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若年発症肺腺がんの一部に遺伝的要因が関与、日本人の肺腺がんを対象とした初の大規模解析で判明 国立がん研究センターら

[公開日] 2025.07.11[最終更新日] 2025.07.10

国立がん研究センターは7月9日、日本人の肺腺がんを対象とした大規模解析を実施し、若年(40歳以下)で発症する肺腺がんの一部にBRCA2やTP53遺伝子の遺伝的要因が関与することを解明したと発表した。 この研究成果は、同センター研究所ゲノム生物学研究分野の白石航也ユニット長、河野隆志分野長、張萌琳外来研究員らによるもので、国際学術誌「Journal of Thoracic Oncology」に2025年6月15日付でオンライン掲載された。 肺がんのなかで最も頻度が高い肺腺がんは、非喫煙者が約半数を占めていることから、喫煙以外の危険因子の存在が疑われているものの、遺伝的要因との関連性については、これまでエビデンスがほとんどなかった。また、若年(40歳以下)の肺腺がん発症症例は、肺がん患者全体の1%未満と稀であるが、進行期として発見される場合が多く、予後不良であることが知られている。 そこで研究グループは、全国8施設からなる研究コンソーシアムを構築し、日本人の肺腺がんを引き起こす遺伝要因についての研究を実施してきた。そして今回は、若年発症に着目した生殖細胞系列病的バリアントの解析を行うことで、肺腺がんにおける遺伝要因の関与を調べた。 その結果、若年発症例(40歳以下の348名)と非若年発症例(41歳以上の1,425名)の血液DNAの比較から、若年発症例ではTP53遺伝子とBRCA2遺伝子の生殖細胞系列病的バリアント陽性症例が多く(TP53遺伝子は非若年発症例で0.14%に対して若年発症例で2.9%、BRCA2遺伝子は非若年発症例で0.21%に対して若年発症例で1.7%)、若年発症肺腺がんの要因であることが示唆された。 (画像はリリースより) また、生殖細胞系列病的バリアントを有する症例(14例)に発生した肺腺がんの体細胞変異 (後天的に生じる遺伝子変異)の特徴を調べた結果、BRCA2遺伝子の病的バリアントを有する肺腺がんでは、乳がん、卵巣がんなどでみられるような相同組み換え修復機構の破綻が3例中2例で観察された。これは、BRCA2遺伝子の病的バリアントを有する肺腺がんにおいて、DNA修復経路を標的とするPARP阻害剤が有効である可能性を示唆している。 更に、肺腺がんの若年発症例(57例)と非若年発症例(1,280例)の腫瘍を用いた全エクソンシークエンス解析を行った結果、がん細胞に生じているドライバー遺伝子変異の分布に大きな違いが認められた。具体的には、若年発症例では非若年発症例と比べて、分子標的治療の効果の高いALK融合遺伝子やRET融合遺伝子の陽性割合が高い傾向を示した。 最後に、肺腺がんの若年発症例における生殖細胞系列病的バリアントを調べるため、肺がん症例(10,302名)と非がん症例(7,898名)を対象に遺伝性腫瘍やDNA修復メカニズムに関連する450個の遺伝子を解析した結果、DNA修復に関わる遺伝子ALKBH2の機能欠失型バリアントが、肺腺がんの若年発症リスク因子として同定された。 今回の研究により、若年発症の肺腺がん症例では、環境要因だけでなく遺伝的要因が関わっており、生殖細胞系列病的バリアントにも注視して診療することが重要であることが示唆された。また、遺伝的要因のある肺腺がん症例では、腫瘍にも特徴的な変化が見られ、分子標的治療の対象となり得ることも示された。以上の結果から、今後の課題として、遺伝性腫瘍の患者さんが抱える課題等を共有し、遺伝医学の知見を踏まえた新しいがん医療を築いていくことの必要性が明らかとなった。 参照元: 国立がん研究センター プレスリリース
ニュース 肺がん BRCA2TP53肺腺がん遺伝性腫瘍

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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