国立がん研究センター東病院のSCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)成果報告会が、7月26日、東京・丸の内で開催された。スクラム・ジャパンは、一人ひとりの患者の遺伝子の異常に合わせたがん治療の開発を目指す、産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト。成果報告会では、スクラム・ジャパン代表で同院長の大津敦氏が、プロジェクトの概要と全体的な成果について話し、希少肺がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「LC- SCRUM -Japan」の成果を同院呼吸器内科科長の後藤功一氏、消化器がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「GI-SCREEN-Japan」に関しては同院消化管内科長の吉野孝之氏が報告。同センター先端医療開発センター・トランスレーショナル(TR)リサーチグループゲノムTR分野長の土原一哉氏らが、スクラム・ジャパンのレジストリ(登録)情報の活用について講演した。

内容を前後編とし、前半はスクラム・ジャパンの現状とLC-SCRUM-Japanの成果について記す。

30企業治験と12の医師主導治験を実施

スクラム・ジャパンは、全国約260病院、製薬企業など17社が参加してオールジャパンで進むプロジェクトだ。次世代シーケンサーNGS)を用いて、がんの発生や進行に直接関わる161種類のドライバー遺伝子を一度に調べる遺伝子スクリーニング検査を実施し、その結果を治験につなげるプレシジョン・メディシン高精度医療)のプロジェクトとして、テレビなどでも取り上げられ話題を呼んだ。

大津氏によると、2015年2月~18年6月までに、肺がんと消化器がんの患者約1万人が遺伝子スクリーニングを受け、すでに登録が終わって結果が出ているものも含め、アンブレラ型26治験、バスケット型16治験、合計42治験を行っている。なお、アンブレラ型は、1つのがんに対して複数のドライバー遺伝子の臨床試験を傘の骨のように並列させる治験。バスケット型は、特定のドライバー遺伝子の異常のある患者なら、がん種を問わず対象にする治験のことだ。42治験のうち、企業治験が30件、医師主導治験が12件行われている。

「一つの大きな成果は、スクラム・ジャパンを始めたことで、全国の臨床試験の拠点となっている病院と医師主導治験のネットワークができたことです。各治験の結果を見ますと、同じドライバー遺伝子でもすべてのがん種で同じ結果が得られているわけではないですし、薬剤によって異なることが改めてデータとして出てきています。薬の有効性に関しては、臨床試験ベースで評価していく必要があります」と大津氏は指摘した。

希少肺がんの治療薬と遺伝子変異診断薬の実用化も大きな成果

 スクラム・ジャパンで実施された治験の結果を受けて、2016年5月にはROS1遺伝子変異のある非小細胞肺がんに対するROS1阻害薬クリゾチニブ、今年3月にはBRAF阻害薬ダブラフェニブとMEK阻害薬トラメチニブの併用療法が、BRAF遺伝子変異のある非小細胞肺がんにも適応拡大された。RET遺伝子のある非小細胞肺がんに対するRET阻害薬バンデタニブも承認申請準備を進めている。また、スクラム・ジャパンで治験を行ったコンパニオン診断薬3種類が実用化されており、承認申請中のものが1件、申請準備中のものが1件ある。

「がんの治療薬の開発の全国ネットワーク構築、2剤の治療薬の承認、3つの診断薬の承認、データの共有、スクラム・ジャパンに登録した患者さんの情報を蓄積するレジストリの構築までが現時点までの成果。次のステップとして、こうした希少なフラクション(遺伝子変異など)に対する治療薬の開発で、海外の研究者グループとのコラボレーションがすでにスタートしています。リキッドバイオプシーを用いたアンブレラ・バスケット型の治験も進行中です。アジアを巻き込んだゲノム医療コンソーシアムへの拡大、そして、次の創薬、診断薬の開発を継続していくことによって、日本が世界をリードする創薬、臨床開発の場となり、プレシジョン・メディシンの確立に努めていければと考えています」と大津氏は強調した。

スクラム・ジャパンの基盤が評価され国際的な治験の依頼が増加

 2013年に、RET融合遺伝子のある非小細胞肺がんの遺伝子スクリーニングを全国で進めるために発足したLC-SCRUM-Japanには、非小細胞肺がんの遺伝子スクリーニングプロジェクトに263病院、小細胞肺がんのプロジェクトには204施設が参加している。今年6月までの約5年間で、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの患者約6500人が遺伝子スクリーニング検査を受けた。非小細胞肺がん患者の3分の2に、何らかのドライバー遺伝子が見つかっている。

LC-SCRUM-Japan研究代表者の後藤氏は、これまでの成果として次の3点を挙げた。 1つは、非小細胞肺がんの1%と希少なRET融合遺伝子のある肺がんに対する医師主導治験を成功させたことだ。2年間で約1500人の遺伝子スクリーニングを行い、34人にRET遺伝子が見つかり、19人が治験に参加。奏効率は53%だった。

「本当に2年で完結するか何の保証もなく治験を始めたのですが、予定通り遺伝子スクリーニングと治験が終わったのは大きな成果です。きちんと基盤があって希少フラクション(遺伝子の異常)であっても予定通り臨床試験ができることが評価され、海外から、治療開発をしてほしいという依頼がたくさん舞い込んで来ました」と後藤氏は話す。

 現在、RET肺がんに対する2番目の治療薬の開発として、アレクチニブの有効性を明らかにするALL-RET試験が進行中だ。さらに、RET肺がんについては、世界未承認の分子標的薬LOXO292の治験が6月からスタートしている。肺転移や多発性脳転移にも効果があるとされる治験薬で、今年の米国がん治療学会(ASCO)では、米国のメモリアルスローンケタリングがんセンターが実施した第Ⅰ相試験では奏効率69%と高い有効性を示し、副作用も比較的少ないことが報告された。

 2つ目の成果として挙げたのは、ROS1阻害薬クリゾチニブの適応拡大のきっかけとなった臨床試験だ。また、3つ目は、BRAF遺伝子変異を有する肺がんに対するダブラフェニブ/トラメチニブの国際治験という。BRAF V600E遺伝子変異の有無を確認するコンパニオン診断薬として、次世代シーケンサーを用いて特定の遺伝子異常の有無を確認する遺伝子パネル「オンコマインDX」が日本で初めて薬事承認されており、保険収載の準備が進んでいる。米国では、BRAF、ROS1,EGFRの3つの遺伝子異常を一度に確認できるコンパニオン診断薬として実用化されたが、日本ではもっと多くの遺伝子異常の有無を確認できるパネルを目指しているそうだ。

遺伝子変異に合わせた薬を患者さんに届けることが使命

 後藤氏は、LC-SCRUM-Japanのデータを用いて、ドライバー遺伝子があって分子標的薬にたどりついた患者群335名の全生存期間中央値(mOS)が25.4か月となり、ドライバー遺伝子はあるけれども分子標的薬にたどりつけなかった患者714名の18.7か月、ドライバー遺伝子のない患者群1,159名のmOS19.2か月に比べて統計学的に有意となったことを示し(p<0.001)、次のように強調した。

「スクラム・ジャパンは遺伝子スクリーニングプロジェクトですが、遺伝子解析をやることに意味があるのではなく、分子標的治療薬を患者さんのところへ届けて初めて生存期間が延びていきます。われわれ臨床医は、NGSを用いた遺伝子解析に基づき、できるだけ多くの患者さんに個別化医療として治療薬を患者さんに届けることを常に意識する必要があります」

LC-SCRUM-Japanでは、免疫チェックポイント阻害薬の効果判定を行うバイオマーカー探索研究を行い、昨年12月からは、リキッドバイオプシーを用いた血液のNGS遺伝子解析をスタートした。リキッドバイオプシーの研究では、73遺伝子を一度に調べる遺伝子診断キットGuardant360を用いている。

「できるだけ早期に血液の遺伝子診断キットを臨床応用し、今後はリキッドのパネルに基づいて遺伝子解析を行い、それに基づくプレシジョン・メディシン、個別化医療の確立を目指しているところです」

 そう話す後藤氏が課題として挙げたのが、NGSを用いた遺伝子解析のアノテーション(解釈)をどうするかという問題だ。スクラム・ジャパンでは、研究事務局が、薬に結びつきそうな17の遺伝子に限って報告し、治療法や治験の情報などを手作業で各担当医へ送っている。今年5月からは、テンクー社と一緒に、人工知能(AI)を用いた肺がん次世代シーケンス解析データのレポート作成システムの開発研究を始めた。最終的には、NGSの遺伝子解析をもとにAIが治療情報まで含めたレポートを作成するような形を目指す。

さらに、LC-SCRUM-Japanは、台湾、中国からも検体を受け入れ、東アジアの肺がん遺伝子スクリーニング基盤として機能していく予定だ。「今後もさらに発展して、患者さんのところに多くの治療のプレゼントを届けたい」と後藤氏は強調した。

【連載】がん治療の革命!?プレシジョン・メディシン⑫日本のゲノム医療をけん引するスクラム・ジャパンの成果 ‐後編‐

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