中皮とは
体外に直接開いていない体内の腔所(体腔)の内面と、体腔の中にある器官(内臓)の表面は、薄い膜で覆われています。この膜は、体腔を裏打ちしたり、臓器表面を覆う柔軟な薄いシートです。胸膜、腹膜、心膜などがあり、総称して漿膜と呼ばれます。このような漿膜の上皮層を形成する単層扁平上皮を中皮といいます。この中皮に発生する腫瘍が中皮腫です。中皮腫は、発生部位によっていくつかの種類に分類されます。
発生部位による種類
胸膜中皮腫
胸膜の中皮から発生する腫瘍で、良性と悪性があります。良性の中皮腫は孤立性中皮腫または限局性中皮腫とも呼ばれていましたが、現在では孤立性胸膜線維性腫瘍という名称で統一されています。有茎性発育が特徴で、切除することで予後は良好です。
悪性の中皮腫はアスベスト曝露歴に関係します。病変の広がり方(発育形式)によって、限局性に発育するもの(1カ所にかたまりを形成するようなもの)と、びまん性に発育するもの(広く胸膜に沿ってしみこむように発育するもの)に分類され、病理学的には上皮型、肉腫型/線維型、混合型に分類されます。症状は疾患に特異的なものではなく、胸痛や胸部不快感などです。病状が進行すると、胸壁浸潤、縦隔浸潤、頸部リンパ節転移などを生じます。
治療は、限局性であれば外科的切除が第一選択です。びまん性の場合には胸膜を剥ぎ取る胸膜剥皮術や、胸膜と肺を一塊として摘出する一側肺胸膜全摘術を行うこともありますが再発率が高く予後不良と言われています。
びまん性の場合、膜全体に広がっていくという疾患の性質から放射線療法の効果は高くありません。
腹膜中皮腫
中皮腫全体の20%弱が腹膜に原発する腹膜中皮腫です。中年男性に好発しますが、胸膜中皮腫では男性比率が非常に高い(男女比は約5対1)のに対し、腹膜中皮腫ではそれよりも女性比率が高くなっています(男女比は約3対2)。
また、胸膜中皮腫ではアスベストとの関連性が高いですが、腹膜中皮腫ではアスベスト曝露歴があるのは15~30%です。ただし、高濃度のアスベスト曝露歴がある割合は胸膜中皮腫よりも高くなっています。アスベストの潜伏期間(発症までの期間)は胸膜中皮腫では40年であるのに対して腹膜中皮腫では30年といわれており、そのため、胸膜中皮腫よりも発症年齢が若い傾向があります。
組織型の分類としては、上皮成分の優勢な上皮型と間葉成分の多い線維型とに分けられ、胸膜中皮腫にみられるような肉腫型はほとんどありません。頻度の高い上皮型ではヒアルロン酸を多量に分泌し、粘稠(ねんちゅう:ねばりけがあって密度の濃い)な腹水が貯留します。
早期ではほとんど症状はなく、腫瘍が増大するに伴って徐々に症状が現れます。便通の異常、腫瘤の触知、腹部膨満感、腹痛などがみられ、悪化すると腸管の通過障害、排便痛、食欲低下、体重減少などが現れます。
体腔局所に腫瘍が比較的長く留まることが多く、腹腔内の各臓器の被膜に広範囲に浸潤・進展をきたしますが、遠隔転移は少ないという特徴があります。
心膜中皮腫
心膜に悪性疾患が発生する場合はほとんどが続発性(他の疾患から二次的に発生)であり、原発性の心膜腫瘍はまれです。悪性心膜中皮腫は、心膜原発腫瘍の約2~3%でもっとも高い割合を占めます。心外膜と心囊の中皮細胞由来で、悪性中皮腫全体では約1~2%というきわめてまれな病気です。
心膜原発悪性中皮腫の基準は、①腫瘍が臓側、壁側心外膜に限局し壁側板を穿通していない、②転移があってもリンパ節のみである、③他に原発性腫瘍が存在しない、④死亡の場合は完全な剖検で確認されている、とされています。疫学的調査によると、年間4千万人に1人(0.002%)の割合で発生するとされています。
男女比は2.5~3対1で男性に多く、年齢層を問わずに発症しますが20歳以下は少なく、40~60歳代に多いとされます。胸膜中皮腫や腹膜中皮腫とは異なり、アスベスト曝露については関連性がはっきりしていません。
心膜液(心囊液)の細胞診や小さな生検標本のみでは診断が大変難しい病気です。心膜中皮腫では、心膜液の貯留による心臓の圧迫のため、心タンポナーデ(心室充満低下と心拍出血低下を生じた病態)や心膜炎の症状がみられ、脊柱、隣接する軟組織や脳に転移することがあります。治療法は確立されていません。
組織型による種類
上皮型
悪性中皮腫の約60%程度がこの型で、抗がん剤などの治療が比較的効くといわれ、この組織型がもっとも予後が良いといわれています。立方状で類円形核を有する異型細胞が管状またはシート状に配列し、管状の場合は腺癌との見極め、シート状の場合は扁平上皮癌との見極めが重要です。
肉腫型
骨や筋肉に発生する肉腫と似た組織像を示す型です。悪性中皮腫の約10~20%がこの組織型です。肉腫型の場合は、紡錘形を有する細胞の束状配列または無秩序な配列を示し、平滑筋肉腫との区別が必要です。
線維形成型
線維形成型中皮腫は肉腫型中皮腫の亜型で、密な膠原線維の増生を伴います。膠原線維が50%以上です。
二相型
腫瘍組織内に上皮型と肉腫型とみられる組織型が混在する型です。上皮型成分または肉腫型成分が少なくとも10%以上存在し、両方の特徴を有する中皮腫です。
中皮腫のステージ(病期)
Butchart分類の病期
I期 壁側胸膜の被膜内に限局(同側の胸膜、肺、心膜、横隔膜)。
II期 胸腔内(N1またはN2)リンパ節転移を伴うすべてのI期。
III期 以下の領域へ局所進展する中皮腫(胸壁または縦隔、心臓または横隔膜/腹膜貫通)。胸郭外または対側(N3)リンパ節転移は問わない。
IV期 遠隔転移がある。
International Mesothelioma Interest Group(IMIG)の病期分類
中皮腫に関する病期分類は複数の基準が提唱されていましたが、国際的に認められる統一した病期分類法として定着したものはなかったため、International Mesothelioma Interest Group(IMIG)が国際中皮腫TNM分類(IMIG分類)を提案し、この病期分類が国際基準となっています。IMIG分類による病期は次のとおりです。
Ⅰa期 壁側胸膜に限局しており、臓側胸膜には腫瘍を認めない。
Ⅰb期 壁側胸膜から臓側胸膜に腫瘍が散らばる
Ⅱ期 胸膜のほか肺へ腫瘍が広がる。または胸膜全体に広がる。
Ⅲ期 切除可能な範囲で胸壁や縦隔脂肪織などへ広がる。
Ⅳ期 横隔膜や縦隔臓器や反対側の胸膜などへ広がり、遠隔の臓器や組織に広がる。
病期分類は胸部CT、縦隔鏡検査、MRIで行います。MRIとCTの感度と特異度は同程度ですが、MRIは腫瘍が脊椎または脊髄に拡大していないか明らかにできるので有用です。胸膜肥厚の良性と悪性の鑑別にはPETの感度と特異度が高くなっています。
参考資料:
呼吸器疾患診療最新ガイドライン(2014)
メルクマニュアル第18版
トートラ解剖生理学原書第9版
朝倉内科学書第10版
ワシントンがん診療マニュアル第2版
胸膜全書(2013)
病理画像診断これでスッキリ!(2012)
肺がん 改訂4版(インフォームドコンセントのための図説シリーズ)(2011)
ウェブサイト:
https://www.asbestos.com/mesothelioma/peritoneal.php
http://www.mesothelioma-adviser.com/malignant-pleural-mesothelioma/
http://www.mesothelioma-adviser.com/mesothelioma-asbestos-diseases/
https://www.mesotheliomatreatmentcenters.org/mesothelioma-cancer/
生前診断した原発性悪性心膜中皮腫の1剖検例
http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/049120964j.pdf
中皮腫の病理診断
http://www.twmu.ac.jp/TYMC/WHO/mesothelioma.html