ここをこうすればって、いててて。


オンコロ君、どうされました?


やあ、先生!それがひどい話なんだ、聞いてくれよ。この前とあるがんの新薬の臨床試験に参加しようとしたら人間でないと参加できないって断られたんだよ。


まあ、それが臨床試験ですので。


ひどい。先生までそんなこと言うなんて…。だから、人間みたいな顔にできないか?って整形を試みてたところだよ。いててて。


くすっ。お兄ちゃんは、顔が少し大きいもんね。

 

 


ガーーーン。先生、臨床試験に参加するためには小顔でないとだめなの?


安心してください。全くと言っていいほど顔の大きさは関係していません。臨床試験に参加できるかどうかは顔の大きさ以前に、ヒトかそれ以外の動物かで決まります。


ジーン…。

 

 


キャーーー


話を先に進めます。新薬開発のための臨床試験、いわゆる治験は前臨床試験と臨床試験の2つに大きく分かれます。どちらも新薬の候補物質の安全性、有効性などを検証することを目的としていますが、前者が動物を対象とした試験であるのに対して後者はヒトを対象としております。


その心は?


安全性も有効性も保証されていない薬を、最初からヒトに投与すると危険ですから。

 

 


その問題はまた後日、話しを先に進めます。前臨床試験はその名前の通り、臨床試験よりも前に実施されます。前臨床試験では新薬の候補物質の安全性や有効性をラットなどの動物で確認します。そして、ヒトに投与しても安全と判断された場合に限り臨床試験へと進みます。

clinicaltrial


臨床試験は第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相と3つの段階に分かれていますが、それぞれ試験の目的と対象とする条件が異なります。言うまでもなく、条件として顔については何も規定されていません。


強いて言うなら、顔よりも健康的な女性であるかどうかを重視してるのさ。


なんの話をしているのか分かりかねますが、たしかに健常人であるかどうかは臨床試験に参加するための条件の1つです。例えば、第Ⅰ相試験では新薬の候補物質の安全性や、代謝・排泄などの薬物動態を検証することを目的としているため、あえて健常者で実施することがあります。


健康であるにも関わらず薬を飲む人って?

 

 


病気を抱えている人よりも健常な人の方が肝機能、腎機能が正常であり、他の薬剤を服用していないため薬物動態にばらつきが出にくいためです。しかし、流石にがんの新薬となりますと話は別です。その毒性の強さから服薬した健常者が不利益を被る可能性があるため、第Ⅰ相試験の段階から特定の疾患を抱えた患者を対象として臨床試験が実施されます。


僕が臨床試験に断られた理由は顔ではなく健康体そのものだったからか!


お兄ちゃん、まだ気にしてたの?


少し理由が違う気がしますが、話を先に進めます。第Ⅰ相試験を終えると、次に第Ⅱ相試験へと進みます。第Ⅰ相試験が新薬の候補物質の安全性や薬物動態などを検証することが目的であるのに対して、第Ⅱ相試験は有効性を検証することを目的としています。第Ⅰ相試験で安全性が確認された投与方法、投与量に準じて、特定の疾患を抱えた患者へ新薬が投与されます。投与対象は特定の疾患の患者に限られてますが、試験に参加する人数は第Ⅰ相試験よりも多いです。


第Ⅰ相試験よりも第Ⅱ相試験を受ける患者さんの方が、少し有利な気がしたのは気のせいかしら?


なんとも言えません。たしかに、第Ⅱ相試験の方が思わぬ副作用を発症する可能性は低いです。しかし、どちらの臨床試験も科学的根拠が確立されていない不安定な状態で治療を試みているという意味では同じです。


私たちだけでなく、臨床試験に参加するヒトもそれなりのリスクを負ってはいるのね。でも、既存の治療薬で為すすべがなかったがん患者さんにとって、臨床試験に参加する一見の価値はありそうね。


ジーンちゃんの仰る通りです。ひとつの薬ができるまで9年〜17年くらい要すると言われていますが、がん患者さんの生存期間はそこまで長くはありません。新薬の候補物質による治療効果に期待してみるのも1つの手です。


じ、10年以上も?たしかに、がん患者さんがそんな長い時間待ってる余裕はないわね。ところで先生、候補物質が新薬として認められる可能性ってどれくらいあるのかしら?


それもなんとも言えません。一般的に、新薬の開発が成功する確率は3万分の1とも言われていますが…。


ひ、低っ!オスの三毛猫が生まれる確率と同じやん。

 


例え、わかりにくっ!


しかし、四葉のクローバーが生まれる確率よりは高いのです。


だから、例え、わかりにくっ!


ジーンと僕が兄妹として生まれる確率に比べれば…。高いもんだ!


もう、お兄ちゃんったら。


ご、ごほぉん。話を先に進めてよろしいでしょうか?


はい。


もちろん、この確率は臨床試験よりも前の段階である前臨床試験などを含めての確率ですので、臨床試験の段階にある新薬でしたら開発の成功確率はもう少し高いです。なんにせよ、臨床試験に参加して新薬の候補物質による治療を受けるという患者さんは、絶対的に安全が保証されたものではないということを理解しなければいけません。


はい。


第Ⅱ相試験が終わると、臨床試験の最終段階である第Ⅲ相試験へと進みます。第Ⅲ相試験ではこれまで確認された新薬の候補物質の安全性と有効性の両面を、従来の標準治療と比較してどの程度優れているのか?を検証します。参加人数は比較する群も含まれますので、第Ⅱ相試験よりも多くなります。


ということは臨床試験に参加しても新薬の治療が受けられない可能性があるのかしら?


可能性はあります。例えば、無作為化比較試験の場合、患者さんが新薬による治療を受けられる確率はフィフティーフィフティーです。


高いようで低いような確率。でも、なんでわざわざそんなことするの?臨床試験の最終段階である第Ⅲ相試験までせっかく来たんだから、参加する患者さん全員に新薬の候補物質による治療を受けさせてはだめなの?


新薬の候補物質の有用性を客観的に評価するためです。臨床試験に参加した患者背景に偏り(バイアス)が生じると、治療方法以外の要因で異なる結果が出る可能性があります。例えば、新薬による治療を受ける群に若くて元気な患者さんのみが振り分けられ、標準治療を受ける群に高齢で元気のない患者さんのみが振り分けられたら、その結果はどうなりますか?


新薬による治療を受けた患者さんの方が良い治療成績が出るに決まってるわ。だって、新薬の方が治療方法そのものが優れている可能性がある上に、治療を受けた患者さんの条件も有利でしょ。


ジーンちゃんの仰る通りです。最終段階の第Ⅲ相試験だからこそ、偏り(バイアス)を極力排除できるような試験デザインを組むことで、新薬の候補物質の有用性を適性に評価できるようにするのです。無作為化以外にも、臨床試験の精度を高める工夫はたくさんあります。


新薬の臨床試験は長い年月をかけているだけでなく、その中身も厳格に管理された体制で実施されてることがよく分かったわ。


薬は生命関連性の高い商品だけに、万が一は許されません。新薬として世に出る前に、その安全性と有効性を臨床試験に参加してくれた動物、ヒトの協力により明らかにする必要があるのです。


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