11月2日~4日、第64回日本肺癌学会学術集会が幕張メッセで行われた。同学術集会のセッション「複合免疫療法の最新開発情報と課題」の中で、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)+イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)療法に関する2つの演題が発表された。
日本における前向きランダム化NIPPON試験
1つ目は、「未治療非小細胞肺がんに対する化学療法+ペムブロリズマブと化学療法+ニボルマブ+イピリムマブの第3相試験(JCOG2007/NIPPON試験)」について、白石祥理先生(九州大学病院呼吸器内科)先生から発表された。
進行非小細胞肺がん(NSCLC)の一次治療において承認されている複数のプラチナ製剤併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の併用療法については、直接比較したデータがないのが現状である。JCOG2007試験は、未治療進行非小細胞肺がんを対象として、現在標準治療として広く使われているプラチナ併用化学療法+ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)に対して、プラチナ併用化学療法+オプジーボ+ヤーボイの有効性を前向きに比較検証する多施設共同ランダム化第3相試験。割付調整因子は病期/性別/組織型/PD-L1であった。
当初の予定登録数は両群で422人であったが、化学療法+オプジーボ+ヤーボイ群で11例(7.4%)の治療関連死亡(TRD)を認めたことから、2023年3月30日に本試験を早期中止した。最終的な登録数は全国48施設から295例であった。
有効性に関しては、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)は、化学療法+キイトルーダ群でそれぞれ7.4ヶ月と20.5ヶ月、化学療法+ヤーボイ+オプジーボ群で6.0ヶ月と23.7ヶ月、両群で差は認められなかった。PD-L1発現率別の解析においては、PD-L1陰性症例におけるPFSおよびOSは、化学療法+キイトルーダ群でそれぞれ6.5ヶ月と23.0ヶ月、化学療法+ヤーボイ+オプジーボ群で5.7ヶ月と17.4ヶ月であった。PD-L1発現率1−49%の症例におけるPFSおよびOSは、化学療法+キイトルーダ群でそれぞれ6.1ヶ月と16.4ヶ月、化学療法+ヤーボイ+オプジーボで7.6ヶ月と未到達であった。
安全性に関しては、血液毒性以外のものに関して、化学療法+キイトルーダ群と化学療法+ヤーボイ+オプジーボ群で非扁平上皮がんでは32.5%と54.8%、扁平上皮がんでは50.0%と68.8%であった。化学療法+ヤーボイ+オプジーボ群における11例のTRDの詳細は、サイトカイン放出症候群、心筋炎、肺臓炎等であった。これらの高いTRD率により、リスク因子の解析が実施され、「女性、好中球≧75000、抗生剤使用歴、年齢≧65歳、白血球数≧8600」という5つの因子が同定された。これらをもとに算出したTRDスコアによって患者選択が可能となることが示唆され、さらなる解析が望まれる。
ディスカッションでは、PD-L1発現率別の成績に関して、陰性症例では化学療法+キイトルーダ群が、発現率1−49%の症例では化学療法+ヤーボイ+オプジーボ群がそれぞれ優位性を示したことへの意外性が指摘された(従来の臨床試験の結果を踏まえて、逆の傾向が予想されていたため)。
これに対しては、患者背景のばらつきがあり真の傾向を反映していない可能性と、理論上言われてきた免疫抑制的な腫瘍環境に対するヤーボイ上乗せ効果が臨床では弱い可能性の2つが回答として挙がったが、明確な答えは不明なままだ。
また、現時点での結果を受けて化学療法+ヤーボイ+オプジーボ群の併用は推奨できない、と結論づけられたものの、今後の長期追跡によって十分な優位性が見られるサブセットが見られれば、推奨されるレジメンになり得る、と白石先生。なお、3年のOS結果が出るのは2026年の予定だ。
日本における観察研究LIGHT-NING試験
一方で、「LIGHT-NING 3rd interim analysis:1L nivolumab + ipilimumab +/- chemotherapy for NSCLC in Japan 」について山口哲平先生(愛知県がんセンター呼吸器内科)から発表された。
こちらは2020年11月27日から2021年12月31日までに上記(化学療法±ヤーボイ+オプジーボ)のいずれかの治療を開始した未治療の転移性非小細胞肺がんに関して、医療記録から収集された48施設でのリアルワールドデータを分析した多施設観察研究。今回は、3回目の中間分析として525人の患者の安全性と有効性が報告された。
追跡期間の中央値は14.1ヶ月。525人の患者のうち、58.7%が化学療法+ヤーボイ+オプジーボ併用治療を受け、41.3%が化学療法+オプジーボ併用療法を受けた。年齢の中央値は70.0歳、女性が18.7%、ECOG PS 0-1が89.1%であった。
安全性に関しては、グレード3-4の治療関連の有害事象(TRAE)が化学療法+ヤーボイ+オプジーボで49.7%、化学療法+オプジーボで26.7%、TRDはそれぞれ3.6%と3.2%、また治療中止につながるTRAEはそれぞれ56.2%と59.9%であった。従来の臨床試験と比較して新たな安全性の懸念はなかった。
有効性に関しては、PFS、OSともにPD-L1発現状況に関わらず、両群のデータは類似していた。
ディスカッションでは、特に安全性に関するNIPPON試験とリアルワールドデータの結果の差が話題となった。今後両試験に登録されたオーバーラップ症例の割合などの詳細な解析が期待される一方で、前向き臨床試験であるNIPPON試験と、実臨床データの後ろ向き解析であるLIGHT-NING試験の結果を単純に比較できない難しさもあり、なかなか結論が出ないところである。