過去の試験データをプラセボ投与と代替する新薬開発の仕組みを発表、大腸がん臨床試験の世界的DB「ARCAD」を利用国立がん研究センター


  • [公開日]2023.10.12
  • [最終更新日]2023.10.12

国立がん研究センター東病院の吉野孝之副院長の研究グループは10月5日、進行再発大腸がん臨床試験の世界的統合データベースプロジェクトARCAD(Aide et Recherche en Cancérologie Digestive)の利用により、過去の臨床試験データをプラセボ投与の代替として新薬の承認を目指す「No Placebo Initiative」の概要を発表した。

欧米では2000年代半ばから、仏国の公益認定であるARCAD財団と米国のメイヨー・クリニックの共同運営による進行再発大腸がん臨床試験の統合データベースプロジェクトARCADが開始されており、更に2021年からはアジア圏で行われた臨床試験データが加わり、より充実度の高い世界的なデータベースとなっている。

同データベースには、合計9試験1,673例のプラセボ投与症例データが格納される予定であり、これらのデータから仮想的に作られたプラセボ対照群を臨床試験に使い、新薬の承認に活用することを目指している。

具体的な解析方法は3つの段階から成る。

まず第1段階として、ARCADのデータベースから、新薬の単群試験と同様の集団になるような組み入れ基準に基づいてプラセボの投与症例データを選択。続いて第2段階では、予後の良い上位何パーセントかの被験者をデータから抽出(何パーセントとするかは、遺伝子変異の頻度やデータが取得された年代、統計学的な考察など、いくつかの要因に基づいて決定)。最後に第3段階目として、年齢、性別、治療歴など治療効果の比較に影響し得る因子を考慮した統計解析により、プラセボ対照群と試験薬投与群の有効性を比較し、新薬の治療効果を推定する。

従来の標準治療のない被験者を対象としたランダム化比較試験では、新薬の比較対照群としてプラセボが用いられてきたが、プラセボの使用には、患者さんへの倫理的配慮や、患者さんおよび医師の実務上の問題などのデメリットが知られていた。

今回提案されたNo Placebo Initiativeにより、臨床試験に参加する患者さんはプラセボ投与群に割り付けられることがなくなり、新薬のみ投与できるというメリットにつながるという。また、製薬企業にとっても、承認手続きの迅速化や開発コストの削減などが期待されている。

国立がん研究センター東病院は、今回の成果を元に主要な国際学会および規制当局との議論・連携を深めていく方針だとしている。

なお本研究手法は論文化され、科学雑誌「Nature Medicine」に2023年7月28日付で掲載されている。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

×

この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン