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共同意思決定(SDM)の今とこれから:患者さんの理想の治療、理想の人生の実現を目指して

[公開日] 2024.10.10[最終更新日] 2024.10.10

目次

9月27日、アストラゼネカ株式会社主催の「後悔しない選択のために ~胆道がんにおけるシェアード・ディシジョン・メイキングの実態と課題~」と題したセミナーが開催された。本セミナーでは、アストラゼネカ社が2024年に実施した、胆道がん患者調査レポートをもとに、90分にわたって講演およびディスカッションが行われた。

1、安田一郎先生(日本胆道学会 理事長 富山大学 第三内科)による胆道がんの概要

会冒頭、安田先生は、胆道がんの概要を説明。胆道とは、胆汁が流れる道であり、胆管・胆のう・十二指腸乳頭部から成る。日本における部位別がん死亡数の第6位であり、胆のう・胆管がんの5年相対生存率は24.5%と、膵がん(8.5%)の次に低く、予後不良のがんのひとつと言える(がんの統計2024.がん研究振興財団より)。 胆道がんの症状として、黄疸が多くみられるが、無症状のことも多く、早期発見や高リスクの判断が難しい特徴を持つ。診断は、血液検査と腹部超音波検査による一次スクリーニング、CTやMRIなどの二次スクリーニング、そして更にPETや病理学的検査による3次スクリーニングの3ステップで確定診断に至る。 治療方針は、切除の可否によって、手術あるいは全身療法・緩和治療かが決まる。手術は、がんの場所や範囲によって術式が変わる非常に複雑なものであるが、根治が可能な治療法である。一方の全身療法では、胆道がんにおいて使える薬物療法がまだまだ少ない現状がある。ただし、安田先生によると、免疫チェックポイント阻害剤をはじめとする新しい薬剤も増えつつあり、また、特定の遺伝子異常に基づくプレシジョン医療の導入も進んでいるため、胆道がん患者さんの治療選択肢は今後も増えていくことが期待される。

2、中山健夫先生(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野)によるSDMの解説

「エビデンス」と「エビデンスに基づく医療」の違いは何か。講演冒頭に中山先生は問いかけ、科学的な根拠だけで行う医療は不十分だと指摘した。 エビデンスに基づく医療のためには、最良の研究による科学的根拠に加え、個々の経験や技能などを含む臨床的な熟練、患者さんの意向や価値観、および患者さんが治療を受ける状況を考慮する必要がある。そして、患者さんと医療スタッフとの間で交わす対話によって成立するSDM (shared decision making)の重要性を中山先生は強調した。 SDMは、よく「共同意思決定」と言われるが、エビデンスの限界と価値観の多様性の調和を目指す医療コミュニケーション形態である。共有すべき具体的なものは、①情報(医療者側からは治療選択肢やリスクとベネフィットなど、患者側からは価値観やライフスタイルなど)➁治療目標➂判断に対する責任、の3つ。既に最適な治療法が確立されており、医療者が示す治療選択肢への着地が期待される場合のコミュニケーションをインフォームドコンセント(IC)というのに対し、着地し得る選択肢が複数ある場合にSDMが必要になる。 アストラゼネカ社が実施した胆道がん患者さんを対象とした「2024年胆道がん患者調査レポート」(調査期間:2024,7.3-7.24、回答者数:早期59名と進行・再発15名)によると、治療開始までに半数以上の患者さんががんの状態や治療についての説明を受けていた一方で、今後の見通しに関する説明を受けた患者さんは16%にとどまっていた。また、患者さんが大事にしたいと思う全項目(家族に負担をかけたくない、仕事を続けたい、など)に関して、それを実際に医師に伝えた割合は低い、という結果であった。更に、今後の過ごし方を医師と十分に話したと感じている患者さんは24%にとどまっていたが、意思決定における医師以外の医療従事者の関与も少なかった。 同結果を受けて中山先生は、SDMにおいて、共に探し、選び、迷い、背負い、笑うことの重要性を強調した。

3、ディスカッション

胆道がんの意思決定プロセスについて

胆道がんの治療や見通し、そして意思決定のためにやるべきことは、手術可能な早期がんか、手術が難しい進行がんか、によって大きく変わる、と中山先生。早期がんであれば、手術によって根治を目指す、という正解が決まっているため、丁寧なICが重要であり、医師からの情報提供だけでは不十分な部分を患者さんまたはそのご家族による情報収集で補っていくことになる。一方進行がんの場合、根治が難しいという厳しさがあり、治療方針も複数あるため、主治医とコミュニケーションをとりながら治療を選択していくことが必要になる。 自身が何を大切に生きていきたいか、どんな人生の閉じ方をしたいのか、ということも、忘れてはいけない、と中山先生。また、自身で情報検索する際には、“信頼できる”Webサイト(がん情報サービスをお勧め)かどうかを確認すること、また効果がはっきりしていない治療法に飛びつかないことが重要だと強調した。 同議論を受けて安田先生は、進行期における治療選択肢が増えてきている現状では、治療選択の際に、患者さんの価値観や今後の生活に対する希望(治療と仕事の両立など)にもっと耳を傾けることが必要だと改めて実感した、とコメントした。

情報収集について

患者さんやご家族が情報を集める際には、Webサイトだけではなく、周りには仲間が沢山いることを忘れないでほしい、と中山先生。特に胆道がんは、専門性の高い病院(拠点病院など)で確定診断されることが多いため、がん相談支援センターなどの設備が充実しており、医師よりも気軽に相談できる医療スタッフがいることを知っていることは大切だ。 また、医療の進歩に伴い、長期予後が難しいとされてきたがん(膵がんなど)でも患者会が充実してきており、胆道がんの患者会の活動にも期待できる、と中山先生は述べた。

セカンドオピニオンの活用法

セカンドオピニオンはこの5年間を見ても増加傾向にあると感じており、今や常識になりつつある、と安田先生。セカンドオピニオン先を探す際の参考としては、専門医や専門施設が掲載されている胆道学会のホームページやがん情報サービスが挙げられた。

後悔しない意思決定に重要なことについて

「2024年胆道がん患者調査レポート」結果の中で、治療の進め方に対して医師と患者さん自身が合意したとの回答は88%であったが、治療選択肢を一緒に選んだとの回答は72%、更に治療方法について徹底的に比較検討したとの回答は57%となり、医師とのより密なコミュニケーションが必要と考えられるプロセスになるほど、当てはまると回答した患者さんが低い傾向にあった。 この結果を受けて安田先生は、情報収集や医師との議論にはかなりのエネルギーが必要であり、特に高齢の患者さんの場合には、医師にお任せする方が負担が少ないのではないか、と述べた。また安田先生は、医師に判断を委ねる、という選択も、ひとつの患者さんの意思決定として尊重されるべきものだと語った。 医師側から患者さんに、余命やその後の生活について具体的に質問しづらい部分もあるため、患者さん側から希望を伝えてもらえるとありがたい、と中山先生。医師が患者さんのためにと思ってやっていることと、患者さんの希望がマッチしていない可能性を指摘し、患者さんとコミュニケーションを取りやすい看護師などの医療スタッフも含めて連携して対応していきたいと話した。 また安田先生は、今は“1日でも長く生きること”を第一目標に治療してきた昔とは時代が異なってきており、どれだけ生きるか、よりも、どう生きていきたいか、という患者さんの人生の質を考慮しながら治療選択をしていく必要があると感じている、とコメントした。 質疑の中では、胆道がんの早期発見のためにできることが話題となった。これに対して安田先生は、現在血液検査で早期発見につながるバイオマーカーについて(先生自身の施設も含めて)探索研究が進んでおり、近い将来血液検査によってある程度正確な一次スクリーニングが可能になる期待を示した。ただし現状では、血液検査で少しでも異常が見つかった場合にはCT/MRIなどの画像検査を受けること、また検診でも安価で簡便にできる超音波検査で太くなった胆管や胆嚢ポリープが見つかった場合には、専門病院への受診を考えてほしい、と安田先生は呼び掛けた。 最後に、診断直後から実際の治療が開始するまでの間、宙ぶらりんで不安な時間に感じる患者さんは多いと思うが、その時こそ色々と考えるチャンス、と中山先生。しっかりとご自身のこれからについて、良いことも悪いことも含めて考えを深めたうえで、医療スタッフと話し合っていっていただきたい、と締めくくった。
ニュース 胆道がん SDM

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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