患者さんの心や人生をアピアランスケア:治療選択肢の一つになる日を目指して~第42回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー~


  • [公開日]2023.09.28
  • [最終更新日]2023.09.28

9月25日、肺がん医療向上委員会主催のセミナーがオンラインにて開催された。今回はアピアランスケアに焦点を当て、90分に渡る講演・ディスカッションが行われた。

セミナーの冒頭に、堀口和美先生(アピアランスビューティクリニック 院長)がアピアランスケアの概要を説明した。

堀口先生は、乳がん外科医時代に出会ったある患者さんの一言がきっかけで、患者さんの苦痛の上位にある治療に伴う外見の変化が軽視されてきた事実に気づき、そこでアピアランスケア(=医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し患者さんの苦痛を軽減するケア)に出会ったという。

がん治療が確実に進歩している一方で、外見の変化に起因する苦痛は、命と引き換えに仕方のないものだと考えられてきた背景がある。現在、サバイバーシップ支援において、就労支援、自殺防止と並んでアピアランスケアが掲げられているものの、医療従事者が勉強する段階であり、患者さんに還元されるのはまだまだ先だ。

また、個別性が高く臨床試験によるエビデンス構築が難しいこと、保険範囲外で治療をしなければならないことも普及のハードルになっている。更に、がん治療と美容医療、両方に高い専門性があるのは現状自身だけだと堀口先生。がんの病状や患者さんの治療背景を把握し、最先端の適切なケアを適切なタイミングで提供できる強みがあるため、専門家の存在は重要だ。

アピアランスケアは単なる外見の美容的問題ではなく、がん治療の一環であることを強調したい、と堀口先生は言う。患者さんが安心して社会生活を送りながらがん治療を受けるためのツールの一つであり、がん治療におけるスタンダードオプションとして、患者さんが自由に選択できる時代が来てほしい、と将来への希望を語った。

実際に肺がん治療を経験した青島央和氏(肺がん患者会ワンステップ)は、がん自体のショックに加えて脱毛が起きたことで、なかなか現実の自分の姿を受け入れ難かった、と治療当時を振り返る。まだアピアランスケアという言葉も普及しておらず、1人でウィッグを探した経験を語った。

脱毛についての相談ができたときは、外見の変化が解決しただけでなく、次の治療や仕事への復帰を前向きに考えられるまでに気持ちが回復した、と青島氏。アピアランスケアは、内面からエネルギーが湧いてくる非常に重要な治療であるとし、もっと気楽にアクセスできる治療になってほしいと期待を語った。

ディスカッションの中では、新しい概念としてのアピアランスケアの認知度の低さも指摘された。その解決策の一つとして、新しい概念としてのアピアランスケアを普及させるために、がんサバイバーのインフルエンサーの方と学会とが連携してメッセージを伝えていくことが提案された。
また、保険診療として受けることができず、患者さんの経済的な負担になっていることも課題であり、まずは頻度が高い症状に限定した試験を計画し、臨床試験グループと協働してエビデンス構築を進めていくことが提案された。

治療薬の劇的な進歩が続く肺がん領域の専門医が、アピアランスケアについてどうやって患者さんに伝えてプロに繋ぐか、という点も議論となった。まずは、いつどのような外見的変化が起きるのか、という明確なスケジュール感を示すことが重要だと堀口先生。実際に青島氏も、脱毛がいつ頃どの程度起きてくるのか何もイメージが湧かないまま治療を進めていたことも不安要素だったとコメントした。

今はまだ、アピアランスに特化した共通の患者さん向け資材やWebサイトがないため、病院ごとにオリジナルのリーフレットを作ることもお勧めだと堀口先生は言う。また、ネット上には、科学的根拠がない危険な情報や治療の宣伝がたくさん掲載されているので注意してほしい、と懸念を示した。

最後に、アピアランスケアの実際の治療内容に患者さんの背景因子(がん種、性別、年齢)は影響するかという点が質疑として挙がった。堀口先生の回答としては、患者さんの内面とも密接に関わる外見のケアに関して、背景因子だけで明確に治療内容を変えることはないとのこと。その方が治療を終えて一般社会に戻った時にどんな役割を担っていくのか、仕事や理想の日常生活の内容によって悩みの種類や重視するポイントが異なってくるため、そこを最優先に治療を選択していくようだ。

なお、堀口先生はオンライン診療によっても対応を実施しているとのことであり、真剣に向き合う気持ちがあれば、地域に関係なく誰でもケアを受けることができる、とコメントした。

最後に閉会の挨拶として小栗鉄也先生(肺がん医療向上委員会副委員長)は、肺がんの治療が急激に進んだ分、患者さんの気持ちがおいてけぼりになっていたことに気が付くことができた、コメントした。そしてアピアランスケアは、患者さんの社会とのつながり、心の健康、治療への意欲などを取り戻すことができる重要な治療である、と改めて語り同セミナーを締め括った。

【プログラム】
<Opening Remarks>18:00-18:05
司会:鈴木 実(肺がん医療向上委員会委員長/熊本大学呼吸器外科)

<講演>18:05-18:45
「アピアランスケアってなに?」
演者:堀口 和美(アピアランスビューティクリニック 院長)

<ディスカッション>18:45-19:25
ファシリテーター:柳澤 昭浩(日本肺癌学会Chief Marketing Advisor)
パネリスト:堀口 和美(アピアランスビューティクリニック 院長)
パネリスト:中西 洋一(肺がん医療向上委員会オブザーバー/北九州市立病院機構)
パネリスト:池田 慧(神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科)
パネリスト:大澤 友裕 (岐阜市民病院薬剤部)
パネリスト:青島 央和(肺がん患者会ワンステップ)

<Closing Remarks>19:25-19:30
小栗 鉄也(肺がん医療向上委員会副委員長/名古屋市立大学地域医療教育研究センター)

■参考
肺がん医療向上委員会 第43回肺がん医療向上委員会 WEBセミナー

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