米Black Diamond Therapeutics社の肺がん治療薬開発の柱が実を結ぶEvaluate Vantage(2023.6.28)より


  • [公開日]2023.07.14
  • [最終更新日]2023.07.12

※本記事はEvaluate社の許可のもと、オンコロが翻訳したものです。内容および解釈については英語の原文を優先します。正確な内容については原文をお読みください。

新たなEGFRプロジェクトにおける初めてのデータによって同社の株価は236%急騰、では何が問題なのだろうか?

開発中の新薬の製造中止からわずか1年で企業を立て直すことは稀であるが、米Black Diamond Therapeutics社は昨日(6月27日)この快挙を成し遂げた。新たなリード化合物BDTX-1535に関する最初の臨床データが発表され、株価は236%上昇し、2021年10月以来の水準に達した。

このデータは開発初期のものであるという制約はあるが、Black Diamond社がBDTX-1535を肺がんの様々なEGFR遺伝子変異に作用する化合物として設計した、という前提を裏づけるものであると思われる。英アストラゼネカ社のブロックバスターであるタグリッソ(一般名:オシメルチニブ)に効果を示さなかった患者にも有効なチロシンキナーゼ阻害剤の開発競争が今、始まっている。

これはおそらく、昨日Black Diamond社が発表した第1相BDTX-1535試験のデータにおいて最も重要な点であり、これまでのところ同試験では比較的短期間に51名の患者を登録し治療を行っている。奏効したとされる6人の非小細胞肺がん(NSCLC)の患者はすべてタグリッソが無効であり、4人はアストラゼネカ社の薬剤(タグリッソ)を初回治療で使った症例、2人は更に化学療法/免疫チェックポイント阻害剤を受けた症例であった。

第4世代

Black Diamond社によると、BDTX-1535は第4世代のチロシンキナーゼ阻害剤で、脳への浸透性があり、変異型EGFRに対して共有結合活性を有する。ただし、第1相試験の被験者51名のうち27名が膠芽腫であったが、有効性に関するデータは提供されなかった。

その代わりに、同社は100-400mgのBDTX-1535を投与された21人のNSCLC患者に焦点を当て、それより少ない「治療量以下」の量を投与された3人を除外した。Black Diamond社はまた、有効性評価対象集団から9人のNSCLC患者を除外し、奏効率50%を主張しようとしたが、これは投資家が注意すべきごまかしであり、21人を分母とすれば奏効率は29%となる。

奏効した6人のうち5人は典型的なドライバーEGFR変異を有しており、かつてはアストラゼネカ社のイレッサ(一般名:ゲフィチニブ)の適用領域であったが、現在ではタグリッソが第一選択薬として使用されている。6人目はL747Pという珍しい内在性ドライバー変異を有しており、おそらくタグリッソの適応外投与を受け続けたのだろう。また、6例中4例に獲得耐性変異が認められた。

これはある程度、Black Diamond社の広範囲なEGFR遺伝子変異治療薬の効果を裏付けるものである。しかし、この試験ではT790m変異は除外されており、同社はBDTX-1535がここで活性を示すとは主張していない。T790mはイレッサ治療後に獲得されたEGFR変異で、タグリッソが最初に承認された領域であったが、タグリッソが初回治療での立ち位置を確立したことにより、その重要性は薄れてきているのかもしれない。


Source: Black Diamond Therapeutics.

Black Diamond社は、武田薬品工業株式会社のExkivity(一般名:モボセルチニブ)と米ジョンソン・エンド・ジョンソン社の二重特異性抗体Rybrevant(一般名:アミバンタマブ)が承認されているEGFRエクソン20挿入変異における活性も主張していない。今年(2023年)のAsco(米国臨床腫瘍学会)では、中Dizal Pharma社のスンボゼルチニブが、EGFRエクソン20挿入変異のNSCLC患者と、EGFR活性化変異を有するNSCLC患者(一部はタグリッソ使用後)に奏効を示したことが報告された。

Black Diamond社がEGFR変異NSCLCに初めて参入したのはエクソン20挿入変異に対してであり、BDTX-189とコードされた開発プロジェクトであった。しかし、BDTX-189はAsco 2021で期待を裏切り、Black Diamond社が事業の焦点を絞り、人員を削減したため、2022年4月に開発は中止された。また、エクソン20挿入変異は限られた領域であり、最も顕著な損失は米Spectrum Pharmaceuticals社のポジオチニブであることも明らかになった。

起爆剤

タグリッソの改良を目指す最も重要なプロジェクトはスンボゼルチニブだが、他には米Blueprint Medicines社のBLU-945とBLU-525、スイスのノバルティスファーマ社のナザルチニブ、米Scorpion Therapeutics社のSTX-241、米Theseus Pharmaceuticals社のTHE-349などがある。

Black Diamond社は、今年末までに膠芽腫におけるBDTX-1535のデータを提供したいと考えている。 また、BDTX-1535をタグリッソで増悪した抵抗性とドライバー変異を有するNSCLC患者に特化した拡大コホート試験を開始する予定である。この二次治療は、持続性がこのプロジェクトの可能性の真価を問われることになると米Stifel社は警告している。

2022年のコスト削減に助けられ、Black Diamond社の第1四半期末の預金残高は1億300万ドルで、2024年後半まで持ちこたえることができる。したがって同社にはまだ余裕があるが、236%の高騰の後でも企業価値評価はわずか2億2500万ドルであり、チャンスがあるうちにより多くの資金を調達した方がよいのは間違いないだろう。

■出典
black-diamonds-lung-cancer-pivot-delivers

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