9月26日、アッヴィ合同会社は「乳房再建の選択肢が当たり前の世の中へ~乳がんになった後も、患者さんが自分らしく生きるために~」と題したメディアセミナーを開催した。
同セミナーに登壇した明石定子先生(東京女子医科大学病院 乳腺外科 教授・基幹分野長)によると、乳がんの罹患者数は20年後も横ばいと予測されており、若い女性に多い特徴があることから、長い人生を考慮した治療が必要である。特に、乳がん女性の苦痛において、外見に関する項目は上位6割を占めること、また外見の変化によって社会生活に大きな支障がでることが報告されている。そのためアピアランスケアの重要性は高く、実際第4期がん対策推進基本計画においても、アピアランスケアの重要性が言及されている。

乳房切除は、乳がん女性の苦痛の中で、髪の脱毛に続く第2位であるにもかかわらず、日本の乳房再建率は他国と比較しても非常に低いという問題がある(日本12.5% vs 米国40.0%、韓国53.4%)。また、都道府県毎のばらつきが大きいことも課題である。
そこで今年の7月、乳房再建の国内普及を目的とした活動の一環として、「乳房再建ガイドブック」が作成された。統括委員長を務めた佐武利彦先生(富山大学学術研究部医学系形成再建外科・美容外科)は、乳がん患者さん・ご家族が最初に手にする乳房再建の専門テキストを目指した、と話す。同ガイドブックの特徴として、基本事項から最新のトピックまでを網羅していること、乳房再建診療ガイドライン2021年版を参照できるようにするとともに、ガイドラインに掲載のない有用な情報も載せていること、取り上げている質問項目が充実していること(例えば、患者さんからの質問であるPATIENT QUESTIONS (PQ)などを設けている)などを挙げた。
佐武先生によると、同ガイドブックの動画サイトの作成や、日本に住む海外国籍の方向けの外国語版の作成などを進め、乳房再建の国内における理解を広めていく予定だ。
実際に乳房再建を経験し、その後NPO法人エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)を設立した真水美佳氏は、乳房再建についての情報提供が十分ではないことや周囲の理解が得られないこと、地方と首都圏の医療格差があることなどがハードルになっている、と指摘。E-BeCの活動として、乳房再建ミーティングやセミナーなどを定期的に実施しており、これからも、望む人は誰でも乳房再建手術が受けられる社会を目指して活動を続けていきたい、と想いを語った。
乳房再建を専門に数多くの患者さんの想いに応えてきた岩平桂子先生(医療法人社団ブレストサージャリークリニック)は、実際の患者さんの写真を提示しながら、自身の経験をもとにした再建の具体的な方法やメリット・デメリットを説明。コロナ禍において、再建は不要不急として優先度が下がる傾向にあるが、乳がん患者さんの重要な選択肢であり、正しい情報を知ったうえで自分に合った選択をしてほしい、と呼び掛けた。また、特に地方在住や高齢の患者がんほど再建のチャンスが得られにくい現状を指摘。乳房再建はQOL向上のために全ての患者さんにとって重要である、とし、正しい情報・選択肢の情報発信の必要性を語った。
ディスカッションでは、乳房再建が全国的になかなか普及しない現状とその解決策が話題となった。
明石先生は、ただ治せばいい時代ではないため、一人の患者さんに対して考慮すべきことが多いにもかかわらず、医療者の人数が増えていかない現状を課題として挙げた。特に地方は、術後の長期的なケアを乳腺クリニックに任せることができる都心と違い、手術を担当した施設が術後の薬物療法も含めて全て担当する必要があるため、乳房再建のことまで手が回らないケースも多く、根本的に乳腺外科医を増やす必要性がある、とコメントした。
佐竹先生は、乳腺外科医と形成外科医のコラボレーションの重要性を強調。地方の形成外科医は、生きていくために必要な機能の再建(例:頭頚部再生)が最優先となるため、乳房再建までどうしても手が回らない。そのため、地方の乳房再建専門の形成外科医を増やす第一歩として、乳房再建の経験豊富な都心の医師を地方都市へ迎え入れる、または逆に地方の形成外科医が都心で学ぶ機会を設けることなど、自身の経験も交えて解決策を提案した。
岩平先生は、再建に対して前向きな乳腺外科医が多い沖縄を例に、再建に積極的で協力的な乳腺外科医の存在の重要性を強調した。これを受けて真水氏は、患者さんにとって、担当の乳腺外科医が再建を勧めてくれるかどうかという先生側の意志が非常に大きいことを指摘。更に、再建への周囲の理解がないために、自身の再建への希望を隠して伝えられずにいる患者さんも多く、再建に関するセミナーを開催しても、そこに参加することすら抵抗を感じている患者さんも少なくないようだ。これに対し真水氏は、患者さん自身の意識も変えていく必要がある、とコメントした。
以上のような、都心と地方のギャップがある中で、実際に地方で再建を希望する場合の具体策としては、手術と最低限の定期健診のみ都心の再建経験豊富な専門病院で受けること。それ以外のケアは地元の病院でできることばかりだと岩平先生。地元でも、再建への理解があり、手術後のケアにも協力的な地元の医師を見つけることが重要だ。
最後に、再建が保険適応になってからもなかなか再建件数が増えない理由が話題となった。これに対し岩平先生は、自身で希望して再建を始めたにもかかわらず、主治医である乳腺外科医からの理解が得られずに中止した患者さんがいることを紹介し、乳腺外科医の再建に対する理解度、優先度が不十分であることを強調した。
10月8日は「乳房再建を考える日」として記念日登録されており、乳房再建の認知向上と理解促進が求められている。