HR陽性乳がん、術後の内分泌療法はいつまで続けるか?第31回日本乳癌学会学術集会より


  • [公開日]2023.07.10
  • [最終更新日]2023.07.10

6月29日から7月1日に、第31回日本乳癌学会学術集会(JBCS 2023)が、パシフィコ横浜にて開催された。アンコール企画「徹底討論~日本発の臨床試験データから コンセンサスへ~」のセッションの中で【AERAS試験:術後長期内分泌療法は本当に必要なのか?】というテーマで議論が行われたので紹介する。

AERAS試験は、術後内分泌療法を5年終了した閉経後のホルモン受容体陽性乳がんに対し、治療終了、もしくはアロマターゼ阻害剤を5年間追加投与するランダム化比較試験。治験責任医師である岩瀬拓士先生(愛知医療センター 名古屋第一病院 乳腺外科)によると、国内初の大規模臨床試験として2007年にスタートしたが、なかなか登録が進まず、登録期間の3年の延長などを経てようやく論文化に至ったとのこと。また、生存イベントの取り扱いの見直しに迫られ、コロナ禍の様々なハードルの中、データの再解析から論文化に漕ぎつけた背景を、佐治重衡先生(福島県立医科大学 医学部 腫瘍内科学講座)は説明した。

結果は、5年の無増悪生存期間PFS)は、5年継続症例の86%に対して10年継続で91%と有意差がついており、二次がん(特に発がんとエストロゲンの関連が指摘されている肺がん・大腸がん)の発症と局所再発を抑えたことが特徴的とのことであった。一方で、遠隔無病生存期間(DDFS)や全生存期間OS)に関しては、両群で差がでなかった。また、関節・骨関連の有害事象は、10年の継続により増加傾向が見られるものの、経口ビスフォスフォネート製剤の内服推奨によって骨折の増加は抑えられていた。

徳永えり子先生(九州がんセンター 乳腺科)は、ER(エストロゲン受容体)陽性であることは晩期再発のリスク因子であることを指摘。T1N0(I期)の5年間無再発症例であっても、グレードに応じて20年後の再発が10-17%見られることを説明した。また、現在はホルモン受容体陽性乳がんに対する術後のアベマシクリブ(製品名:ベージニオ)投与も行われるため、長期追跡の結果によっては、それぞれの薬剤の位置づけも考え直す必要がある、とコメントした。

現時点のガイドライン上では、内分泌療法5年終了後のアロマターゼ阻害剤追加投与の最適期間については定まっていない。徳永先生は、術後の長期内分泌療法には、有害事象や服薬コンプライアンスの低下など課題もあるため、個々の再発リスク・年齢・閉経状況・合併症などに応じた選択をしていくことが大切だと述べた。

今回の結果を受けて、現時点で術後長期内分泌療法の対象となる症例は、「T2(腫瘍の大きさが2-5cm)、リンパ節転移陰性、PR(プロゲステロン受容体)陰性」とのこと。ただし、リンパ節転移に関しては海外のデータとは逆の傾向がでており(海外では、リンパ節転移「陽性」の症例に、内分泌療法の追加効果が認められる傾向にある)、今回対象となった内分泌療法により5年間無再発の閉経後乳がんの患者さんの背景因子が、海外と日本で異なる可能性もコメントに挙がった。

ディスカッションの中では、AERAS試験の限界として、局所制御に重要な残存乳房への放射線療法の実施状況が実臨床と少し乖離していること、費用対効果のデータが出ていないことなどが挙げられた。
また、閉経後の症例において、アロマターゼ阻害剤からタモキシフェンへスイッチする選択肢も入れるべきだったことが議論となった。これはアロマターゼ阻害剤とタモキシフェンという2つの術後療法の有効性忍容性を比較検討したATAC試験の結果を受けて、タモキシフェン追加投与による二次がんの発症抑制を期待した発言である。現在の日本では、タモキシフェン継続投与、あるいはタモキシフェンからアロマターゼ阻害剤への切り替え投与に関してしかエビデンスがないが、海外ではアロマターゼ阻害剤後にタモキシフェンを使う選択肢もあるようだ。更に、AERAS試験よりも後に出てきた新規薬剤やエビデンスなどにより、考えるべき因子や治療選択の状況は益々変化してきているとのことであった。

AERAS試験は、日本人患者さんがアロマターゼ阻害剤を5年以上続ける際のベネフィット(益)とリスク(害)を長期にわたって検討した唯一の大規模試験である点で有用な情報だと佐治先生。そして徳永先生は、術後内分泌療法にどの薬剤を使うか、投与期間は何を基準にどのタイミングで決めるか、という点に関しては、ベネフィットとリスクのバランス、そして治療の目的はなにかということを考えながら患者さんと一緒に決めていくことが大切であると語った。

■参考
第31回日本乳癌学会学術集会

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