希少がんのオンライン治験を開始 地域や国境を越えた治験参加が可能な時代を-国立がん研究センターら-


  • [公開日]2023.06.27
  • [最終更新日]2023.06.27

国立がん研究センターは、希少がんを対象とした二つの医師主導治験の完全オンライン体制を構築し、更にタイ保健省との協働による国境を越えた活動の拡大に着手する。6月26日に記者会見を開催し、今回の取り組みについての詳細を発表した。

MASTER KEYプロジェクトにオンライン治験を導入

会見の冒頭、中村健一氏(中央病院 国際開発部門 部門長)は、現在がん遺伝子パネル検査の結果から提示された治験薬を実際に投与している患者の数が非常に少ないことを指摘(8.1%:第4回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議資料1より)。その背景として、特に希少がんの治験は都市部の病院に限定されるため地方の患者の参加のハードルは高いことを挙げ、治験へのアクセス改善の必要性に言及した。

また、コロナ禍をきっかけに、条件付きのオンライン診療が可能となったことから、治験に関しても分散型治験(Decentralized Clinical Trial:DCT)のひとつである「オンライン治験」の可能性が期待されているという。

そこで今回、がん研究センターは希少がんに対する産学共同の治療開発プラットフォーム「MASTER KEYプロジェクト」で実施される治験に、オンライン治験を導入する体制を確立。最初の患者登録開始は8月を予定しているそうだ。

オンライン治験の実施には、地方在住の患者と近隣の医療機関(パートナー病院)とがん研究センターの三者の協働がカギとなる。具体的な手順としては、以下の流れである。

  • 患者がパートナー病院へ受診
  • 治験条件を満たした場合、パートナー病院の主治医同席のもと、がん研究センターの医師から患者に治験に関する説明
  • 治験薬が中央病院から患者の自宅へ直接郵送され、がん研究センターの医師の指示のもとで内服
  • 治験期間中の検査は、決められたスケジュールでパートナー病院にて実施し、検査結果をがん研究センターに共有

こうした仕組みによって、患者は一度もがん研究センターへ来院することなく、地元にいながら治験へ参加することが可能になるという。

画像は会見資料より

四国がんセンターと島根大学医学部附属病院からスタート

パートナー病院は、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院のいずれかである必要があり、現在は四国がんセンターと島根大学医学部附属病院の2施設のみだが、今後患者から申し出があった時点で施設間契約を締結し、希少がんオンライン治験ネットワークを全国に整備していくそうだ。

今回の取り組みに関しては、地方に居ながらにして最新の治療薬に触れる可能性があり、これまで治験参加を諦めてきた患者にチャンスが広がるなど、参加施設からも期待の声が寄せられているという。また、オンライン治験の導入のメリットは、患者の治験アクセスの改善にとどまらず、患者登録スピードの加速による早期の治験完了とそれに伴うコスト削減にもつながる、と中村氏は期待を述べた。

中村氏は今後の展望として、希少がんの医師主導治験へのオンライン導入を積極的に進めるとともに、今回の取り組みで得たノウハウを他の機関にも共有し、オンライン治験の導入を加速していくと語った。

なお、今回オンライン治験として登録の準備をしている医師主導治験のうちの一つは「局所進行・再発類上皮肉腫に対するタゼメトスタットの第II相医師主導治験(NCCH2107/MK012)」である。

国境を越えたオンライン治験のスキーム確立を目指す

続いて中村氏は、オンライン治験の海外への展開について説明。アジア圏の人口の増加に伴い、がん患者のニーズも確実に増えていく背景がありながら、コストや連携体制など、アジア共同試験が高い現状があると中村氏。特に、これまで現地国の医師免許を持たない日本の医師は現地での診療ができないことが大きなハードルとなっていた。

そこで今回、6月14日付けでタイ保健省とがん研究センターとの間で覚書を締結。タイでオンライン治験を実施する医師に対しtemporary medical license(臨時医師免許)が発行され、タイ在住の患者の診療に携われることになった。

これにより、日本がハブとなってアジアから安価・迅速・簡便に患者の組み入れが可能になり、日本とタイの患者や企業にとっての大きなメリットになると中村氏。今後、タイとの間で確立したスキームを他国に展開し、アジア全体で効率的な治験実施体制を整備していきたい、と将来展望を語った。

米盛勧氏(中央病院 腫瘍内科 科長)によると、がん診療・研究の高度化に伴い、対応できる施設に限りが出てきている現状があるため、これからは治験や研究の集約だけでなくアウトリーチの時代にきており、オンライン治験はその一環であるとのこと。

ただし、最初からすべてのがん種で実施していくことが難しいため、オンラインにより効率化が望める疾患であり、使う薬剤は自宅で患者が扱いやすい内服薬で、既に承認されており安全性が担保されているもの、という条件を満たしているがん種において、まずは実証プロジェクトとしての成功事例を作っていきたい、と米盛氏はコメントした。

拡大にはシステムの成熟も重要に

質疑の中では、経口薬以外の薬剤への展開についても話題となった。現在、厚生労働省がガイダンスを作成中であり、その中で、ホームナーシング(看護師派遣)により注射剤を地元で使える体制も検討されているとのこと。ただし、副作用などのフォローが難しい部分があるため、実現のためには課題が多いようだ。

まずはオンライン治験体制の確立を目指して院内手順書を作成し、その後ブラッシュアップを重ね、国のガイダンスと併せて今年中に準備が整っていくとのこと。同時に、今後の活動拡大のためには、リモートで情報を共有していくシステムの成熟も重要である、と中村氏は述べた。

島田和明氏(中央病院 病院長)からは、今回の取り組みに関して、オンライン治験が素晴らしいシステムであることには間違いないが、一方で、安全性を担保しつつ進めていくためには、地方の医師が副作用マネジメント法を含めた治験の情報に精通していることが重要であり、パートナー施設の選定含めて慎重に検討していく必要性があるとコメント。オンライン治験はがん研究センターが進めていくものではなく、各地の医師と協働して実現させるための信頼関係が大切である、と島田氏は語った。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース 希少がんに対する国内オンライン治験を開始
国立がん研究センター プレスリリース タイ保健省医療サービス局との協力覚書締結

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