インテュイティブサージカル合同会社は6月9日、同社の手術支援ロボット「ダビンチ」の最新モデル「ダビンチ 5 サージカルシステム(ダビンチ5)」の日本国内での販売を7月から開始すると発表した。同日、インテュイティブサージカル社が開催したメディアセミナーでは、同社社長の滝沢一浩氏、米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター腫瘍外科の生駒成彦先生らが登壇し、ダビンチ5の特性、ロボット支援手術の意義や期待が語られた。
データとAIで医療の質と効率を最大化するダビンチ5

(インテュイティブサージカル合同会社 滝沢一浩 社長)
2025年はインテュイティブサージカル社の米国設立から30年、ダビンチの米国食品医薬品局(FDA)承認から25年の節目の年に当たる。
同社のフラッグシップモデルとして、およそ10年ぶりに日本国内に登場したダビンチ5について、滝沢一浩社長は「従来のダビンチには備わっていない新たなテクノロジーを搭載し、そして最先端のデジタル技術を搭載し、新たな価値を提供できるものと確信しております」と述べた。ダビンチ5のデータ処理能力は前世代(Xi)の1万倍以上を誇り、さらに、将来の技術進化に対応できる基盤が既に整っているという。
また、ダビンチ5は「術者の自立性の向上を支援する機械である」と強調。同シリーズで初めて搭載された「フォースフィードバック(力覚フィードバック)」機能は、手術用インストゥルメント(鉗子)の先端が組織にかける力をリアルタイムに測定し、外科医のコントローラーに伝えることで、「過剰な力をかける前に気づける『セーフティストップ』のような要素が強い」という。
さらに術者の自立性向上に役立つ「ヘッドインメニュー」機能により、執刀医は術野から目を離すことなく、コンソールから自らダビンチの各種設定(気腹圧調整や電気メスの出力など)を変更できるようになった。加えて、コンソール設計も人間工学に基づいた大幅な変更がなされており、外科医の姿勢や体形に関わらず、長時間の外科手術でも快適さを維持できるようになり、身体的負担の軽減にも寄与している。
ダビンチ5は、同社のアプリケーションである「My Intuitive+」との連携を図ることができ、新たに搭載された「ケースインサイト(Case Insights)」では、外科医一人ひとりのインストゥルメント使用状況や組織への圧力、その他多くの客観的データと手術動画のタイムラインを提供し、術後の振り返りやラーニングカーブの向上をサポートするという。また、「シムナウ2(SimNow 2)」では、術前に高レベルのトレーニングを積むことが可能になったという。
患者・医師・病院の“コスト”を減らすロボット手術

(米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター腫瘍外科 生駒成彦先生)
講演した生駒先生は、約20年前に米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授によって提唱された「バリューベース・ヘルスケア」の概念を説明。バリューベース・ヘルスケアのコンセプトの下では、治療成績を改善できなかったコストは「無駄(waste)」であり、「合併症を減らすことが医療費の削減に直結する」という。
膵がんの手術では、合併症の頻度と重症度がコストに大きく影響する事例を挙げ、ロボット手術により合併症を減らし、入院日数を短縮することで、手術そのものの(とロボットの導入)コストが高くても「トータルのコストはむしろロボット手術群の方が低い」という研究結果を示した。
また、患者さんの視点からは、ロボット手術による手術時間の短縮、回復の早さが入院期間の短縮だけでなく、通院・滞在費の削減や早期の職場復帰による収入減少の抑制につながり、「患者さんの立場からみた医療コストも抑えられる」と説明した。
さらに、生駒先生自身がダビンチ5で執刀した経験として、特に複雑な膵頭十二指腸切除においては、これまでの最短記録である5時間で終えることができたという。これは既存モデルのXiを用いた手術と比べ、約1時間半の時間短縮に相当する。この結果は、ダビンチ5に搭載されたさまざまな新テクノロジーの積み重ねによるものと考察。医師の身体的負担の軽減にもつながることから「“外科医寿命”が長くなっていくのではないか」と述べた。
最後に生駒先生は、「ダビンチ5は今までの手術支援ロボットの枠を超え、包括的に進化し続けるインテリジェントシステムと言え、外科医がより輝ける未来へと繋がる、医療システムの支援をしていってくれるのではないか」と今後のさらなる発展に期待を寄せた。

(実機を前に説明する生駒先生)
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