FDA(米国)初、キイトルーダがMSI-HまたはdMMRを有する固形がん対象に承認 ~5つの臨床試験データより~


  • [公開日]2017.05.29
  • [最終更新日]2017.11.13[タグの追加] 2017/11/13

5月23日、米国食品医薬品局(FDA)は「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機構の欠損(deficient mismatch repair: dMMR)の固形がん」を対象として、免疫チェックポイント阻害薬であるPD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)について、迅速承認を行ったと発表した。今回の承認は、原発部位ではなく、バイオマーカーで薬剤が承認されたのものとなり、世界初となる。

マイクロサテライト性不安定性とミスマッチ修復機構の欠損

一部のがんの遺伝特性として「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)」が存在する。がんは遺伝子の傷により生じることがわかっており、遺伝子は様々なストレスにより傷ついているが、常にこの傷は修復されるために、滅多にがん化することはない。

この遺伝子を修復する機構の一種にDNAミスマッチ修復機構(MMR)が存在しする。しかしながら、この機構が欠損することを「ミスマッチ修復機構欠損(Mismatch Repair Deficient;dMMR)」といい、がん化のリスクは上がる。

マイクロサテライト不安定性とは、遺伝子に傷が生じたとき(遺伝子複製のミス)の修復機構に欠損があるため、遺伝子に複数の傷が生じている状態のことを指す。遺伝的にこの修復機構が欠損しているがんの場合をリンチ症候群といい、家族性大腸がんの一種と位置づけられる一方、その他の固形がんでもごく低い割合で存在する。

高頻度マイクロサテライト不安定性大腸がんとなる患者の割合は、約14~16%といわれ、そのうち、ステージ4の大腸がん患者の5~6%と予測されている。高頻度マイクロサテライト不安定性の頻度は、若くして大腸がんを発症した方が高い割合であるとされている。また、ステージ4の高頻度マイクロサテライト不安定性である場合は、そうでない場合に比べ予後が悪いとされている。一方、大腸がん以外は子宮内体がん、胃がん、小腸がんに多く、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、甲状腺がんには少ないとされている。

なお、マイクロサテライト不安定性であるかは検査によって確認することができ、日本の場合、保険診療として実施することが可能な場合があり、診療点数は2,100点(21,000円)となり、その3割負担等、各個人に応じた割合が自費となる。

<参考>
The microsatellite instable subset of colorectal cancer is a particularly good candidate for checkpoint blockade immunotherapy. (Xiao Y, Freeman GJ. Cancer Discov. 2015 Jan;5(1):16-8.)

Association between molecular subtypes of colorectal cancer and patient survival. Gastroenterology.(Phipps AI, et al. 2015 Jan;148(1):77-87.)

免疫チェックポイント阻害薬と高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはDNA修復欠損(dMMR)がん

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫系に作用する新しいタイプの薬剤であり、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、尿路上皮がんなど様々ながん種で効果を示している薬剤であり、その他のがん種についても期待されている薬剤となる一方、大腸がんに対しては効果が乏しいことがわかってきた。

一方、遺伝子の傷が多い種類のがんに対して効果を発揮しやすいことがわかってきており、DNA修復機構欠損したり、マイクロサテライト不安定性のがんに対しての効果が期待されている。事実、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)を始め様々な免疫チェックポイント阻害薬が、高頻度マイクロサテライト性(MSI-H)またはミスマッチ修復欠損(dMMR)大腸がんに対して効果を発揮した。

例えば、第2相試験(Keynote-016、NCT01876511)の中間解析にて、キイトルーダのは、MSI-HまたはdMMR大腸がん患者において、治療効果が高い予備的なデータも示されており、MSI-HまたはdMMR大腸がん患者28人では、奏効率57%、病勢コントロール率89%となり、一方、MSI-HまたはsMMRではないがん患者25人においては奏効率0%、病勢コントロール率16%であった。

<参考>
PD-1 Blockade in Tumors with Mismatch-Repair Deficiency.(Le DT, et al. N Engl J Med. 2015 Jun 25;372(26):2509-20)

5つの臨床試験149人のデータをもとに承認、うち59人が大腸がん以外の14種のがん

今回のFDAは、KEYNOTE-016(NCT01876511、n = 58)、KEYNOTE-164(NCT02460198、n = 61)、KEYNOTE- 012(NCT01848834、n = 6)、KEYNOTE-028(NCT02054806、n = 5)、およびKEYNOTE-158(NCT02628067、n = 19)という5つの臨床試験に参加した高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復欠損(dMMR)固形がん患者149人のデータをもとに迅速承認した。この149人のうち90人は大腸がん、残りの59人が14種類のその他の固形がんであり子宮体がん及び胃がんの比率が高かった。

これら5つの試験では、病態進行、認容できない毒性、または最大24ヶ月まで、3週間毎に200mgまたは2週間ごとに10mg/kgで投与された。

キイトルーダの客観的奏効率(ORR)は39.6%(95%CI、31.7-47.9)、うち完全奏効(CR)は7.4%(11人)、部分奏効(PR)は32.2%(48人)であった。大腸がん患者の奏効率は36%、他の固形がんでは46%であった。奏効期間中央値はまだ達していない(範囲:1.6か月~22.7か月以上)。キイトルーダが奏効した患者のうち、78%が少なくとも6ヶ月間持続的に奏効している。

患者の年齢の中央値は55歳となり、65歳以上が36%だった。白人は77%を占め、男性は56%であった。ECOGパフォーマンスステータスPS)0は36%、PS1は64%であった。98%が転移性であり、2%が局所進行性となった。転移性大腸がんの83%、その他の固形がんの53%が少なくとも2種類の前治療を受けていた。

大腸がん以外のがん種にて奏効が認められたがん種は、子宮体がん(5人)、胆道がん(3人)、胃がんまたは食道胃接合部がん(5人)、膵臓がん(5人)、小腸がん(3人)、乳がん(2人)、前立腺がん(1人)、食道がん(1人)、後腹膜腺がん(1人)、または小細胞肺がん(1人)であった。

KEYNOTE-158試験のみ募集中?

5つの臨床試験のうち、KEYNOTE-158試験のみClinical Trials.govにて「recruiting」中となっており、被験者募集中である可能性がある。

10種の希少がん対象 免疫チェックポイント阻害薬PD-1抗体キイトルーダの第2相試験(Keynote158)

記事:可知 健太
この記事に利益相反はありません。

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