中皮腫とは(疾患情報)


  • [公開日]2017.08.08
  • [最終更新日]2018.01.11

中皮腫とは

以前は中皮癌という表現も使われていましたが、現在は悪性中皮腫または単に中皮腫と呼ばれます。
中皮腫は、胸膜、腹膜、心膜、きわめてまれに精巣鞘膜(腹膜鞘状突起の遺残物で、精巣と精巣上体周囲の漿膜)の内面と、その腔内(胸腔内や腹腔内)の諸臓器の表面を覆う中皮細胞に由来すると考えられる腫瘍です。
発生部位別に、胸膜中皮腫(85.5%)、腹膜中皮腫(13.2%)、心膜中皮腫(0.8%)、精巣鞘膜中皮腫(0.5%)に分けられ、後者2種類はきわめてまれです。肺や腹腔内臓器の表面を囲むように、びまん性に広がります。

アスベスト(石綿)の曝露に関連があり、男性に多く発生します。多くの疫学的研究から、1970年代の初頭にはアスベストの発癌性と中皮腫との因果関係が確立しました。
アスベストは断熱性・耐久性・柔軟性が優れているため、有用な天然資源として20世紀には大量に採掘され利用されました。
アスベストのなかでも発癌性の強い角閃石石綿のクロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)は1970年代から欧米では使用が控えられましたが、発癌性の弱い蛇紋石石綿のクリソタイル(白石綿)はその後も続けて使用され、全面的に禁止されたのは日本では2005年6月のいわゆる“クボタショック”からです。
尼崎のクボタ神崎工場の従業員や周辺住民に中皮腫が高頻度に発症していることが報告され、このクボタショックに端を発した「アスベスト・中皮腫」問題は大きな社会問題に発展しました。

アスベストの大量消費から40年以上が経過し、アスベスト発癌の長い潜伏期間(30~40年)が過ぎようとする現在、かつてはまれな腫瘍だった中皮腫は世界的に急増しています。
中皮腫による国内の死亡者数は2006年に1000人を超え、2015年には年間1500人を超えました。

悪性中皮腫の頻度は、アメリカとスウェーデンではすでに発生ピークを過ぎたとみられており、アメリカでは2004年にピークを迎えましたが、ヨーロッパは2015~2020年、日本では経済活動を支えるためにアスベストの使用が国策として奨励されたこともあり、ピークが訪れるのは2030年ともいわれており、過去のアスベストの使用量から今後も症例数は増加していくと予想されています。
アスベスト職歴があれば労災として、職歴のない場合は石綿被害救済法の申請を行う必要があります。

中皮腫は、アスベストがきわめて低濃度な一般環境での曝露でも発生するため、一般住民を対象にしたアスベスト検診が始まっていますが、中皮腫の効果的な検診法、早期診断法の樹立が緊急の課題となっています。
一方で、高濃度で曝露すると中皮腫の発生確率が高くなるというわけでもなく、アスベスト高濃度曝露群の発生率は10~20%であり、80%近くには発生がみられないこと、中皮腫には海外で多発家系がみられることなどから、アスベストに対する感受性を規定する遺伝的素因があるのではないかとも考えられています。

高濃度曝露者では胸膜中皮腫よりも腹膜中皮腫が多い傾向がみられます。BRCA-1 associated protein-1(BAP1)遺伝子変異があると中皮腫の発症リスクが高まることが示唆されています。なお、中皮腫と喫煙の因果関係はみられていません。

中皮腫は、組織形態学的には上皮型、肉腫型、豊富な膠原線維を伴う線維形成型(肉腫型の亜型)、上皮型と肉腫型が10%以上ずつ混在する二相型(混合型)の4種に区別され、線維型は特徴がないために診断が困難です。

中皮腫の症状

胸膜中皮腫では、呼吸困難や非胸膜性胸痛の症状が現れることが多く、全身症状は受診時には一般的ではありません。
胸壁やその他の隣接構造物に浸潤がある場合は、激しい痛み、嗄声(させい)、嚥下障害、ホルネル症候群、上腕神経叢障害、腹水の原因となることがあります。
患者の最大80%に胸郭外への広がりがみられ、その場合は、肺門リンパ節、縦隔リンパ節、肝臓、副腎、腎臓などに広がることが一般的です。

アスベスト肺に合併します。初発症状は息切れ、胸痛、咳、胸水による胸部圧迫感などで、疾患が進行するにつれて胸痛が強くなります。患者さんは息切れや漠然とした胸痛、体重減少などを主訴に来院することが多く、胸水が血性になることもありますが、血性胸水は比較的少なく40%以下です。
胸水そのものでは症状は出ませんが、大量の胸水によって肺が圧迫されたり、胸水によって炎症が胸膜に広がることで各種の症状をきたします。肺癌とは異なり、初期に血痰がみられることはありません。
また、まったく症状が認められない場合もあります。胸膜に沿って薄く広がるように浸潤し、嚥下困難や上大静脈症候群を生じることもあります。胸膜の線維性肥厚と胸水貯留がみられ、進行すると胸腔全体、肺内、横隔膜、胸壁に腫瘍細胞浸潤が広がります。

腹膜中皮腫は腹腔内の病気のため、早期にはあまり症状がみられません。病気が進行するにつれて、初発症状として、腹水貯留による腹部膨満感と、腫瘤形成に伴う腹痛があり、頻度はほぼ半々で、両者が同時に生じることは比較的少ないです。
その他の症状として、腰痛、食欲低下、排便異常、腹部のしこりなどがみられます。いずれの症状も、この疾患に特徴的なものではないため、早期発見・診断が難しい病気です。

心膜中皮腫はタンポナーデを引き起こし、脊柱、隣接する軟組織や脳に転移することがあります。心膜中皮腫では心膜炎やタンポナーデの症状がみられます。

用語:悪性中皮腫(malignant mesothelioma)
同義語:中皮腫(mesothelioma)、中皮癌(mesothelial cancer)、体腔癌(coelomic carcinoma)

参考資料:
呼吸器疾患 (コメディカルのための最新医学講座 第2巻)(2005)
Medical Technology 2009年2月号
Dr.レイの病理学講義(2012)
レジデントのための呼吸器内科ポケットブック(2012)
呼吸器疾患 ―state of arts―Ver.6(別冊・医学のあゆみ)(2013)
胸膜全書(2013)
メルクマニュアル第18版
ワシントンがん診療マニュアル第2版
トートラ人体解剖生理学原書第9版
都道府県(21大都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年~27年) 人口動態統計(確定数)より http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/chuuhisyu15/

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