【現地レポート】ASCO 2023 Plenary Session LBA2-直腸がん-


  • [公開日]2023.06.16
  • [最終更新日]2023.06.15

本年(2023年)のASCO(米国臨床腫瘍学会)では約7,000件の投稿があり、その中で4件がプレナリーとして採択された。このプレナリーセッションでは10分の発表の後、本発表についてコメントをするプレゼンテーションが10分間行われた。その模様をレポートする。

ABSTRACT PRESENTATION 2

PROSPECT: A randomized phase III trial of neoadjuvant chemoradiation versus neoadjuvant FOLFOX chemotherapy with selective use of chemoradiation, followed by total mesorectal excision (TME) for treatment of locally advanced rectal cancer (LARC) (Alliance N1048).
PROSPECT試験:局所進行直腸がん(LARC)に対する術前化学放射線療法と選択的術前化学放射線療法を伴う術前補助FOLFOX化学療法ランダム化第III相試験

Deborah Schrag, MD, FASCO, MPH
Memorial Sloan Kettering Cancer Center

2023年には世界中で約80万人が直腸がんと診断され、その約半数は局所進行腫瘍であるとされている。

局所進行直腸がん(LARC)の標準療法とされていた静注フルオロウラシル(5-FU)または経口カペシタビンを用いた化学放射線療法は、骨盤内再発を減少させることで無病生存期間DFS)を改善するが短期および長期の毒性を伴う。術前化学放射線療法は、術後化学放射線療法よりも毒性が低く、骨盤内再発率が低いため、過去20年間にわたり標準治療となっている。

具体的にこの標準治療は、まず約5週間半の化学放射線療法を行い、次に、直腸間膜全摘出手術、回復後に術後補助化学療法を行う。術後補助化学療法では通常、FOLFOXを8サイクル、またはCAPOXを6サイクル行う。この治療法により患者の約3/4が寛解し、局所再発率は1桁の範囲に抑えられた。

しかし、化学放射線療法には、骨盤への照射に伴う腸、膀胱、性機能の障害、骨盤骨折や二次悪性腫瘍、骨髄予備能と生殖能力の障害、さらには早発閉経のリスク増加など、かなりの長期毒性が存在し、50歳未満で直腸がんと診断されることが増えているため、これらは問題となっている。

PROSPECT試験では、術前化学放射線療法を受ける群(標準療法群)と、FOLFOX6サイクルおよび選択的に術前化学放射線療法を受ける群(介入群)に割り付けた。選択基準は、臨床段階T2リンパ節陽性、T3リンパ節陰性、またはT3リンパ節陽性(cT2N+、cT3N-、cT3N+)のLARC患者であった。

2012年6月から2018年12月までに、主に北米の264施設から1,194人が登録され、1,128人が標準治療群と介入群にランダムに割り付けられ、それぞれのプロトコルに従って治療を開始した。年齢中央値は57歳、34.5%が女性、61.9%が臨床的に陽性のリンパ節を有していた。介入群では、FOLFOXを6サイクル受けた後、再度病期の判定を行い、直腸腫瘍のサイズが20%以上減少した場合に患者は直接手術に進み、腫瘍が20%減少していない場合は手術前に化学放射線療法(FOLFOXまたはCAPOX)を受ける。なお、介入群の585人中53人(9%)が術前化学放射線療法を実施した。DFSは227件のイベントおよび追跡期間中央値58カ月後に分析された。

結論:化学放射線療法を選択的に使用したFOLFOX化学療法群(介入群)では、術前補助療法としての化学放射線療法(標準療法群)に対し非劣性を示した。

術前化学放射線療法を選択的に使用するFOLFOXは、cT2N+・cT3N-・cT3N+LARCに対し、安全で有効な治療選択肢の1つである。

Clinical trial information:NCT01515787.Research Sponsor: U.S. National Institutes of Health


(超満員となった現地会場の様子)

Discussion of LBA2

Corrie Marijnen, MD, PhD
Netherlands Cancer Institute

本試験の素晴らしいところは、PRO-CTCAE患者報告アウトカムの指標のひとつ)が導入され、患者が報告した毒性が示されたことである。

臨床試験の評価には効果の側面とコストの側面が関係している。コストとは金銭的なことだけでなく、毒性や生活の質も含まれる可能性がある。患者はより良い効果とより低いコストを望むのは明らかである。

臨床医は数パーセントの効果について考えるが、患者の視点は異なるかもしれない。そこで、患者が選択的術前化学放射線療法を受けるまでの視点と臨床医の視点に関する研究をおこなった結果、両者の違いは明らかだった。

PROSPECT試験に入る前に、合理的根拠を確認する必要がある。術前補助化学療法には、原発腫瘍縮小により手術が容易になる可能性、微小転移の早期対処による無病生存延長の可能性、術後コンプライアンスの向上の可能性などが考えられる。

介入群はすべての腫瘍学的アウトカムにおいて非劣性を示したが、毒性に注目すると治療中の全体的な毒性は介入群の方が高い。注目したいのは、標準療法群では下痢が多く、介入群では神経障害が明らかに多いことだ。しかし、12カ月時点のアウトカムでは、標準療法群でより重篤な神経障害が存在することが示された。

また、このPROSPECT試験の対象は局所進行直腸がんであるが、局所進行直腸がんは国ごとに定義が異なることを、認識する必要がある。

従前の臨床試験の結果も検討した結果、標準治療が現在の術前補助化学放射線療法からFOLFOXとそれに続く選択的化学放射線療法に置き換わる可能性があると私(Marijnen氏)は考える。これによる最大の利点は、長期にわたる放射線療法に関連した毒性が減少させられることである。

しかし、患者をどのように治療するかを考える場合、患者の職業や趣味に応じて選択がことなる可能性があるため、すべてのケースで意思決定を共有する必要がある。

そして最後に重要なことは、術前補助化学療法をまったく必要としない患者を特定することに真剣に取り組む必要があるということである。

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