである、とコメントした。 この既治療症例に対する経口SERDは、実際にはESR1変異陰性に対してもある程度の効果が認められている。しかし内藤先生によると、第3相EMERALD試験(日本不参加)をもとにしたFDA(米国食品医薬品局)承認がESR1変異に限定していることから、今後もバイオマーカーによる治療選択が重要視され、ESR1変異陽性症例が開発の対象になっていくことが予想される。 以上の状況から内藤先生は、「今後の治療方針としてSERDを初回治療から使用するのか、二次治療として使用するのか、あるいはctDNAで早期に再発が検出された段階で使用するのか、実臨床への導入に向け、最適なタイミングについての答えがまだ出ていません」と、今後の議論の必要性を強調した。

新規分子標的薬と内分泌療法の併用療法:原文堅先生(愛知県がんセンター 乳腺科)

ホルモン受容体陽性乳がんに対する初回治療としての内分泌療法+CDK4/6阻害剤後の最適な二次治療は確立されていない。 原先生は二次治療の選択に重要な点として、耐性機序(ESR1遺伝子変異やPI3K/AKT/mTOR経路の活性化など)、初回治療歴やその効果、がんの大きさや増殖速度、有害事象の4つを挙げ、二次治療の開発状況について説明した。 まず遺伝子変異陰性症例に関しては、初回治療である内分泌療法+CDK4/6阻害剤の効果の有無によって、CDK4/6阻害剤の継続使用、あるいはmTOR阻害剤であるアフィニトール(一般名:エベロリムス)などの別の薬剤の使用が検討される。 次に、PI3K/AKT/mTOR経路の活性化症例に関しては、PIK3CA変異陽性症例においてPI3K阻害剤であるアルペリシブの効果が第3相SOLAR-1試験で既に示されている(日本では未承認)。またもうひとつAKT阻害剤であるトルカプ(一般名:カピバセルチブ)が、PIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異陽性症例に対して既に承認されている。ただし、PI3K/AKT/mTOR経路に対する阻害剤は、高血糖、消化器毒性、皮膚毒性など毒性が課題である、と原先生。トルカプの使用経験にも触れながら、毒性管理の重要性を強調した。 続いてESR1変異陽性に関しては、SERD(前項目参照)やPROTAC(次項目参照)が開発中であり、まもなく日本でも使えるようになっていくだろう、と原先生は期待を述べた。 現在開発中の併用療法に関しては、PIK3CA変異陽性の進行乳がんに対する「PI3K阻害剤であるイナボリシブ+イブランス(一般名:パルボシクリブ)+フェソロデックス」の3剤併用療法の有効性が第3相INAVO120試験で検討されている。同試験には日本の参加はないが、既に日本への導入の検討も始まっているという。また、「経口SERDであるイムルネストラント+CDK4/6阻害剤ベージニオ(一般名:アベマシクリブ)」の併用療法により、ESR1変異の有無に関わらず高いPFS改善効果が確認されており(第3相EMBER-3試験)、有望な併用療法として注目されている。 今後の新規薬剤の開発に伴い、有望な併用療法の開発も進むことが予想されるが、「実臨床への導入に向けて、有効性と毒性のバランスを考えていくことが重要です」と、原先生はコメントした。

PROTAC技術による新規ホルモン療法開発:米盛勧先生(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)

PROTAC(Proteolysis Targeting Chimera:標的タンパク質分解誘導キメラ分子)は、標的とするタンパク質に結合するリガンドとE3ユビキチンリガーゼに結合するリガンドをリンカーでつなぐことで、標的タンパク質のユビキチン化を促進し、プロテアソームによる分解を導く新規の薬剤である。 最も開発が進んでいる薬剤は、野生型/変異型エストロゲン受容体を標的としたベプデゲストラント。ESR1変異陽性においては、内分泌療法+CDK4/6阻害剤後のベプデゲストラントがフェソロデックスよりも有効性があることが、既に第3相VERITAC-2試験の結果から示されている。ここに関して米盛先生は、PROTACがESR1変異陰性症例にも有効なのかどうかが気になっているとコメントした。 現在は、イブランスとの併用を検討した第3相VERITAC-3試験が進行中である他、CDK4/6阻害剤をはじめとする様々な分子標的薬との併用療法の開発も進んでいる。 PROTACの技術は、標的とするタンパク質に応じたデザインにより、幅広いタンパク質に応用が可能であり、既にCDK4/6やPARP、HER2などに対するPROTACの開発が進行中だ。また、抗体とPROTACを結合させることで、抗体によって狙った局所に誘導した後にPROTACによるタンパク質分解を誘導する、より選択的な薬剤も考案されている。 このような開発状況を受けて米盛先生は、今後益々治療選択肢が増えることで、最適な治療を考えていくことが難しくなっていく一方で、個々の耐性化の機序に応じた戦略が検討できるようになっていくことに期待したいと述べた。 関連リンク: 第33回日本乳癌学会学術集会 ウェブサイト
ニュース 乳がん PROTACSERDホルモン陽性

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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