国立がん研究センター東病院のSCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)成果報告会が、7月26日、東京・丸の内で開催された。スクラム・ジャパンは、一人ひとりの患者の遺伝子の異常に合わせたがん治療の開発を目指す、産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト。成果報告会では、スクラム・ジャパン代表で同院長の大津敦氏が、プロジェクトの概要と全体的な成果について話し、希少肺がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「LC- SCRUM -Japan」の成果を同院呼吸器内科長の後藤功一氏、消化器がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「GI-SCREEN-Japan」に関しては同院消化管内科長の吉野孝之氏が報告。同センター先端医療開発センター・トランスレーショナル(TR)リサーチグループゲノムTR分野長の土原一哉氏らが、スクラム・ジャパンのレジストリ(登録)情報の活用について講演した。

内容を前後編とし、後半はGI-SCREEN-Japanの成果とスクラム・ジャパンのデータ活用について記す。

なお、本発表と同様のスライドが公開されているため、こちらも参照して頂きたい

アカデミアの立場から:SCRUM-Japanレジストリでの新しい取り組み(2018年10月5日 第8回がん新薬開発合同シンポジウム 大津 敦氏発表)

【連載】がん治療の革命!?プレシジョン・メディシン⑫日本のゲノム医療をけん引するスクラム・ジャパンの成果 ‐前編‐

消化器がんのGI-SCREEN-Japanでも遺伝子診断薬を実用化

消化器がんの遺伝子スクリーニングプロジェクトGI-SCREEN-Japanは、2014年2月からスタートした。GI-SCREEN-Japan研究代表者の吉野氏によると、今年6月までに、大腸がん患者3182例、胃がん、食道がん、肝細胞がん、胆道がん、膵がんなど大腸がん以外の消化器がんの患者2952例、計約6134例の遺伝子スクリーニング検査を実施した。GI-SCREEN-Japanは、LC-SCRUM-Japanとは異なり、全国24施設と病院数を限定し、北海道大学病院、筑波大学附属病院など6病院は、提携病院と連携する形で展開している。

吉野氏がGI-SCREEN-Japanの成果の一つとして挙げたのは、遺伝子診断を行う3種類の体外診断医薬品の開発だ。一つは、大腸がんを対象にRASとBRAF遺伝子変異の有無をみる体外診断薬「RASKET-B」。昨年12月に薬事承認され、今年8月から保険適用になっている。また、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体薬ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)が、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)がんに対して、適応拡大申請され、6月に「医薬品の条件付き早期承認制度」の対象となったが、MSI-Highの診断薬として、「MSH-H promega」がパッケージに含まれることになった。なお、高頻度マイクロサテライト不安定性は、傷ついた遺伝子の修復異常が起こっていることを示すバイオマーカーだ。MSH-Highだと、大腸がん、子宮体がん、胃がん、腎がんなどになりやすくなることが分かっている。 さらに、GI-SCREEN-Japanの成果として、大腸がん患者の血漿中の循環腫瘍DNAを用いてRAS(ctDNA)遺伝子変異の有無を調べるOncoBEAMキットが、近々承認申請される予定だ。

HER2陽性大腸がんの治験を進行中

吉野氏は、「大規模なゲノムの疫学情報を得ることができたことも成果の一つです。大腸がん、胃がん、食道がんなど食道がんの臨床ゲノムのデータベースを構築したことで、予後データや治療結果もあるので、どの遺伝子の異常がターゲットになる得るか、どの遺伝子変異がオーバーラップするかなどの考察が非常に詳細にできることになります。もちろん、遺伝子変異が見つかっただけでは意味がなく、そのターゲットに対して患者さんに薬を届けるのがわれわれの使命です」と話した。

現在、GI-SCREEN-Japan では、HER2陽性・RAS野生型(遺伝子変異なし)の進行大腸がん患者に対する、トラスツズマブとペルツズマブの併用療法の日韓共同治験TRIUMPHスタディを進行中だ。

「全身状態などの問題で治験に入れない患者さんは、標準治療を受けていただき、その経過をナチュラルヒストリーとして登録しています。もともと患者さんが少ないだけに、ランダム化比較試験は難しいので、そのナチュラルヒストリーを承認申請に使えないかと考えています。今年のASCOでは、当院の藤井医師を中心に、米国、イタリア、韓国の主要なグループとのHER2陽性大腸がんのクライテリア(判定基準)を標準化しました。世界中でナチュラルヒストリーをフォローアップすることを日本がイニシアチブを取ってやっていきたい」と吉野氏は語った。

リキッドバイオプシーのGOZILAプロジェクトをスタート

 GI-SCREEN-Japan でも、血液を使って73遺伝子を一度に調べる遺伝子診断キットGuardant360を用いたリキッドバイオプシーの研究を進めており、今年2月から、抗EGFR抗体薬の効果がない進行大腸がんのなどを対象にしたGOZILAプロジェクトをスタートした。

今後は、対象を大腸がん以外の消化器がんにも拡大して、リキッドバイオプシーを用いた遺伝子スクリーニング検査を行う予定だ。遺伝子スクリーニング検査は、米国カリフォルニアのガーデント社で実施されるが8日で結果が出る。

「リキッドバイオプシーの利点は、生検をせずに血液を用いて遺伝子の変化を調べられるので侵襲性が低く患者さんへの負担が少ないこと、値段が安いこと、血液に出て来る最もドミナント(優性)なものをとらえられることです。リキッドバイオプシーを行うことで、本当に治療すべき対象が分かる可能性があります」と吉野氏は指摘する。

 例えば、大腸がんの患者が抗EGFR抗体による治療を受けた後、リキッドバイオプシーを実施すると、治療前にはなかった遺伝子変異や通常は大腸がんにはみられない融合遺伝子が出現することがあるそうだ。 「抗EGFR抗体を投与することで抗HER2薬を効きやすくするなど、新しい治療戦略を考えなければいけないのかもしれません。われわれがいま直面しているのは、どこをターゲットに治療をすればいいのかという問題です。遺伝子変異がたくさん起こっている症例は、免疫チェックポイント阻害薬の治療ターゲットになることも考えられます」(吉野氏)

また、GI-SCRUM-Japanでは、進行大腸がんの患者を対象に、リキッドバイオプシーを用いて血管新生に関わる因子を測定し治療効果の関連性をみるUkitスタディも進行中だ。大腸がんの治療などに使われるラムシルマブなどの血管新生阻害薬は、これまで効果判定予測ができなかったが、リキッドバイオプシーで血管新生因子を測定することで、血管新生阻害薬の使い分けや効果予測ができる可能性が出てきたという。

ゲノム医療の実用化に向けて、医療従事者向けの教育も重要視されていることから、スクラム・ジャパンでは吉野氏を中心に、日本で承認、あるいは承認が見込まれるドライバー遺伝子について学べる日本臨床腫瘍学会(JSMO)のeラーニングシステムを立ち上げた。家族性腫瘍学会、日本病理学会とも連動して遺伝性腫瘍のeラーニングシステムも構築し、各学会の会員向けに公開している。

レジストリ研究で、希少な遺伝子変異に対する医薬品開発が進む可能性も

同センター先端医療開発センタートランスレーショナルインフォマティクス分野の土原氏は、スクラム・ジャパンで遺伝子スクリーニング検査を受けた患者の臨床ゲノムデータが、参加企業、GI-SCRUM-Japan、LC-SCRUM-Japanの参加施設と共有され、新たな治療の開発や臨床研究に活用されていることを報告した。

スクラム・ジャパンでは、画像評価などの臨床データを前向きに収集するレジストリ研究も開始している。レジストリが、ランダム化比較試験の困難な希少な遺伝子異常に対する治験対照群データとして活用されれば、そういった患者数が少ない遺伝子異常に対する医薬品開発が促進されることが期待される。

同報告会には、医薬品医療機器総合機構(PMDA)体外診断薬審査室の矢花直幸氏も登壇。「これまでHER2、EGFRなどの遺伝子変異を調べるためにはコンパニオン診断薬を用いてきましたが、急速に塩基配列を読み取るコストが低下して、次世代シークエンサー(NGS)が実用化のレベルに入ってきました。その結果として、がんゲノムコンソーシアム懇談会からレポートが提出され、今年中に、遺伝子パネル検査を承認する動きに進んでいます」と述べた。

遺伝子パネル検査とは、スクラム・ジャパンで用いた「オンコマインDX」などNGSを用いて、治療薬に結びつきそうな複数の遺伝子の異常を一度に調べる検査だ。矢花氏は、すでに肺がん患者のBRAF V600E遺伝子変異を調べるコンパニオン診断薬として承認された「オンコマインDX」、国立がん研究センター中央病院で開発が進む「NCCオンコパネル」、中外製薬が承認申請中の「FoundationOne CDx」を例として提示した。NCCオンコパネルは、114個、FoundationOne CDxは、324個の遺伝子異常を検出できる遺伝子パネルだ。

遺伝子パネルが実用化された場合、全国11カ所のゲノム中核拠点病院で遺伝子解析とエクスパートパネルによるアノテーション(解釈)が行われ、その結果に基づいて治療薬の選定や治験への参加が想定されている。

(おわり)

【連載】がん治療の革命!?プレシジョン・メディシン⑫日本のゲノム医療をけん引するスクラム・ジャパンの成果 ‐前編‐

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