2018年3月29日、世界初PARP阻害剤『リムパーザ』承認記者発表会が、東京丸の内トラストタワーにて開催された。
会で発表された概要を以下にレポートする。

アストラゼネカ株式会社(代表取締役社長:ステファン・ヴォックスストラム、以下、アストラゼネカ)は、2018年1月19日、「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法」を効能・効果とした「リムパーザ®錠」(300mg1日2回投与)(一般名:オラパリプ、以下、「リムパーザ」)の国内における製造販売承認を取得したことを発表した。

リムパーザは、本邦初のポリ(ADP-リポース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤である。

卵巣がんの概要

卵巣は、子宮の両側に位置する親指大の楕円形の臓器である。卵巣の機能には、女性ホルモンの分泌や、排卵などの機能がある。その卵巣の表面や卵巣の中にある様々な細胞から発生する悪性の腫瘍を卵巣がんと呼ぶ。

疫学

近年、日本において卵巣がん罹患数は増加傾向にあり、毎年9,000人以上¹の女性が罹患し、2014年時点での総患者数は26,000人以上²であった。
また、5年生存率も58%と、婦人科がんの中で最も低く、2012年の死亡者数は4,758人³と約2人に1人の卵巣がん患者が亡くなっている(乳がんは8人に1人)。

卵巣がんの発症は、40歳代から増加を始め、50歳代前半~60歳代前半でピークを迎える⁴。

再発卵巣がんの治療

卵巣がんは初回治療の効果が高いものの、再発率が高く、半数以上の症例が再発する⁵。

再発後は根治が困難であることから、治療の目的は生存期間の延長およびQOLの改善および症状の緩和となる。

再発卵巣がんの場合、化学療法が主になるが、初回治療後から再発までの期間と再発がんに対する化学療法の効果に相関があるといわれており、治療法が異なる。

再発治療における課題

再発卵巣がんは、延命や症状の緩和を目的とした治療が行われるため、QOLを維持する治療であることが重要となる。これまでの治療法は毒性等の懸念により、約2割の患者は投薬中止に至っていた。

また、これらの治療法では、注射による疼痛や点滴のために必要な時間的拘束があった。

投薬中止状況
TC療法:15%⁶
化学療法+分子標的薬併用:22.3%⁷

リムパーザの期待される効能

リムパーザは相互組換え修復関連遺伝子に変異をもつがん細胞を特異的に細胞死へと導く特性をもつ、世界で初めてのPARP阻害剤である。

プラチナ製剤感受性再発卵巣がんの維持療法」の適応症として、承認された。

卵巣がんにおけるDNA損傷修復

卵巣がんのがん細胞では、二本鎖切断修復酵素をつくる酵素をつくる遺伝子(相同組換え修復関連遺伝子)の半数以上⁸に変異が生じており、相同組換え修復が十分に行えない状況になっていることが報告されている。

リムパーザは、DNA修復の阻害によりがん細胞を死滅させ、プラチナ製剤で得られた効果を維持することが期待される。

卵巣がんにおけるプラチナ製剤のはたらき

プラチナ製剤はDNA2本鎖の間に入り込み、修復を阻害することで、二本鎖切断の細胞を増加させる。高悪性度漿液性卵巣がんでは、2つのDNAの修復機構のうち1つが破たんしていることが多く、このような細胞では2本鎖切断の修復を十分に行うことができないため、がん細胞は死に至ると考えられている。

リムパーザの作用機序

リムパーザは、一本鎖切断の修復を担う塩基除去修復で重要な役割を果たす、PARPを阻害する。

PARPが阻害されると一本鎖切断は修復されず、DNA複製の過程で二本鎖切断に至る。高悪性度漿液性卵巣がんでは二本鎖切断の修復を十分に行うことができないことが多く、がん細胞は死に至ると考えられている。

リムパーザの有効性と安全性

SOLO-2試験(BECA遺伝子変異陽性のプラチナ感受性再発卵巣がん)

BRCA遺伝子陽性で、プラチナ製剤を含む化学療法による少なくとも2回以上の治療歴があり、プラチナ製剤感受性かつ直近のプラチナ製剤を含む化学療法で奏効が維持されている再発高悪性度漿液性卵巣がんまたは高悪性度類内膜卵巣がん患者295例(本剤群196例、プラセボ群99例)を対象として、リムパーザ錠300mg1日2回投与の有効性及び安全性について検討したSOLO-2試験の成績では、無増悪生存期間の中央値はリムパーザ群で19.1カ月、プラセボ群で5.5カ月と、統計学的に優位な延長を示した。

ハザード比0.30、95%信頼区間0.22~0.41、p<0.0001)⁹

リムパーザの主な副作用(データカットオフ2016年9月19日)

SOLO-2試験においては、安全性評価対象例195例中180例(92.3%)に副作用が認められた。¹⁰

試験デザイン:無作為化二重盲検多施設共同第Ⅲ相試験

対    象:BRCA遺伝子変異陽性で、白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法による少なくとも2回以上の治療歴があり、白金系抗悪性腫瘍剤感受性かつ直近の白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法で奏効
(画像診断による完全奏効又は部分奏効)が維持されている再発高悪性度漿液性卵巣癌
原発性腹膜癌及び卵管癌を含む)又は高悪性度類内膜卵巣癌患者295例
(本剤群:196例、プラセボ群99例)

方    法:リムパーザ300mg1日2回投与し、有効性と安全性を評価した

リムパーザの今後の展開

リムパーザは国内において、卵巣がんだけでなく、現在乳がん、前立腺がんにおいても開発が進められている。

今後もさらなるパイプラインの拡大に努め、より多くの患者の治療に貢献していく姿勢である。

リムパーザ薬価収載前の無償提供

アストラゼネカは、治療選択肢が極めて限られている再発卵巣がん患者の緊急の要望に一日も早く応えるために、厚生労働省の定める「保険外併用療養費制度」のもとで、本剤の無償提供を実施する。

本剤の提供は、適正使用の観点により、本剤開発治験実施施設等の限定された施設において、承認された適応、用法・用量に従ってのみ使用すること、無償提供期間中にアストラゼネカが実施する市販直後調査に準じた活動を含む適正使用推進等の各種安全対策に協力することを理解・合意し、無償提供を希望する施設でのみ実施する。

また、本剤提供は製造販売承認取得日以降、各施設での準備が整った時点から開始し薬価収載前日に終了する。

リムパーザ薬価収載前無償提供に関するお問い合わせ先
<アストラゼネカ社>
・患者およびそのご家族:0120-119-703
アストラゼネカ患者様相談窓口/月~金9:00-17:30(祝・およびアストラゼネカ休業日を除く)

・医療従事者:0120-189-115
メディカルインフォメーションセンター/月~金9:00-17:30(祝・およびアストラゼネカ休業日を除く)

連動記事:オンコロニュースより
乳がん・卵巣がんの新薬オラパリブ(リムパーザ)について知っておきたい5つのこと

参考文献
1:国立がん研究センター、がん情報サービス.がん登録・統計『グラフデータベース』
2: 厚生労働省、患者意識調査(2014年)
3:国立がん研究センター、がん情報サービス.がん登録・統計『最新がん統計』(2017年2月アクセス時)
4:国立がん研究センター、がん情報サービス.卵巣がん『基礎知識』(2017年2月アクセス時)
5:日本婦人科腫瘍学会、卵巣がん治療ガイドライン2015年版、金原出版『第4章再発卵巣癌』
6:Oujade-Lauraine E, Wagner U, Aavall-Lundqvist E, Gebski V, Heywood M, Vasey PA, et al. Pegylated liposomal doxorubicin and carboploatin compared with paclitaxel and carbopratin for patients with platinum-sensitive ovarian cancer in late replace. J Clin Oncol 2010; 28:3323-3329
7: Carol Aghajanian, Barbara Goff, Lawence R. Nycum, et al. Finalo overall survival and safety analysis of OCEANS, a phase 3 trial of chemotherapy with or without bevacizumab in patients with platinum-sensitive recurrent ovovarian cancer. Gynecol Oncol.2015 Oct; 139(1):10-168
8. The Cancer Genome Atlas Research Network:Nature 474: 609-615, 2011
9. 承認時評価資料(白金系抗悪性腫瘍剤感受性卵巣癌患者を対象とした海外第Ⅱ相試験)
10. 承認時評価資料(白金系抗悪性腫瘍剤感受性卵巣癌患者を対象とした海外第Ⅱ相試験)

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