10月5日、国立がん研究センター東病院が主催する 第8回がん新薬開発合同シンポジウムが開催された。がん新薬開発合同シンポジウムは、2011年に第1回開催以後、アカデミア研究者、企業開発担当者、規制当局担当者などを中心に毎年300名を超える参加者から活発な討論がなされている。

第8回となる今回のテーマは「臨床開発のNew Frontier~我々はどこに進むべきか~」。各方面をリードされている演者よりIoTやリアルワールドデータ、スマート治験など、ITの発展に伴う新しい治験の形と、著しい発展を遂げているアジア地域(特に中国)での治療開発に関して、アカデミアがどのようにアプローチしていくのか?その方法論についてディスカッションがなされた。

今回、オンコロではレポート形式にて、その内容の一部を発信する。スライドも公開されているものがあり、リンクを明記する。一般の方には難しい内容であるが、参考にしていただきたい。

プログラム・抄録はコチラ

新しい形の治験 抗がん剤開発の今後の動向

野中 孝浩氏(医薬品医療機器総合機構 新薬審査第五部 審査役)より、当局観点よりがん分野の薬剤開発の今後の動向の発表がなされた。要点は以下の通り。

日本では3つの医薬品開発に関わるイノベーションに対応した制度が設置されている。

1. 希少疾病用医薬品の指定制度(クリゾチニブ、アレクチニブ、セリチニブ等)
2. 医薬品条件付早期承認制度(ロルラチニブ、ペムブロリズマブ等)
3. 先駆け審査指定制度(ASP2215等):現在第3回まで実施

新たな方法論への試みとしては、科学委員会というものを設置。現在第3期まで実施しており、本年度から第4期が開始している。

実臨床における各種データの申請への活用を検討しており、リアルワールドデータや疾患登録システム(レジストリ)の医薬品等への活用も検討している。これらの検討はPMDAで横断的なプロジェクトが始まっているが、論点や問題点についてはこれから抽出して発信を行っていく。データに関しては治験等の対象群としての活用、あるいは製造販売後調査等における安全対策への活用を考えている。

電子カルテ EDC連動システムの可能性

松村 泰志氏(大阪大学大学院医学系研究科 医療情報学 教授)より、治験のデータ収集手法として電子的な症例報告書(CRF;Case Report Form)であるEDC(electoronical data capture)と電子カルテのデータ連動について、その可能性が発表がなされた。

治験あるいは患者レジストリにおけるデータ収集ではEDCが利用されている。電子カルテが普及し、診療録がデータベースに保存される状況となっているが、電子カルテとEDCが連動できないため、診療録のデータをEDCに転記入力している状況にある。

このため、CRC(治験コーディネーター)が転記している状況があり、治験ではCRA(Clinical Research Associate:製薬企業等の臨床開発担当者)によるSDV(Source Date Verification:原資料の直接閲覧あるいは原資料との照合・検証)が必要となり、データ収集に費用がかかる要因となっている。これは費用面だけではなく、転記ミスが生じる原因ともなっている。

そこで、CRFレポータというモジュールを電子カルテに組み込むことで電子カルテの経過記録から症例のエントリができ、エントリされた患者のカルテを開くとイベントリストの表示が誘導され、ここから各イベントの臨床データを記録するテンプレートが開く。テンプレートで入力されたデータは、自然言語に変換され経過記録に出力され診療録の記録となり、同時に電子症例報告書フォームに埋め込まれ、データセンターに送信される。

しかし、このシステムは治験等の高いレベルの試験では運用実績がなく、当面は観察研究を想定して設計が行われている。例えば、看護師が有害事象等にいち早く気づいて看護記録に書き、それを医師が把握するといった状況が生じたとき、原資料をどれにするかといったことが問題となり、これに関しては検討されていない。

Patient-centered remote 治験

松島 総一郎氏(ノバルティスファーマ株式会社 開発本部 マネージャー)より、新しい治験デザインとなる遠隔治験について発表がなされた。なお、Patient-centered remote治験とは治験実施医療機関への訪問をなるべく少なくする手法であり、ウェアラブルセンサーなどを使用した遠隔治験やバーチャル治験、治験担当医や治験スタッフが被験者の自宅を訪問する訪問治験などのことを指す。

医薬品の開発は年々難しくなっており、内部収益率は10%から3%に低下し、医薬品コストも指数関数的に増加している。これにより、開発は希少疾患や個別医療にシフトしているため、試験の負担というものが増加している。そこで、電子同意文書やウェアラブルセンサを用いた実施医療機関への通院を少なくするPatient-centered remote試験の必要が検討されている。

Patient-centered remote 治験のメリット

1. 適格性のある患者さんに参加していただきやすい
2. 定期的な訪問が必要なくなる
3. 実施医療機関へのVisitが減るので病院側のプロセスが短縮できる
4. 治験時と製造販売後のギャップを埋めることができる

電子の患者日誌というものがあるが、入力してもフィードバックをもらえないといった不満が被験者には存在し、モチベーションを維持することが重要。

実際に、ノバルティスファーマではPCRT Settings Case Studyという腰痛に関する試験を行った。遠隔での管理を行った群では4か月のリクルートメントで3倍近くの登録があった。さらに試験の完遂率も60%から89%に上昇した。

まだ、日本においてはこのような試験を行うのは難しい。そこで、まずは難しい治験などではなく簡単な実績を積んでいくことが重要ではないか。

アカデミアの立場から:SCRUM-Japanレジストリでの新しい取り組み

大津 敦氏(国立がん研究センター 東病院長)より、スクラム・ジャパンの現状が報告なされた。

7月26日に開かれたスクラム・ジャパン報告会の記事を参照して頂きたいが、今回、その内容も含めスライドが公開された(コチラ)。

がん治療の革命!?プレシジョン・メディシン⑫ 日本のゲノム医療をけん引するスクラム・ジャパンの成果 ‐前編‐

がん治療の革命!?プレシジョン・メディシン⑫‐2 日本のゲノム医療をけん引するスクラム・ジャパンの成果‐後編‐

中国における抗がん剤開発 今と昔

高野 哲臣氏(コーヴァンス・ジャパン株式会社 臨床開発事業本部 シニアストラテジーディレクター)より、中国における抗がん剤開発状況の発表がなされた。(スライドはコチラ

世界最長と言われていた中国の治験実施の審査期間の長さ等に起因して治験許可申請(IND;Investigational New Drug)から施設の立ち上げまで2年程度あるいはそれ以上の時間を要していたこともあり、中国の施設が国際共同治験に参加する機会は長年非常に限られていた。

しかし、2011年に中国政府から発表された第12期5か年計画ならびに2015年8月開始の中国薬事規制改革によって大きく状況は変わった。

2017年には試験期間は劇的に短縮された。中国のベンチャーは資金を豊富に持っており、承認されていない薬の試験を何本も同時並行で行い、重戦車のように試験を進めていく。また、中国には主要研究者という立場の人がいるが、トップの人は一人で61試験を担当しているという。輸入抗がん剤は関税をゼロにするなど積極的に海外の新薬を国内に導入しようとしている。

日本が中国の企業と治験を行っていく上で必要なことは日本で治験を行ってもらえるようにすることである。たとえば、(まだ実現していないが)日本で承認されると東南アジアでも使えるようにするなど、中国企業が日本で治験で行うメリットを継続して提示していく必要がある。

アジアにおける開発体制―企業の立場から

廣橋 朋子氏(ファイザー株式会社 クリニカルリサーチ統括部 オンコロジー領域部長)より、アジアにおける開発体制の発表がなされた。(スライドはコチラ

企業治験の数の年次推移は日本が中国を上回っていたが、「医薬品医療機器の審査承認制度改革関係意見」(国発〔2015〕44号)の影響により逆転した。この勢いは今後も続いていくものと思われる。

日本はCRO(開発業務受託機関:治験業務を実施する受託機関)のコストが非常に高い。欧米と比べても外れ値である。このため、日本における開発コストは非常に高額になってしまう。これはCRAの医療機関への訪問数が劇的に多いことが原因である。多くは人件費となる。

開発担当が会社にいながら実施医療機関をモニタリングする「セントラルモニタリング」や、リスクに応じて確認するカルテデータなどの量を減らす「リスクベースドモニタリング」の導入を進め、海外並みにCRAの訪問頻度を落とさなくてはコストを下げるということはできないであろう。コストが高ければ当然日本で行われる試験は減ってしまい、ドラッグラグにつながる。コストダウンが非常に重要である。

 

文:小森 駿 編:可知健太

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