進行乳がん2次治療 パルボシクリブとフルベストラント併用 QOLも改善 ECC2015


  • [公開日]2015.10.06
  • [最終更新日]2017.10.17

 内分泌療法後に進行を認めたホルモン受容体(以下、HR)陽性、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(以下、HER2;ハーツー)陰性乳がん患者の2次治療として、フルベストラント(薬剤名:フェソロデックス注)とCDK4/6阻害薬パルボシクリブを投与する群とフェソロデックス注とプラセボを投与する群を比較した第3相臨床試験(PALOMA-3試験)の解析結果が、9月25日から29日までオーストリア・ウィーンで開催された欧州臨床腫瘍学会学術集会(ECC2015)で、ドイツBrustzentrum der Universitat MunchenのNadia Harbeck氏によって報告されました。この試験は日本も参加しています。

 通常、ヒトの体は必要な細胞数によって形成されています。ひとつの細胞を増やしていくためには、ひとつの細胞が分裂という現象を引き起こし、2つになり、2つの細胞はまた分裂をして4つの細胞になります。こうして増えていく現象を増殖と呼び、必要十分な細胞数までになると、分裂と増殖は止まります。分裂と増殖(アクセル役)そして停止(ブレーキ役)をコントロールしているひとつが細胞周期と呼ばれるものです。さらに細胞周期は4つのプロセスに分かれており、1つ目のプロセスを遂行するために、サイクリン(cyclin)とサイクリン依存性キナーゼ(CDK)というタンパクが一緒になって働き、2つ目のプロセスに導きます。1つ目のプロセスを支えるサイクリンはDタイプ、サイクリン依存性キナーゼは4と6の2タイプです。

 がん細胞は、アクセルとブレーキのどちらかもしくは両方が壊れた病気で、勝手に無制限に増殖を繰り返します。

 パルボシクリブは細胞周期の1つ目のプロセスの中で、サイクリン依存性キナーゼ4と6(CDK4/6)の働きを抑制することで、2つ目のプロセスに行かせないようにして、がん細胞の分裂と増殖を抑制し増えないように阻止します。

図18

 PALOMA-3(パロマ3)試験ですが、今年の米国臨床腫瘍学会学術集会(ASCO:アスコ)で発表され、パルボシクリブとフェソロデックス注の併用群が有意に無増悪生存期間が改善されたことが報告されています。

 この内容は、以前オンコロでも報告しました。

乳がん 細胞分裂を制御する薬剤パルボシクリブが有効 がん進行抑制期間2倍に ASCO2015

生活の質(QOL)、主に疼痛と不眠が改善

 今回、欧州臨床腫瘍学会学術集会で報告された内容は、パルボシクリブ群とプラセボ群の患者報告による全般的QOL生活の質)、日常生活に及ぼす機能、そして症状の変化を比較するものです。

 患者報告の評価は、1回目の投与から、2、3、4サイクル目の1日目に行い、その後は6サイクル目から1サイクルおきに、各サイクルの1日目に行われ、
評価にはEORTC QLQ-C30と乳がん用に開発されているQLQ-BR23という評価ツールを用いています。これらの質問票では、スコア(範囲:0-100)が高いほど、機能とQOLは良好で、症状は重度であることがわかるようになっています。治療中の全スコアと初回治療のスコアからの変化を比較し、疼痛の悪化までの期間は、最初の評価点から10点以上増加するまでの期間と定義し、治療群間で比較されました。

 質問票の回答率は、初回治療時および治療サイクルを通して両群ともに95%以上で高い回答数です。初回治療時のスコアの平均は両群で同様となり、全般的QOLはパルボシクリブ群65.9%、プラセボ群65.3%であり、EORTC QLQ-C30の症状尺度スコアでも両群に有意差はありませんでしたが、不眠はパルボシクリブ群26.3%、プラセボ群32.9%で統計学的に改善の有意差を認めました。

【EORTC QLQ-C30の機能尺度】
 パルボシクリブ群で初回治療時スコアから顕著な改善が示されたのは、心理機能(パルボシクリブ群2.7%、逆にプラセボ群では-1.9%)でした。その他の尺度では両群に有意差は見られていませんでした。

【EORTC QLQ-C30の症状尺度】
 パルボシクリブ群で初回治療時から顕著な改善が示されたのは、疼痛(パルボシクリブ群-3.3 vs プラセボ群2.0%)でした。悪心・嘔吐もパルボシクリブ群で悪化の程度が低い結果でした(パルボシクリブ群1.7%vs プラセボ群4.2%)。その他の症状尺度では両群に有意差は認めていません。

【QLQ-BR23の機能と症状の尺度】
 患者自身のボディイメージ、性機能、性生活を楽しめているか、将来の健康状態への不安については、両群に有意差はなく、パルボシクリブ群で初回治療時から顕著な悪化が示されたのは、脱毛による気持ちの動揺(2.9% vs プラセボ群-6.0%)でした。

 疼痛が悪化するまでの期間の中央値は、パルボシクリブ群8カ月、プラセボ群2.8カ月となり、約36%パルボシクリブ群で有意に延長されました。

 以上の結果から、Harbeck氏は「HR陽性HER2陰性の進行・再発乳癌に対し、フェソロデックス注とパルボシクリブの併用は有効性が高い治療であり、QOLの解析結果からも好ましいことが示された」と結論付けています。

ECC Abstract number 1815参照

記事:前原 克章(加筆修正:可知 健太)

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