日本人に特有の未知の発がん要因を発見:腎臓がんの全ゲノム解析から見えてきたこと国立がん研究センターら


  • [公開日]2024.05.15
  • [最終更新日]2024.05.15

5月14日、国立がん研究センターは「世界最大規模の腎臓がんの全ゲノム解析から日本人の7割に未知の発がん要因を発見」と題した記者会見を開催。過去最大の腎細胞がんの全ゲノム解析の結果が報告された。
研究の詳細は、柴田龍弘氏(同研究センター研究所 がんゲノミクス研究分野 分野長)より説明があった。
腎臓がんの約8割を占める腎細胞がんは、発症頻度が地域ごとに異なると報告されており、日本における罹患率は増加傾向にある。発症の危険因子として喫煙、肥満、高血圧、糖尿病が知られてるが、これらの因子の関与は50%未満の症例に限られているとも言われており、地域ごとの腎細胞がんの発生頻度の違いは不明であった。

今回の研究では、腎細胞がんの中でも最も頻度の高い淡明細胞型腎細胞がんに着目。発症頻度の異なる11か国から962症例(日本人36例を含む)のサンプルを収集し、全ゲノム解析による発がん要因を解析した。

がんはさまざまな要因によって正常細胞のゲノムに異常が蓄積することで発症するが、その遺伝子の突然変異の起こり方には一定のパターン(現時点で50種類以上が同定されている)があることが明らかになってきている。これを変異シグニチャーと呼び、中でも点変異のシグネチャーはSingle Base Substitution Signature(SBS)という。

今回の解析結果から、日本人の淡明細胞型腎細胞がんの72%の症例で「SBS12」という特有の変異パターンが検出され(追加の日本人症例61人でも75%で検出)、日本における「SBS12」を誘発する要因への曝露頻度が高いことが示唆された(他国におけるSBS12の検出割合は2%程度に留まっていた)。柴田氏によると、「SBS12」発現の要因は現在のところ明らかではないものの、遺伝子変異パターンから、外的な環境要因である可能性が高いようだ。

続いて、既に淡明細胞型腎細胞がんの危険因子であることが知られている加齢、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病と変異シグニチャーとの関連を調べた結果、「SBS4」とたばこ由来の発がん物質との関連が示された。一方の肥満、高血圧、糖尿病に関しては、特定の変異シグネチャーとの関連は認められず、遺伝子変異誘発以外の間接的な要因を介して発がんに関わっていることが示唆された。

最後に、変異シグニチャーとドライバー遺伝子変異との関連を解析。今回日本人症例で多く検出された「SBS12」は、がんドライバー遺伝子変異に特に多いわけではなかった。この理由として柴田氏は、まだ「SBS12」を持つ症例の全ゲノム解析データ数が少なく、十分な統計解析ができなかった可能性を指摘し、今後の研究課題であると述べた。

今回の研究により、日本人における特徴的な変異パターンが見つかり、今後その要因の同定のために国内における他施設共同研究によって全ゲノム解析が実施される予定だ。柴田氏は、今後原因物質やこの変異パターンによって誘発されるドライバー異常が明らかになれば、日本における淡明細胞型腎細胞がんの新たな予防法や治療法の開発が期待されるとし、説明を締めくくった。

なお、同研究結果は5月1日に英国専門誌「Nature」に掲載されている。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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