中皮腫の治療 -化学療法-


  • [公開日]2017.08.08
  • [最終更新日]2021.05.24

化学療法の概要

悪性胸膜中皮腫は、胸膜の肥厚や多数のしこりとして発見されるため、外科療法の適応になることは少なく、多くの場合、化学療法(薬物療法)が治療の候補となります。

外科療法ですべての病変をとりきることが困難と判断される場合には、放射線療法や化学療法が行われます。多量に胸水が貯留して呼吸困難のある場合には、管(ドレーン)を胸の中に挿入して胸水を体外へ排出し、呼吸を楽にします。また、胸水の再貯留を防ぐため、この管を通して胸膜癒着剤と呼ばれる薬などを胸腔内へ投与することもあります(胸膜癒着療法)。

外科手術の後に行う化学療法もあります。医師が手術の際に目にみえるがんをすべて摘出したとしても、なお残存しているがん細胞を殺すために一部の患者さんに対して手術後に化学療法や放射線療法が行われることがあります。
このように、治癒の可能性を高めるために手術後に行う治療法をアジュバント療法といいます。

化学療法は、薬剤を用いてがん細胞を殺すかまたは細胞分裂を停止させることでがん細胞の増殖を停止させるがん治療のことです。口から服用したり、筋肉や静脈内に注入する化学療法では、薬剤は血流を通って全身のがん細胞に影響します(全身化学療法)。脳脊髄液、臓器、腹部などの体腔に薬剤を直接注入する化学療法では、薬剤は主にこれらの領域中にあるがん細胞に影響します(局所化学療法)。

多剤併用化学療法は2種類以上の抗がん剤を用いる治療法です。どの方法の化学療法が用いられるかは治療されるがんのタイプや病期によって異なります。

抗がん剤を、胸水のたまっている胸腔内や、腹水のたまっている腹腔内に直接入れる場合もありますが、通常は点滴で投与します。そして、抗がん剤は血液の流れに乗ってがん細胞に影響を及ぼします。ペメトレキセド(商品名:アリムタ)は、抗がん剤治療を初めて受ける患者さんにシスプラチンと一緒に投与すると生存期間が延長することが確認されています。また、症状の改善も確認されています。

悪性胸膜中皮腫に対する化学療法の中心的薬剤(抗がん剤)は、ペメトレキセド(商品名:アリムタ)で、この薬にシスプラチンを組み合わせた併用治療(シスプラチン+ペメトレキセド)が標準的治療として用いられます。シスプラチン+ペメトレキセド療法による奏効率(病変の大きさが半分以下に縮小する患者さんの割合)は約40%ほどです。欧米では、ペメトレキセド、シスプラチン以外の薬剤として、カルボプラチン(ペメトレキセドと組み合わせて、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法で使用)、ゲムシタビン、ビノレルビンなども用いられています。

なお、シスプラチンとゲムシタビン併用による化学療法は,ほとんどの症例で症状を緩和しており,調査した患者の2分の1で腫瘍の縮小を認めたという報告もあります。

しかし、2017年6月現在、日本では、カルボプラチン、ゲムシタビン、ビノレルビンなどの抗がん剤は悪性胸膜中皮腫に対して適応承認が得られていません。シスプラチン80mg/㎡にアドリアマイシン40mg/㎡,マイトマイシンC 8mg/㎡の併用や、塩酸イリノテカンの併用療法が試みられていますが有効率は20%以下といわれています。

このほか、悪性胸膜中皮腫に対していくつかの新しい抗がん剤の開発が進められ、日本でも開発治験が行われています。海外ではシスプラチンとペメトレキセドにベバシズマブを加えることの有効性が報告されています。日本でも、新規抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬遺伝子治療などの臨床開発(治験)が行われていますが、現時点では日本のみならず欧米での適応承認が得られるまでには至っていません。

化学療法の副作用

抗がん剤はがん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を及ぼします。特に髪の毛、口や消化管などの粘膜、骨髄など新陳代謝の盛んな細胞が影響を受けやすく、その結果として、脱毛、口内炎、下痢、吐き気、しびれ・感覚低下が起こったり、白血球や血小板の数が少なくなることがあります。

それ以外には、心臓への影響として動悸や不整脈、また肝臓や腎臓に障害が出ることもあります。副作用が著しい場合には治療薬の変更や治療の休止、中断などを検討することもあります。

参考資料:
レジデントのための呼吸器内科ポケットブック(2012)
呼吸器疾患 (コメディカルのための最新医学講座 第2巻)(2005)
メルクマニュアル第18版
ワシントンがん診療マニュアル第2版

ウェブサイト:
国立がん研究センター希少がんセンター
http://www.ncc.go.jp/jp/rcc/01_about/mesothelioma/index.html
http://www.ncc.go.jp/jp/rcc/01_about/peritoneal_mesothelioma/index.html
がん情報サービス
http://ganjoho.jp/public/cancer/mesothelioma/treatment.html

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