「共同から共創・共奏・共想を目指す」国立がん研究センター 中央病院 東病院 新病院長就任会見


  • [公開日]2024.04.26
  • [最終更新日]2024.04.26

国立がん研究センター中央病院ならびに東病院は4月25日、2024年度の新病院長就任会見を実施した。中央病院、東病院ともに前病院長が昨年度末をもって任期が満了したため、新たな病院長が就任することとなった。

国立がん研究センター理事長の中釜氏は病院長の選出にあたって、管理者としての素質に優れているだけでなく、がん研究センターは臨床研究ゲノム医療の拠点であるなど、さまざまな機能において日本のがん医療をけん引するセンターであることから、医療安全に関する知識と経験および高度医療の提供、開発、評価を行う技能を有していることが重要な要素であった、と述べた。

冒頭の理事長挨拶で中釜氏は両院長について以下のように述べた。

「中央病院の瀬戸氏は東京大学医学部附属病院の病院長の経験があることやがん拠点病院の病院長連絡会議の議長としての経験も鑑み、がん研究センターの病院長としてのミッションを担うに十分な資質があると考えています。

東病院の土井氏はがん研究センターでの経験が長く、前病院長の下で副院長として病院の運営にあたってこられ、医療安全、経営だけでなく、東病院が得意とする開発分野において先導的な役割を果たされてきた経緯から選任いたしました」

「患者ファーストのより良い医療」中央病院のミッション、病院長としての抱負

会見では両院長から改めて国立がん研究センター中央病院、東病院それぞれが担う役割、ミッションと病院長としての抱負が述べられた。

中央病院 病院長に就任された瀬戸氏は、国立がん研究センターとして、研究所、中央病院、東病院、がん対策研究所、先端医療開発センター、がんゲノム情報管理センターの6つの部署が絶えず連携し協力しあうことで、最大のミッションである「世界をリードするキャンサーセンター~たゆまぬ革新により、研究開発成果を最大化~」を達成することが重要な役割であると述べた。

中央病院では診断から治療までシームレスなペイシェントジャーニー実現や、IVR(画像下治療)を含めた最新治療の提供だけでなく、医療提供体制の均てん化として、日本においてより多くの患者が治験に登録しやすくなる分散型治験(DCT)や、診断時からの緩和ケア推進に取り組んでいる。

また、ハイボリュームセンターの役割として希少がん・難治がんや小児がん・AYA世代におけるがん対策もリード。世界をリードするキャンサーセンターとして一番重要である取り組みは治験であり、医師主導治験や患者申出療養、希少がんにおけるMASTER KEYプロジェクト*など多くの治験を行っているが、症例数が蓄積しづらいがんについて取り組むことが、がん研究センターの重要な役割であると同氏は述べた。

*MASTER KEYプロジェクト: 希少がんの研究開発およびゲノム医療を推進する、産学共同プロジェクト

2024年に中央病院として重点的に取り組むこととしてはさらなる治験受け入れ体制の充実、ゲノム医療においては臨床データを統合したデータの利活用の推進、臨床開発として医薬品開発の推進だけでなくTR(橋渡し研究=トランスレーショナル・リサーチ)*の推進やロボットなどを中心としたMIRAIプロジェクトなど医療機器開発の推進を挙げた。なお、このためにロボット手術・開発センターも新たに設置され、ロボットを受け入れるだけでなく、積極的に新たなものを開発していくことに取り組んでいくとした。

*TR(橋渡し研究=トランスレーショナル・リサーチ):アカデミアで研究者らが基礎研究を重ねて見つけ出した新しい医療の種(シーズ)を、実際の医療機関等で使える新しい医療技術・医薬品として実用化することを目的に行う、非臨床から臨床開発までの幅広い研究を指す

瀬戸氏は病院長として「すべては、患者ファーストであり、『よりよい医療』を目指す」ということを東京大学医学部附属病院時代より掲げており、がん研究センターとして、常に患者のことを考えたうえでトータルな医療として提供できるよう邁進することが最も重要なことであると述べた。

また、がん医療の今後の課題として、以下の3点を挙げた。

1)プレシジョン医療:プレシジョンメディシンとして、それぞれの患者にとって何が最適な治療であるか
2)医療DX:プレシジョン医療などを提供する上で医療DXが果たす役割は非常に大きく、いかに取り入れていくべきか、どのようにモデルホスピタルとして中央病院が役割を担っていくか
3)超高齢化社会への対応:来る超高齢化社会に対しては、治療の標準化において重要である治験に参加ができない超高齢者の治療ニーズにいかに答えていくか

特に、80歳以上のがん治療については十分なエビデンスがない部分も多く、日本の課題になっていることから、プレシジョン医療を提供するという意味でもがん研究センターが中心となり、これまで蓄積されたデータを活用し、そのエビデンスを示していくことが求められる役割であるとした。

これら課題に取り組むにあたってはがんに特化した特定機能病院であるがん研究センター中央病院と東病院、それぞれの特色の連携を強化し、日本のがん医療に貢献していくと述べた。

「次世代の医療」東病院のミッション・病院長としての抱負

東病院病院長に就任された土井氏は、副院長および先端医療開発センター センター長として、これまでも新しい医療を適切にできるだけ多くの患者に届けることを目指し、外来診療環境改善、先端的医療の提供だけでなく、遠方の患者も先端治療を受けられるホテルの設置・運営、RI(ラジオアイソトープ)仮設治療棟の設置などを行ってきた。

東病院では、国立がん研究センターが掲げる「がんにならない、がんに負けない、がんと生きる社会をめざす」というミッションに基づき、「世界最高のがん医療の提供 世界レベルの新しいがん医療の創出」を中心に大きく4つの取り組みを行ってきた。

1)プレシジョン医療とRWD(リアル・ワールド・データ)の創出としてSCRUM-Japan*を中心としたデータの蓄積、臨床試験の開発
2)世界最先端の医療を行うため、フェーズⅠ試験の中でも、初めてヒトに投与する段階の治験、FIH(First In Human=ファースト・イン・ヒューマン)試験をアカデミアの医師と連携して実施
3)遠隔手術支援システムやリモート外来チェックインのシステム導入などの医療DX
4)NCC(国立がん研究センター)発のベンチャーの育成、支援をとおした医療機器の開発

*SCRUM-Japan:2013年に開始した希少肺がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Japan」(現:LC-SCRUM-Asia)と、翌14年に開始した大腸がんの遺伝子スクリーニングネットワーク「GI-SCREEN-Japan」(現:MONSTAR-SCREEN)が統合してできた、日本初の産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト

また、東病院の特徴としてゲノム医療の均てん化を行うために、遺伝子データからどのような薬剤にアプローチできるのか、どんな薬剤が届くのか、患者が必要としている情報を広めるための「アカデミアアッセンブリ」という仕組みの構築なども実施。今後の取り組みとしては、次世代のプレシジョン医療、最先端医療、次世代医療DX、産業化支援を上げた。

次世代プレシジョン医療としては、近年の医薬品は特定のターゲットだけでなくそれに伴うバイオテクノロジーを組み合わせることで、より多くの患者に救う薬剤が開発されており、この開発方法を活用するためには、通院時だけでなくどのようなペイシェントジャーニーをたどってきたのかまでを踏まえた、患者にとって最適な医療の提供を構築することを目指している。

このプレシジョン医療を用いて、最先端医療としては、患者のQOL生活の質)維持を加味した健康長寿ではなく、活動長寿の提供を狙うと同時に、若い患者に対しても早い段階で治療、予防を行っていくと述べた。

また、これらの取り組みを東病院単独で行うのではなく、再生医療製品を作ることができる企業と連携しながら、新しい医療を作るための再生医療プラットフォームおよびオープンイノベーションへとつながるサイクルの構築に引き続き取り組くむことで、病院中心、ひいては国内の医療産業の育成を図るとした。

また、これまで10年の取り組みを通して、国内のフェーズⅠ試験の9割ががん研究センターで実施されるようになった実績に触れ、先端医療開発センターだけでなく、がん研究センター全体での協力体制を構築し、共同から共創・共奏・共想を目指すとのこと。

すべての患者に届く薬剤開発のため、すべての分野において中央病院と手を取り、活動することでがん医療の底上げに取り組んでいくとした。

中央病院 病院長 瀬戸泰之氏 略歴
1984年 東京大学医学部医学科 卒業
1984年 東京大学医学部附属病院第一外科
1992年 国立がん研究センター がん専門修練医(胃外科)
1998年 東京大学医学部 消化管外科(胃食道外科)講師
2003年 癌研究会附属病院 消化器外科医長
2007年 癌研有明病院 上部消化管 担当部長
2008年 東京大学大学院医学系研究科 消化管外科学教授
2019年 東京大学医学部附属病院 病院長(2023年3月まで)
2024年 国立がん研究センター中央病院 病院長

東病院 病院長 土井俊彦氏 略歴
1989年 岡山大学医学部 卒業
1994年 国立病院四国がんセンター 内科
2002年 国立がん研究センター東病院 内視鏡部 医員
2004年 国立がん研究センター東病院 病棟部 医長
2010年 国立がん研究センター東病院 消化管腫瘍科消化器内科 副科長
国立がん研究センター東病院 治験管理室 室長
2012年 国立がん研究センター東病院 消化管内科 科長
    国立がん研究センター早期・探索臨床研究センター フェーズⅠユニット ユニット長
2013年 国立がん研究センター早期・探索臨床研究センター 先端医療科 科長
2014年 国立がん研究センター東病院 副院長(研究担当)
2015年 国立がん研究センター東病院 先端医療科 科長
    国立がん研究センター先端医療開発センター 新薬臨床研究開発分野 分野長
2016年 国立がん研究センター先端医療開発センター 副センター長
2017年 国立がん研究センター東病院 医療情報部 部長
2022年 国立がん研究センター先端医療開発センター センター長(~現在)
国立がん研究センター橋渡し研究推進センター センター長(~現在)
国立がん研究センター先端医療開発センター 共通研究開発分野長(~現在)
2024年 国立がん研究センター東病院 病院長

関連リンク:
国立がん研究センター ウェブサイト

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